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立春1

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 樹氷を見に行っていためぐみちゃん達が戻ってきて、色々感想や写メを見せてもらったり聞いたりしていたら、あっと言う間に日付は越えて、解散という運びになった。
 翌日は晴天で、来た時と同様に旅館の人が駅まで送ってくれた。
新幹線までの時間が少しあって、私は会社の人たち用にお菓子を買って皆がいる場所に戻って行ったら、バラバラに行動していた皆が待っていた。

「あ、ちーちゃんおかえりっ。会社の人たちにお土産買えた?」
「うん。色々美味しそうで迷っちゃった。」
買ってきた袋をめぐみちゃんに見せていると、田原さんが新幹線のチケットを渡してきた。

「帰りは申し訳ないんですが、皆バラバラです。」
「なんでーっ?」
「あ?んなの買うの忘れてたからに決まってんだろ。はい、これ伊藤さんの分ね。」
「あ、ありがとうございます。あのチケット代おいくらだったんですか?」

バラバラって聞いたときの少しのショックを私は押し殺して、田原さんからチケットを受け取りながら聞くと、
「いいよいいよっ!女の子から貰えないし、気にしないで。じゃあ、時間と乗り場所間違えないでね?」

そう言うと田原さんは、国重さんたちがいる喫煙スペースへと歩いていった。
遠目だけど、煙草を嗜む国重さんは他の人よりカッコよく見えた。
多分、もう会う事もないだろうから、私はチケットを握り締め遠めに談笑をする国重さんを見ていた。


 時間になってそれぞれ荷物を持ち、皆バラバラに歩いていく。
めぐみちゃんとは東京駅でと約束して私は、チケットに印刷された自分の席を探した。
 私の乗る車両は人が少なくて、自分の席はすぐに見つけられた。通路側より窓際がいいなって思って探していたので窓際だったのを見つけたときは、特した気分になった。
 携帯と暇つぶし用の小説を手提げバッグからだして、あとの荷物は網棚にあげ、キャリーケースは足元に置く。やっと落ち着いて座ったら、

「隣いいですか?」
とここ数日で聞きなれた声がして見上げてみてみれば、国重さんがいた。

「・・・・・・・・えっ?!バラバラじゃなかったんですか?!」
「いやね、俺も自分の席を見つけて隣が伊藤さんというのに驚いているんだけどね。」
テキパキと自分の荷物を網棚に載せて、隣に座ってくる。

 ゆるやかに車両が走り出してから暫くして、国重さんが声を掛けてきた。
「伊藤さんは、何のお仕事してるの?」
「パチンコを運営している会社の事務員です。私の口からパチンコっていう言葉が出てくるのが皆珍しいのか、びっくりされるんですけどね。」

横目でチラリと国重さんの様子を伺うと、とくに変わった感じもなく、座席の肘置きに頬杖をついて、こちらを見ている。

「確かに一番程遠い業種かもね。なんで、その仕事を選んだの?って聞いてもいい?」
国重さんを直視できないので、国重さんのお腹辺りを見ながら言った。
「不純な動機ですよ。会社所有の寮があって、寮の家賃も破格でしたしお給料も良い。それだけだったんです。」
「アパレル系には進もうと思わなかったの?」
「全然!寧ろそっち系には行きたいとも思いませんでした。恥ずかしいんですが、私、ファッション雑誌って買ったことがないんです。ファッションもそこまで興味がないと言いますか・・・。それに、そういう所を受けるにはビジュアルもないと怖くて行けませんし。国重さんはどういうお仕事されているんですか?」
「説明するより名刺を渡したほうがいいかな。ちょっと待ってね。」

そういうと、立ち上がって網棚に載せたバッグから小さなパスケースっぽいものを出してきた。
「はい。これ俺の名刺。」
会社では、名刺を用意する側で、他社の名刺を見たことがない私はドキドキしながら国重さんのを受け取る。
そこには、彼の名前と社名、部門と連絡先が書かれていた。
<CSRテレビ局ファシリティ推進部《国重 啓》>名前の下には、ローマ字表でhiraku kunishige と書かれていて、どうやら啓という字はひらくと読むらしい。
テレビ局というのもびっくりだし、名前が啓さんと読むのも珍しいしで、どう話したらいいのか考えていると、

「この名刺は俺の私用の連絡先も載っているものだから。伊藤さんのも教えて欲しいんだけどな。」
私用の連絡先?!これ、会社用の連絡先じゃなかったの?!てか、私用の連絡先が載っている名刺を持ち歩いてるって・・・・!!
「伊藤さん?・・・・あっ、この名刺は総務の発注ミスで出来たもので、普段使いしていない名刺なんだ。仕事用のはこっち。」
ぐるぐると考えていたら、横からもう一枚名刺が出てきた。
ほらここ。と指された指先には先ほどの載っているアドレスと番号が違うものだった。
「・・・・・・・・どこからお話をしたらいいのか迷っていました。国重さんってテレビ局の方なんですね。」
「やっぱり珍しいよね。まあ、仕事内容は他の仕事に比べたら特殊かもなぁ。でも、田原も臨床技師なんだよ。ああ見えて病院で血液採取している奴だからね。」
「ええーっ?!見えません!!全然見えません!!じゃあ今井さんは?」
「今井は、携帯ショップの店長。まあ、俺らの中では、普通かな。」

・・・・・普通なの??店長って普通なの?もしかして、めぐみちゃんの知り合いってこんな人ばかりなの?
 頂いた名刺を無くさないように大事に、持っていた文庫本の読みかけ部分に入れる。
「それで、伊藤さんの連絡先って教えて貰えないのかな?」
折角忘れようとしていたのにっ!国重さんは脚を組んでこっち見てるし!!!断るにしても、どう断るよ!!携帯ないんです。これ言ったところで、文庫本の上に携帯があるし、まあ、連絡が来るとは思えないので、教えるだけ教えとけばいいか。私用じゃない国重さんの名刺の裏に私のメルアドと番号を書いて渡すと、嬉しそうに上着のポケットに仕舞う国重さんが居た。



 国重さんとの会話は楽しくて喋っていたつもりがいつの間にか寝てた。寝落ちた記憶がないんだけど、一体いつから私は寝落ちたのだろう・・・。それにしてもあったかいなぁ。なんかいい匂いするし。倒した覚えのない座席を元の位置に戻すとずるずると私の体から滑り落ちてくるのは、国重さんの上着だった。隣の座席を見れば、国重さんは居なくて、私は襟元のファーの部分に鼻を寄せて匂いを確認すると、やっぱりこの匂いだった。
電光掲示板を見ると、もう少しで東京に着くところだ。
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