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第2話:気になる気持ち(9)

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「個室!?
2階に個室なんてあったの!?
今まで長くここに通ってたけど、そんな話、聞いたことないよ!?」

初めて聞く『個室』の存在におれが驚いていると、
大将はおれの首に腕を回し、
「だって今まで流ちゃん、1人で来てただろ?
こんなかわいい彼女さん、
というか女子高生連れてきたんじゃ
誰もいない2階の個室でゆっくりしてもらうのが
常連さんへのサービスっていうもんだよ」
と、なんかうれしそうに言ってくる。

ちょっ、大将やめて!

せっかく西森が、一緒にご飯食べてくれるっていうのに、
この会話を聞いてドン引きして帰ったらどうするの!?

あわてて大将の口をふさごうとしていると、 西森が、
「りゅうちゃん?
りゅうちゃんって先生のことですか?」
と大将に聞いてきた。

大将は西森の方に振り向き、
「そうだよ。こいつの名前『流星』、
つまり『流れ星』って書いて『りゅうせい』っていうから
『りゅうちゃん』って呼んでるんだ」
と答える。

西森はおれの顔を見ると、
「『流れ星』・・・、
私、先生の名前、今まで知らなかったですけど、
『流星』って素敵な名前ですね。
星が大好きな先生にピッタリ。」
そう言いながらニコッと笑った。

その笑顔があまりにもかわいすぎて、
おれは『ズキューン!』と胸を打たれ、その場に倒れそうになった。

笑顔を見れただけでもうれしいのに、
さらにおれの名前を西森が褒めてくれるとは、
なんか幸せすぎて涙が出そうだ。

そんなおれと西森のやり取りを見ていた大将は全て察したような顔をして、
「さあさあ、2階の個室へどうぞ。
ちょっと狭いけど、1階よりは静かだし落ち着いて食事ができるよ」
と2階へ続く階段を案内してくれた。

狭い階段を登ると、
にぎやかで明るい照明の1階とは違って2階はとても薄暗くて、
ちょっと大人の雰囲気の漂うバーの入口に来たような感じだ。

2階には2か所個室があって、
『ラーメン』、『ぎょうざ』と部屋に名前が付けられている。

もうちょっとオシャレなネーミングが欲しかったが、
とりあえず『ラーメン』側のドアを開けた。

中は4畳半ぐらいの大きさで、
そこに掘りごたつ式のテーブルが真ん中にドンと設置されている。

窓が無い上に、照明はやはり薄暗くて、
ここがラーメン屋だということを忘れてしまいそうなぐらい
大人の雰囲気が漂う部屋だ。

西森が荷物を部屋の隅に置きながら、
「ほんとに2階は静かですね。
お客さんも私達だけでしょうか?」
と言って座ったので、
「おれも何回もこの店に通っているけど、
2階の存在は知らなかったな」
と部屋の中を見回しながら、さりげなく西森の隣に座った。

すると案の定、西森はビックリした顔をして
「せ、先生、なんで向こう側に座らないで、私の隣に座るんですか!?
あっちが空いているでしょ!?」
と、おれをどけようと押してくるが、
「空いているけど、これには理由があって、
向かい合って食べる方が、
お互いの顔を見合わせるからなんだか恥ずかしいだろ!?
だから、気を使って隣に座ったんだ!」
と変な言い訳をしつつも隣に座り込んだ。

隣に座ったのはいろいろと理由があるのだが、
そんなに親しくない2人が正面に向かい合って座ると、
お互い恥ずかしくて顔が見れなくて、会話がはずまない恐れがある。

でも隣に座ると、お互いの顔を直視するのを避けられるし、
何より二人の間の距離が近くなって、
心の距離も近くなる可能性が高いのだ。

西森との心の距離を縮めたい、
そんな下心もあって半ば強引に隣に座ってみた。

「そ、そんな変な気を使っていただかなくても結構なんですけど」

おれが隣に座ったため、やっぱり西森は困った様子だ。

心の中で『困らせてゴメン』と謝りつつも、
照れた横顔がかわいくて、思わず見つめてしまう。

西森はブツブツ文句を言いながら、メニューに手を伸ばした。

大きなメニューを机の上に広げて、2人で何を食べるか考える。

「何を食べようかな・・・。
先生、何かオススメありますか?」

「そうだな・・・、あ、これ、これが結構うまいんだよ」

そう言っておれが手を伸ばした瞬間、2人の肩が軽く触れた。

思わずドキッとして顔を見合わせる2人。

お互いの顔の距離が近い。

西森があわてて顔をそらす。

二人きりの個室の中、
心臓のドキドキ音だけが鳴り響いているような気がした。
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