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第2話:気になる気持ち(3)

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教室の真ん中付近の席から、
西森はなぜかおれをにらみつけていた。

昨日眠れないぐらいおれは
ドキドキハラハラしていたというのに、
西森には全くそんな雰囲気は無い。

そしてなぜか超不機嫌そうな顔。

何が何やら全く分からないが、
とりあえず授業は進めなくては、
と思い、せっせと黒板に文字を書いていると、
「先生」
と、西森の声が背後から飛んできた。

「は、はい!?」

いつも以上に西森に対してびびっている反応を示したせいか、
他の生徒達も「なんだなんだ?」と驚いている様子だ。

西森は黒板を指しながら、
「そこ、漢字間違えています」
と言った。

そう指摘され、あわてて黒板を見てみると
「昇る」の漢字を「登る」と書いていているではないか。

「あ、本当だ。
すいませんでした・・・」

がっくり肩を落としながら字を訂正し直す。

そんなおれの姿を見ていた生徒たちが背後で、
「高山ちゃん、
いつも以上に夏菜を怖がってるよね」
「この前怒られたのが、
よっぽどショックだったんじゃない?」
とヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。

確かにその件もあるけど、
西森が怒っている理由が分からなくて、
おれの心は乱れているんだよ!

こっちは昨日眠れないぐらい
ドキドキハラハラしていたというのに、
西森はいつもと同じく顔色一つ変えないポーカーフェイス。

これじゃ
おれだけがドキドキしていて
バカみたいじゃないか・・・。

チクッと胸が痛んだ。

でも、ありがとな、西森!

おかげでおれもやっと冷静さを取り戻して、
授業に集中できているからな!

きっとおまえが赤面していたら、
まともに授業ができなかったと思うから、
今は感謝しておくよ。


キーンコーンカーンコーン

「じゃあ、今日はここまで」

授業終了の鐘が鳴り、
おれは「ふーっ」と大きく息を吐く。

今日は西森からも
漢字の間違いを指摘されただけで
特に授業も荒れることなく無事終わってくれて
本当によかった。

教室を出て行こうとすると、
「高山ちゃん、待って!」
と3、4人ぐらいの女子がワラワラと集まって来た。

「何?質問?」

女子達はニコニコ笑いながら、
「そう、質問、質問!
いっぱい質問したいことがあるから、
今週の土曜日、先生の家に遊びに行ってもいいですか~?」
と予想外の質問をぶつけてきた。

「は!?」

おれは驚くと同時に、
なぜか西森の方をパッと見てしまった。

西森は相変わらずポーカーフェイスのまま
教科書を読んでいる。

よかった、こっちを見てなくて・・・。

ホッと安心したが、いや、よくない!

見てなくても声は耳に入ってきているはずだ!

なので、おれは、
「ダメだ、家に来るなんて。
今ここで聞けばいいことだろ?」
と、ちょっと怒り口調で言ってみたが、
女子達は全く怖がってない様子。

それどころか、
おれの腕にギュッとしがみついてきて、
「えーっ、ちょっとぐらいいいじゃん。
先生だって一人暮らしで、料理とかしてないでしょ?
勉強教えてくれる代わりに、
私たちが美味しいモノ作ってあげるからさ♪」
と上目遣いで誘惑してくる。

ちょっ、本当にやめてくれ!?

というか、そういうテクニックを
どこで覚えてくるの!?

大人の女性だと、その辺り上手く駆け引きしてくる気がするが、
女子高生たちはストレートに体当たりしてくるので、
思わずこちらもたじろいでしまう。

いや、たじろいでいる場合ではない!

「とにかく、次の授業に行くから離しなさい!」
と言って、女子達を振り切ると、

「えーっ、つまんない。
だって先生の家に行ったら天体望遠鏡もあるんでしょ?
一緒に星を観たいもん」
と言ってきた。

『天体望遠鏡』のフレーズで、
思わずおれは西森の方を見てしまった。

すると、西森もこちらを見ていて、
2人の視線がバチッと合う。

授業の間、忘れていた昨夜の思い出が
一気に頭の中によみがえってくる。

ドキン、ドキン・・・と高鳴っていく心臓。

が・・・

またしても西森からは、
冷たい視線がおれに向けられた。

『ひっ!?』とビビると、西森は再び教科書に目を戻す。

なっ、何なんだよ、さっきから!
その微妙な反応は!!

今すぐにでも西森のところに行って、
「何を怒っているんだ?
おれが悪かったのなら謝るから、
そんな冷たい目でおれを見ないでくれ!」
と言いたかった。

でも、非情にも次の授業の鐘が鳴ったため、
おれは仕方なく教室を後にした。
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