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第1話:苦手な優等生(6)

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「必死って、何か理由があるのか? 」

「高山ちゃん、副担任なのに知らないの?」

副担任であっても、
西森とは「説教」以外のちゃんとした会話を
交わしたことが無いからな。

「夏菜、本当は高校受験の時、
某有名私立高校を受験する予定だったんだけど、
インフルエンザにかかっちゃって
受験できなかったんだ」

「で、仕方なく『すべり止め』の
うちの県立高校に来たわけなんだけど、
本当にショックだったみたいで、
入学式の時とか明らかに暗い顔してたもん」

「だから、大学こそは
第一希望の所に行きたいから
1年の時から猛勉強しているわけなんだよ」

「おまけに、夏菜の親が
これまたものすごい『教育ママ』で、
成績が少し下がったぐらいでも
めちゃくちゃ怒るみたいだから、怖いよね~」

ペチャクチャしゃべる女子達の会話を聞いて、
「なるほど、そういうわけがあったんだな」
と納得した。

西森は「自分のため」、「親のため」に
どうしても第一志望の大学に合格したいんだ。
そのために休み時間中も遊びにも行かず
勉強一筋でがんばっている。

確かに、勉強は大事だ。
必死にがんばっている西森はスゴいと思う。

でも・・・

あいつの青春時代、勉強だけで終わらせるのか?

今しか経験できないような楽しい時間が、
学生時代にはあふれかえっているのに・・・

おれは思わず女子達に聞いてみた。

「じゃあ、西森は恋愛とかの経験もないわけ?」

やべっ!
別に深い意味は無いのだが、
先生の立場であるおれが言うと、
なんか変な意味にとらわれかれない発言だ。

しかし、女子たちはさほど
気にしてなかったみたいで、
「夏菜に恋愛?
そんな浮いた話、一度も聞いたことないよ。
夏菜自身も恋愛なんて興味ないんじゃない?」
と軽く返してきた。

その辺の本当のことは
西森自身に聞いてみないと分からないだろう。

もしかしたら
好きな人の1人や2人ぐらいいたかもしれない。

でも、本当に「勉強」だけの人生を
過ごしてきたのだったら・・・

この時、ふと考えたことが
今後のおれの人生の歯車を大きく狂わせることになるとは、
今のおれには知る由もなかった。
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