930 / 942
3年生2学期
10月20日(金)後輩との日常・姫宮青蘭の場合その23
しおりを挟む
地球にとって大事なリサイクルの日。
この日も特に用事があるわけではなかったので、僕と路ちゃんは放課後の文芸部に参加する。
去年の記憶だと森本先輩は年明け以降も普通に来ていたけど、その他の先輩方は少しずつ来ない日が増えていたような覚えがある。
ただ、僕も路ちゃんも今のところは年末あたりまで基本出るつもりだった。
そんな今日は文化祭後なので、文章作成についての勉強会や秋の読書について触れられる。
秋らしさよりも一気に冬が近づいて来そうだけど、読書の秋として文芸部的には一冊くらい本を読みたいところだ。
「産賀センパイ、ちょっといいですか?」
そうして、今日の活動をひと通り終えた後、日葵さんに呼ばれる。
この前言っていた打ち上げの件だと思って行くとなぜか神妙そうな表情をしていた。
「な、何かあったの?」
「実は……青蘭がこのところ元気がないんです。たぶん、文化祭で桐山の告白を聞いて以降なんですけど」
さらりと言っているけど、僕はそこで初めて日葵さんが告白した事実を把握していたのを知る。
それを姫宮さんから聞いたのか、何となく察していたのかはわからない。
「元気ないって……姫宮さんは断ったんだよね?」
「産賀センパイ。断る側も結構気力はそがれるものですよ」
「そ、そうか。ごめん」
「いいですよ。実際、それが原因かはわからないですし。でも、とりあえずは産賀センパイにちょっと声かけてあげて欲しいなーと」
「日葵さんや伊月さんじゃなくて、僕が?」
「はい。青蘭、産賀センパイがお気に入りですから」
「つまり、弄られて来いってこと?」
「……産賀センパイが超鈍感男なら敢えて言ってあげてもいいですけど、その必要はないですよね? それとも路子センパイに許可取った方がいいですか?」
「い、いや……わかったよ」
日葵さんから断れない圧を感じるのは、たぶん姫宮さんが本当に心配だからだとは思う。
姫宮さんのところに行くと、確かにいつもより少しだけ雰囲気が暗いように見えた。
「良助先輩」
「や、やぁ。ちょっと話でもしない?」
「ナンパですか」
「やったことないからわからないけど、そう聞こえたのなら謝る」
「いえ。謝らなくてもいいです。本物のナンパはもっとしつこいので」
その言い方からして、姫宮さんはナンパされたことがあるのだろうか。
しかし、話題としてそこを広げるのは絶対に良くない。
「そこの君一人? 偶然だね俺も一人なんだ。この辺で美味しいパンケーキが食べられる店を知ってるんだけど――」
「さ、再現しなくてもいいよ。でも、本当にそんな風なセリフを言うんだ……」
「産賀センパイはナンパされた経験は」
「される方? ないよ。というか、男側がされることなんてあるのかな」
「あると思います。ナンパとまではいかなくても女性側から好きになることはあってデートに誘うくらいなら」
「確かにそうか」
「――良助先輩と路子先輩はどっちが先に好きになったんですか」
「えっ?」
「お互い同時に好意を持つのはあり得ないと思うので」
恋愛の話は避けるべきと思っていたのに、姫宮さんの方からそちらに話を引っ張ろうとする。
聞かれるのが結構恥ずかしい内容だけど……今は話してあげるのがいいだろう。
「たぶん……路ちゃんだと思う。本人に直接聞いたわけじゃないけど」
「そうなんですか」
「い、いや。正確なことはわからないよ。僕も……自覚するのに時間がかかったから」
「――難しいですね。人を好きになるのも好きを気付くのも」
その言葉に僕は少し悩んだ後に頷くと、姫宮さんは少しだけ微笑んでくれたように見えた。
僕は男と告白した側の立場で桐山くんのことばかり考えていたから、それを断る側の姫宮さんのことは全く考えていなかった。
……今思えば清水先輩に告白した時、僕以上に色々考えていたのは清水先輩の方だったのかもしれない。
この日も特に用事があるわけではなかったので、僕と路ちゃんは放課後の文芸部に参加する。
去年の記憶だと森本先輩は年明け以降も普通に来ていたけど、その他の先輩方は少しずつ来ない日が増えていたような覚えがある。
ただ、僕も路ちゃんも今のところは年末あたりまで基本出るつもりだった。
そんな今日は文化祭後なので、文章作成についての勉強会や秋の読書について触れられる。
秋らしさよりも一気に冬が近づいて来そうだけど、読書の秋として文芸部的には一冊くらい本を読みたいところだ。
「産賀センパイ、ちょっといいですか?」
そうして、今日の活動をひと通り終えた後、日葵さんに呼ばれる。
この前言っていた打ち上げの件だと思って行くとなぜか神妙そうな表情をしていた。
「な、何かあったの?」
「実は……青蘭がこのところ元気がないんです。たぶん、文化祭で桐山の告白を聞いて以降なんですけど」
さらりと言っているけど、僕はそこで初めて日葵さんが告白した事実を把握していたのを知る。
それを姫宮さんから聞いたのか、何となく察していたのかはわからない。
「元気ないって……姫宮さんは断ったんだよね?」
「産賀センパイ。断る側も結構気力はそがれるものですよ」
「そ、そうか。ごめん」
「いいですよ。実際、それが原因かはわからないですし。でも、とりあえずは産賀センパイにちょっと声かけてあげて欲しいなーと」
「日葵さんや伊月さんじゃなくて、僕が?」
「はい。青蘭、産賀センパイがお気に入りですから」
「つまり、弄られて来いってこと?」
「……産賀センパイが超鈍感男なら敢えて言ってあげてもいいですけど、その必要はないですよね? それとも路子センパイに許可取った方がいいですか?」
「い、いや……わかったよ」
日葵さんから断れない圧を感じるのは、たぶん姫宮さんが本当に心配だからだとは思う。
姫宮さんのところに行くと、確かにいつもより少しだけ雰囲気が暗いように見えた。
「良助先輩」
「や、やぁ。ちょっと話でもしない?」
「ナンパですか」
「やったことないからわからないけど、そう聞こえたのなら謝る」
「いえ。謝らなくてもいいです。本物のナンパはもっとしつこいので」
その言い方からして、姫宮さんはナンパされたことがあるのだろうか。
しかし、話題としてそこを広げるのは絶対に良くない。
「そこの君一人? 偶然だね俺も一人なんだ。この辺で美味しいパンケーキが食べられる店を知ってるんだけど――」
「さ、再現しなくてもいいよ。でも、本当にそんな風なセリフを言うんだ……」
「産賀センパイはナンパされた経験は」
「される方? ないよ。というか、男側がされることなんてあるのかな」
「あると思います。ナンパとまではいかなくても女性側から好きになることはあってデートに誘うくらいなら」
「確かにそうか」
「――良助先輩と路子先輩はどっちが先に好きになったんですか」
「えっ?」
「お互い同時に好意を持つのはあり得ないと思うので」
恋愛の話は避けるべきと思っていたのに、姫宮さんの方からそちらに話を引っ張ろうとする。
聞かれるのが結構恥ずかしい内容だけど……今は話してあげるのがいいだろう。
「たぶん……路ちゃんだと思う。本人に直接聞いたわけじゃないけど」
「そうなんですか」
「い、いや。正確なことはわからないよ。僕も……自覚するのに時間がかかったから」
「――難しいですね。人を好きになるのも好きを気付くのも」
その言葉に僕は少し悩んだ後に頷くと、姫宮さんは少しだけ微笑んでくれたように見えた。
僕は男と告白した側の立場で桐山くんのことばかり考えていたから、それを断る側の姫宮さんのことは全く考えていなかった。
……今思えば清水先輩に告白した時、僕以上に色々考えていたのは清水先輩の方だったのかもしれない。
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる