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3年生2学期

10月15日(日)最後の文化祭・後

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 文化祭2日目のきのこの日。
 この日は昼前の時間帯に路ちゃんと暇をもらって文化祭を見て回ることになった。
 路ちゃんは昨日花園さんと文化部系の展示を見学していたので、今日はそれ以外の場所を中心に見学していく。

「いらっしゃい! 良さんと路子ちゃん! 今はちょっと待ってもらえたら茶道体験もできるけどどうする?」

「いや、この後も見て回るからお茶菓子を頂くだけにするよ。というか……実香さん、今年も看板持ちなの?」

「そうだよ? まぁ、清水先輩がいなくなった今、茶道部のビジュアル担当は私だからね。客引きに最適ってわけ」

 その情報が本当に正しいのかはわからないけど、茶道部自体は今年も盛況していた。
 お茶とお菓子をもらってイートインスペースに座った後も、お客さんは次々とやって来る。
 文芸部も例年と同じくらい人が来ているけど、やはり飲食できる場所に比べると人数は落ち着いていた。
 それでもそこそこ冊子を手に取ってもらえていたので、文芸部としてはこの時点で大成功と言える状態だった。

「どうなってるかなぁ」

「うん? 文芸部の展示の話?」

「そうじゃなくて……あの二人のこと」

 だから、僕と路ちゃんは展示ではなく……桐山くんと姫宮さんのことを心配していた。

「姫宮さん。今日の文化祭が終わった後、少し時間もらってもいいっすか」

 今日の開場前の準備していた時、桐山くんは周りに隠れることなくそう言う。
 恐らく意図的にやっていたので、自らの退路を断つための行動だったのだろう。
 僕に関して言えば、学校に着く前の段階で、桐山くんからメッセージを受け取っていた。

――やっぱり当たっていきます
――でも、砕ける前提じゃなく
――本気で当てるつもりで
――それなら、産賀さんが言ってみたいにはならないと思うから

 結局、僕の言葉は桐山くんを無駄に悩ませるだけだったのかもしれない。
 僕の言い方もどちらかといえば桐山くんが断られる前提で言っているのも良くなかった。
それでも桐山くんが動き出したのなら、もう止めることはできない。

「まぁ、考え過ぎても仕方ない。それに僕らは僕らで最後の文化祭、楽しまなきゃ」

「……うん。午後からのステージもちょっと見ていいって言ってくれたから、せっかくだし見に行きたい」

「そういえばライブとかは全然見たことなかったな。よし、ちょっと屋台回ったら言ってみよう」

 それから僕と路ちゃんはステージや展示を楽しんだ後、文芸部の展示室に戻る。

「産賀センパイ、もうちょっと笑って! はい、OK~」

 展示会場では日葵さんが積極的にみんなの写真を撮ってくれていた。
 来年以降の参考にするため……というよりは思い出を保存するためのやつだ。

「じゃあ、片付け前に集合写真撮りまーす! タイマーは……よし、10秒後だからみんないい? よし、スタート!」

 そうして、最後の文化祭は思っていた以上に早く幕を閉じた。
 数日前に三浦くんは2日間もやる必要があるのかと言っていたけど、いざ最後だと思うと短いようにも感じているのが不思議だ。
 内容としては1年から3年まであまり変化はなかったけれど、その中で本当に色々なことがあった。
 今年もまた色恋沙汰が絡んでしまったけど……それはそれとして、全体的には満足できる文化祭だったと思う。
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