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3年生2学期

10月4日(水)曇り 大山亜里沙と産賀良助Ⅱその3

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 日中はまた少し暑くなったイワシの日。
 体温調整するために上着が必須と言われるけど、学校で着られる服の種類は限られているので、なかなか難しい気温だと思う。

「うぶクン、おはよ!」

 そんな今日の朝は大山さんの元気な挨拶から始まる。
 今週に入ってからどうやら調子を取り戻したようで、授業中や休み時間も活発に話す姿が見られた。

「うん? アタシの顔に何か付いてる?」

「いや、ちょっと見てただけ」

「ふ~ん? うぶクン。実は先週と変わった部分が一箇所だけあるんだケド、わかる?」

「えっ? それって目に見えてわかるやつ?」

「それを教えたら意味ないじゃん。当ててみて」

 突然の問題に僕は少し困ってしまう。
 調子を取り戻したことをわざわざ指摘して欲しいとは言わないと思うから、ここは定番の髪を切った的な話なのだろうか。
 最近の大山さんはミディアムくらいの長さで、髪を結んでいないけど……そこから数ミリ単位の調整が行われたのだとしたら絶対に当てられない。
 それなら化粧品やシャンプーを変えたとか……いや、それを当てたら僕は相当気持ち悪いやつになってしまう。
 今は隣の席だから何となく匂いもわからなくはないけど、正解だとしてもこれは言わない方がいい。
 それ以外でありそうなのはまつ毛や爪……それも前のやつを覚えているのはどうなんだ?

「3・2・1……どうぞ!」

「えっ!? じ、実は何も変わってない……とか?」

「…………」

「た、貯めるね」

「正解! なんでわかったの?」

「いや、なんとなく……って、それじゃあ問題として成立してないじゃないか!?」

「まぁまぁ。うぶクンが真剣に考えてくれる顔、ちょっと見たかったからね」

 そう言って大山さんはそのまま別の友達と話に行ってしまった。
 前にも似たようなことをやられたような覚えがあるけど……いい方向に取れば、いつも通りの調子に戻ってきた証拠だろう。
 でも、わりと真剣に考えて損をしたから、今後はこういう質問が来てもすぐに「何も変わってない」と言うようにしようと思った。
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