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3年生夏休み
8月23日(水)曇り 大山亜里沙の夏焦りその3
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夏休み33日目の油の日。
今朝のニュースで暑さは10月頃まで続くという嫌な予想を見てしまう。
毎度のことながら秋の体育祭は暑いけれど、今年は耐えられるだろうか。
そんな今日は何となくいつもとは違うコンビニ寄って行くことにした。
それ自体は特に珍しくはなかったけれど……その行動か不運とも幸運とも言えない事態を生み出す。
「産……原くん?」
コンビニ内で名前を間違われたと思ったら、そこには大山さんの知り合いで……悩みの種になっている藤宮くんがいた。
そういえば大山さんはあの時咄嗟に「産原くん」と呼んでいたから、彼にはそれで覚えられてしまったらしい。
「ど、どうも」
「今日は部活?」
「いえ、塾に行く前で……」
「あー もしかして大山も行ってるやつ? 同じ塾に行ってたんだ」
ほぼ初対面ながらも藤宮くんは積極的に話すのに対して、僕は少し人見知りな態度を取ってしまう。
大山さんの友人関係であれば陽キャ寄りなのは納得だけど、僕は早くその場を去りたかった。
「すみません。そろそろ行かないと……」
「あっ、待って。せっかく会ったから一つ聞きたかったんだけど……産原くんは大山の彼女じゃないよね?」
突然の指摘に僕は動揺しそうになるけど、何とか表情や態度に出ないように我慢する。
いや、この前は藤宮くんも納得していたはず……
「何言ってるの?」
「何って、言ったままの意味。この前会った時、産原くんは明らかに動揺してたし、今話した感じでもなんか違うなって」
「……話しただけで何がわかるの」
「大山の好みじゃないってことだ」
藤宮くんはまるで自分の方が理解していると言わんばかりの態度だった。
これが……大山さんを悩ませている彼の態度か。
「……あんまり話したことがないのに、よくそんなことが言えるね」
「気を悪くしたのならごめん。でも、俺は真実を明らかにしたいだけなんだ」
「真実も何も……亜里沙は僕の彼女だよ」
「言い慣れてないな」
上手く対応したつもりが藤宮くんには見透かされてしまう。
でも、このままだと不味い。大山さんがまたこいつに……
「大山から聞いたんだ。今の彼氏は……普段はいじられキャラだけど、いざという時には頼りになって、自分の話をよく聞いてくれて……今まで会った男子で一番優しい人だって」
「それは……」
いざという時には頼りになる、といのは僕と路ちゃんも協力して創造したイマジナリー彼氏の要素だった。
ただ、残りの要素は聞いたことがないので、大山さんが後から考えた――
「それと……1年生の時からよく隣の席になるって」
「えっ」
「うん? どうかした?」
「いや……藤宮くん。外に出よう。色々話すから」
「おお。やっと言う気になってくれた?」
◇
「良助くん! 何かあったの!? 連絡しても返事がなかったから……」
「いやぁ……迷子を案内してたら遅刻する時間になっちゃって。だから、昼からの参加でいいかなーと」
「もう……それならそうと連絡を……」
「いやいや、みーちゃん。まずは言い訳の部分をツッコむべきでしょ? そんな偶然ある?」
「自慢じゃないけど、僕はわりと道を聞かれるタイプだよ。遅刻したのは初めてだけど」
「うー……まぁ、産賀くんは話しかけやすいタイプではあるか……?」
僕と藤宮くんの話が終わったのは午前中の塾が始まって少し経った頃だった。
重森さんには言い訳を疑われてしまったけど、路ちゃんは納得してくれたので……やや心が痛い。
「あっ、今日は大山さん来てる?」
「うん。亜里沙ちゃんならさっきそっちの教室に……」
「わかった。ちょっと用があるから行ってくる」
そうして、大山さんのところへ行くと、急にやって来た僕に大山さんは驚く。
「ど、どしたのうぶクン?」
「誰ー?」
「ほら、亜里沙の友達の彼氏さんでしょ?」
「ちょっと話があるんだけど……」
「りょ。ちょっと話してくるねー」
女子のお友達から興味を向けられるけど、大山さんが上手く遮ってくれてその場を離れる。
「うぶクン、今日は午後からだったんだね。それで……話って?」
「さっき藤宮くんと会った」
「えっ!? それ……またなんか聞かれたり……いや、絡まれたってコト!? なんか変なこと言われなかった!?」
「お、落ち着いて。とりあえず話はできる人だったから……その、色々話したんだ」
「い、色々って……」
「それで、話の流れ的に彼氏じゃないって言うことにはなったんだけど……」
「そ、そっか……」
「ま。待って。がっかりしないで。話終わった結果だけど、藤宮くんはもう大山さんには絡まらないと思う」
「……へ? な、なんで?」
「その……僕が色々話したから」
「その色々が聞きたいんだケド!?」
「全部説明するのは難しいんだ。でも……藤宮くんも自分の間違いに気付いたみたいだから」
「そ、そう言われても……」
大山さんはすぐには納得できなかったようだけど、僕が言ったことに嘘はない。
あとはさっき話終わった時の藤宮くんを信じるだけだ。
今朝のニュースで暑さは10月頃まで続くという嫌な予想を見てしまう。
毎度のことながら秋の体育祭は暑いけれど、今年は耐えられるだろうか。
そんな今日は何となくいつもとは違うコンビニ寄って行くことにした。
それ自体は特に珍しくはなかったけれど……その行動か不運とも幸運とも言えない事態を生み出す。
「産……原くん?」
コンビニ内で名前を間違われたと思ったら、そこには大山さんの知り合いで……悩みの種になっている藤宮くんがいた。
そういえば大山さんはあの時咄嗟に「産原くん」と呼んでいたから、彼にはそれで覚えられてしまったらしい。
「ど、どうも」
「今日は部活?」
「いえ、塾に行く前で……」
「あー もしかして大山も行ってるやつ? 同じ塾に行ってたんだ」
ほぼ初対面ながらも藤宮くんは積極的に話すのに対して、僕は少し人見知りな態度を取ってしまう。
大山さんの友人関係であれば陽キャ寄りなのは納得だけど、僕は早くその場を去りたかった。
「すみません。そろそろ行かないと……」
「あっ、待って。せっかく会ったから一つ聞きたかったんだけど……産原くんは大山の彼女じゃないよね?」
突然の指摘に僕は動揺しそうになるけど、何とか表情や態度に出ないように我慢する。
いや、この前は藤宮くんも納得していたはず……
「何言ってるの?」
「何って、言ったままの意味。この前会った時、産原くんは明らかに動揺してたし、今話した感じでもなんか違うなって」
「……話しただけで何がわかるの」
「大山の好みじゃないってことだ」
藤宮くんはまるで自分の方が理解していると言わんばかりの態度だった。
これが……大山さんを悩ませている彼の態度か。
「……あんまり話したことがないのに、よくそんなことが言えるね」
「気を悪くしたのならごめん。でも、俺は真実を明らかにしたいだけなんだ」
「真実も何も……亜里沙は僕の彼女だよ」
「言い慣れてないな」
上手く対応したつもりが藤宮くんには見透かされてしまう。
でも、このままだと不味い。大山さんがまたこいつに……
「大山から聞いたんだ。今の彼氏は……普段はいじられキャラだけど、いざという時には頼りになって、自分の話をよく聞いてくれて……今まで会った男子で一番優しい人だって」
「それは……」
いざという時には頼りになる、といのは僕と路ちゃんも協力して創造したイマジナリー彼氏の要素だった。
ただ、残りの要素は聞いたことがないので、大山さんが後から考えた――
「それと……1年生の時からよく隣の席になるって」
「えっ」
「うん? どうかした?」
「いや……藤宮くん。外に出よう。色々話すから」
「おお。やっと言う気になってくれた?」
◇
「良助くん! 何かあったの!? 連絡しても返事がなかったから……」
「いやぁ……迷子を案内してたら遅刻する時間になっちゃって。だから、昼からの参加でいいかなーと」
「もう……それならそうと連絡を……」
「いやいや、みーちゃん。まずは言い訳の部分をツッコむべきでしょ? そんな偶然ある?」
「自慢じゃないけど、僕はわりと道を聞かれるタイプだよ。遅刻したのは初めてだけど」
「うー……まぁ、産賀くんは話しかけやすいタイプではあるか……?」
僕と藤宮くんの話が終わったのは午前中の塾が始まって少し経った頃だった。
重森さんには言い訳を疑われてしまったけど、路ちゃんは納得してくれたので……やや心が痛い。
「あっ、今日は大山さん来てる?」
「うん。亜里沙ちゃんならさっきそっちの教室に……」
「わかった。ちょっと用があるから行ってくる」
そうして、大山さんのところへ行くと、急にやって来た僕に大山さんは驚く。
「ど、どしたのうぶクン?」
「誰ー?」
「ほら、亜里沙の友達の彼氏さんでしょ?」
「ちょっと話があるんだけど……」
「りょ。ちょっと話してくるねー」
女子のお友達から興味を向けられるけど、大山さんが上手く遮ってくれてその場を離れる。
「うぶクン、今日は午後からだったんだね。それで……話って?」
「さっき藤宮くんと会った」
「えっ!? それ……またなんか聞かれたり……いや、絡まれたってコト!? なんか変なこと言われなかった!?」
「お、落ち着いて。とりあえず話はできる人だったから……その、色々話したんだ」
「い、色々って……」
「それで、話の流れ的に彼氏じゃないって言うことにはなったんだけど……」
「そ、そっか……」
「ま。待って。がっかりしないで。話終わった結果だけど、藤宮くんはもう大山さんには絡まらないと思う」
「……へ? な、なんで?」
「その……僕が色々話したから」
「その色々が聞きたいんだケド!?」
「全部説明するのは難しいんだ。でも……藤宮くんも自分の間違いに気付いたみたいだから」
「そ、そう言われても……」
大山さんはすぐには納得できなかったようだけど、僕が言ったことに嘘はない。
あとはさっき話終わった時の藤宮くんを信じるだけだ。
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