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3年生夏休み

8月19日(土)晴れのち曇り 手作り弁当の日

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 夏休み29日目の俳句の日。
 この日は文芸部の集まりがある日だけど、僕と路ちゃんは塾の方を優先していた。
 ただ、今日は遊びに行けない分の楽しみがある。
 お盆休みに入る前、僕がコンビニばかり利用していたことから路ちゃんがお弁当を作ってきてくれると言ってくれたのだ。
 そして、先日の明莉の提案から僕の方でもお弁当を作ることになり、交換することになった。

 昼の休憩時間にいつも通り空き教室へ行くと僕と路ちゃんはそれぞれ弁当袋を取り出す。

「そ、それじゃあ良助くん……よろしくお願いします」

「よろしく?」

「な、なんて渡すのが正解なのかわからなくて……」

「ああ、そういうこと。喜んで頂きます」

 そう言いながら僕はお弁当を開けると、良い色合いでおかずが並んでいた。
 岸本家のお弁当はこの時間で何度も見たことがあって、どちらかといえば野菜が多めだったけど、今日は僕に合わせてくれたのか、からあげや肉巻きが入っている。

「からあげとか、グラタンとかは冷凍のもので、わたしが作ったのは卵焼きと肉巻き、あとおひたしくらいだから……」

「十分だよ! じゃあ、まずは卵焼きから……」

 僕は普通に食事を取るつもりで箸をつけるけど、路ちゃんは食い入るように見てきたので、この後の感想は少し考えなければならないと察する。
 岸本家の卵焼きは和風の味付けだったので、恐らく白だしを使っているのだろう。

「……美味しい!」

「よ、良かった……」

「味はもちろんだけど、綺麗に作れて凄い。僕はどうしても不格好になっちゃうから」

「卵焼き用のフライパンを使ってるし……ちょっとお母さんの指導も受けたらから、うまくできたんだと思うわ」

「そうなんだ……うん、肉巻きも美味しい」

 その言葉を聞いて路ちゃんは安心したのか、ようやく僕が作ったお弁当を開ける。

「……オムライス!」

 僕は明莉の意見を参考にしつつもご飯の方にはオムライスを作って入れた。
 作ってすぐ食べられるわけではないので、お弁当用に卵はしっかりめに焼いているけど、味付けはそのままにしていた。
他のおかずは可愛いお弁当を目指したのでトマトの甘辛漬けにチーズをのせた焼きブロッコリーで赤と緑、昨日の晩ご飯にもなったサラダスパ、小学校の頃に家庭科で作ってから我が家の定番になっている人参のベーコン巻きを入れた。
 路ちゃんはそれほど食べるわけではないので、おかず的には少ないかもしれないけど、オムライスが結構量があるので、いい感じのバランスになっている……はずだ。

「…………」

 しかし、お弁当全体を見渡した路ちゃんは一時提示してしまう。
 やっぱり初っ端からオムライスは重すぎたのだろうか。
 この場合の重いは量ではなく気持ちの方で……

「す、すごい……良助くん、バレンタインの時からちょっと思ってたのだけれど、料理上手かったんだね」

「いや、上手いわけでは……それこそバレンタインとかホワイトデーとか、こういうイベント事だと気合が入るタイプで、ずっと作るとなるとここまでにはならないと思う」

「それでも全部作ったんでしょう?」

「サラダスパは昨日の余りで、母さんと一緒に作ったけど、それ以外は全部」

「……は!? しゃ、写真撮らなきゃ」

「あっ!? 撮る前に食べちゃった……」

「大丈夫。わたしが撮ったやつがあるから……」

 その後、わちゃわちゃしながらもお互いの弁当を美味しく食べた。
 正直、僕もレシピ通りとはいえ絶対に大丈夫という自信はなかったので、美味しそうに食べる姿を見て安心した。
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