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3年生1学期

7月14日(金)曇り 後輩との日常・石渡沙綾の場合その6

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 最近は実物をあまり見ていないひまわりの日。
 子どもの頃に植物園的なところで見た覚えがあるけど、それもおぼろげな記憶だ。

 そんな今日も今日とて週末の文芸部の活動が行われる。
 日葵さんと桐山くんの件はまだ解決できそうにないけど、もう一つの件……石渡さんと何とか仲良くなることは文化祭までには何とかしたい。
 いや、本当なら夏休みに入る前に解決したいけど、気付けば時間はそれほど残されていなかった。

「路子さん。今日もテストが返ってきたんですけど……」

 そう言いながら石渡さんは路ちゃんに向かって嬉しそうに報告する。
 どうやらテスト前の部室での勉強で今回のテストはなかなか良い感じのようだ。
 そうであるならば少しばかり協力した僕も……いや、ここでそれをネタにして出しゃばるのは良くないか。
 けれども、未だに石渡さんと共有できそうな話題や趣味がないから――

「産賀さん」

「わっ!?」

 突然の呼びかけに驚くと目の前には石渡さんが立っていた。
 まさか心の声が読まれてしまった……?

「何をそんなに驚いてるんですか」

「ご、ごめん」

「一応の報告をしておこうかと。今回のテスト、前回よりも良い結果を出せています」

「そ、そうなんだ。おめでとう」

「だからまぁその……産賀さんが教えてくれたおかげも少しはあるのかと」

「いやいや。僕は大したことは……」

「そこは素直に自分のおかげって言えばいいのに」

 遠慮するのが正解だと思ったら石渡さんは少し不機嫌そうな顔になる。

「でも、実際に頑張ったのは石渡さんだし」

「そうかもしれないですけど、自分を下げ過ぎるのも良くないと思います」

「は、はい……」

「それで路子さんまで不安にさせたら元も子もないですから」

「……石渡さんは本当に路ちゃんのこと好きなんだね」

「っ!?」

 僕は何の気もなくそう言うと、石渡さんは予想外の反応を見せる。

「す、すすす、好きだなんて、そ、そんな、それは……」

「あっ、いや、特に深い意味があったわけじゃなく……」

「なんですか!? 彼氏としての余裕ですか!」

「そ、そんなことは……」

「もういいです! 喋らないでください!」

 その声は当然ながら部室内に響いていたので、他の部員が何事かとざわつき始めた。

 その後、路ちゃんの仲介のおかげで石渡さんは落ち着いて周りの誤解も解けたけど、石渡さんの好感度は絶対にマイナスになってしまった。
 石渡さんの路ちゃんに対する感情は……なかなか複雑なのかもしれない。
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