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3年生1学期

5月24日(水)晴れ 野島実香との日常・再その4

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 テスト後半戦に入った伊達巻の日。
 この日も無事にテストを終えて、駐輪場へ自転車を取りに行った時、少しばかり面白いことが起こった。

「あっ……お兄ちゃん」

「お疲れ様です。産賀さん」

 偶然にも明莉と野島さん(妹)が一緒にいるのを目撃する。

「お疲れ。2人とも今から帰り?」

「駐輪場にいるんだからそうでしょ」

「そ、それもそうか。でも、本当に2人は知り合いだったんだな……」

「おっ! 産賀くん……と結香じゃん!」

「げっ、お姉ちゃん」

 そこに野島さん(姉)もたまたま現れて、産賀兄妹と野島姉妹が揃う。
 いや、同じ学校に通っているから珍しくはないんだけど、別々に話していた4人が揃うのは何だか変な感じである。

「人の顔を見て“げっ”はないでしょうに」

「…………」

「無視すんなー!」

「お兄ちゃん……もしかしなくても2人って仲悪いの?」

「たぶん……そうかも」

「まぁ、ひとまず結香は置いといて、あなたは……」

「は、初めまして。産賀明莉です」

「あー! あの噂に聞く明莉ちゃんかぁ!」

 野島さん(姉)の言い方のせいで、明莉は僕を少し睨んでくる。

「噂というのは……」

「産賀くんとか、亜里沙とかから聞いてたから。全然悪い噂じゃないよ」

「そうですか……」

「それにしても可愛い妹さんじゃんかぁ、産賀くん。いや、うちの結香も負けてないけども」

「うざっ……」

「こんな感じだけど、昔はもっと可愛くて……」

「うるさい! 余計なこと言わないで!」

「余計じゃないもん。産賀くんも知りたいよね?」

「いやー……そうでもないかなぁ」

「なんで? 産賀くんは聞かないでも妹さんのこと話してるのに」

 またしても野島さん(姉)の発言のせいで、明莉から睨みつけられる。
 僕が断ったのは野島さん(妹)が本当に聞かれたくなさそうだったからなんだけど……日頃の行いがこんな時に悪影響を及ぼすとは思わなかった。

「お兄ちゃんも余計ないこと言わないでって言った方がいい?」

「す、すまん……」

「いやいや、明莉ちゃん。私が聞く限りではいい話ばっかり聞いてるよ。産賀くんが相当可愛がってるのがわかる」

「の、野島さん、のお姉さんの方!」

「なにその呼び方」

「だ、だって、野島さん2人いるし……」

「そっか。じゃあ、今日からは実香呼びでいいよ?」

「そう言われても……」

「あー、もしかして恥ずかしいの名前で呼ぶの。私は良助くんでも良ちゃんでも呼んであげるのにー」

「お姉ちゃん! いい加減にして! もう帰るよ!」

「えっ、ちょっ……」

「お騒がせしました!」

 野島さん(妹)の何かが限界を迎えたのか、野島さん(姉)を引っ張ってその場から去っていく。

「……りょうちゃん。話すなとは言わないし、今更遅いかもだけど、私の話は程々にしてよ」

「はい……」

「それはそれとして……めちゃめちゃエネルギッシュな人だなぁ、実香ねえさん」

「なんで名前にねえさん付けてるんだ」

「なんとなく語呂的に」

 その後、僕は明莉と一緒に帰宅したけど、野島姉妹がどうなったのかはわからないままだった。
 話に聞いていた以上に妹の方が反発していたけど、引っ張ってあげる辺り、完全な不仲でもないような気がする。
 たぶん……姉の方が色々強すぎるのだろう。
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