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3年生1学期
5月16日(火)晴れ 後輩との日常・石渡沙綾の場合その2
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日中は7月並みの暑さになったらしい旅の日。
そんな今日はテスト一週間前なので部活動はないけれど、珍しく部室が開いていた。
「あっ、そういえば。テスト前に部室で勉強したーいって人がいたら言ってね。自習室として開放するから」
ちょうど一週間前に日葵さんは部長としてその定型文を言う。
僕が入学してから文芸部の部室が自習室として利用されたことは一度もないけど、一応言っておくことになっていた。
しかし、今日になってLINEのグループに部室を使いたいという希望が出たのだ。
発言者は……石渡さんだった。
「良助くん。もしよかったら放課後に部室へ行ってみない?」
「うん。いいよ」
「良かった……何も心配する必要はないとは思うのだけれど、石渡さんの様子を見ておきたくて」
僕の返答を聞いた後、路ちゃんはそう言う。
前例がないことではあるけど、ちょっと心配してしまうのは、路ちゃんが石渡さんとよく話しているからだろう。
僕の見た感じでは石渡さんは2年生よりも路ちゃんの方に懐いている気がする。
「ちなみに華凛も行きます」
「おお」
「残念でしたね、リョウスケ。2人きりになれなくて」
「いや、部室に行ったら2人きりじゃないから……」
花園さんも合流して部室へ向かう中、僕は未だにわからないところが多い石渡さんについて質問していく。
「2人から見て石渡さんってどんな感じ?」
「華凛は……あまり喋っていません。どちらかと言えばミチちゃんと話している様子を眺めています」
「わたしから見た石渡さんは……素直でいい子って感じかな。少しわたしと似ているところもあるけど、わたしよりは社交的だと思う」
「なるほど」
「……納得された」
「あっ!? いや、別に路ちゃんが社交的ではないと言いたかったわけじゃ……」
「い、いいの……自覚はあるから」
「おーよしよし。まったくリョウスケは」
「ご、ごめんなさい」
ちょっとした質問のつもりだったのに、なぜか路ちゃんにダメージを与える結果になってしまった。
でも、路ちゃんと似ているのだとしたら……社交的というわけではなく、路ちゃん以外にはやや人見知りしている可能性がある。
現に僕は1ヶ月近く経っているのに、石渡さんとの会話がほぼ無いに等しい。
そうこうしているうちに、部室に到着して扉を開けると、室内には大人しく佇む石渡さんと若干落ち着きがない日葵さんがいた。
そして、僕らを見つけた日葵さんはすぐさまこちらに飛んで来る。
「センパイ方! よく来てくれました!」
「お、おう。熱烈な歓迎だね」
「い、いやー……だって、部室で勉強なんてしたことないから何だか変な感じがして……」
「変も何も勉強すればいいのでは」
「産賀センパイ、なんでそんなに冷たいんですかぁ!? ひまりは寂しいとどうにかなっちゃうんですよ!?」
その情報は初めて聞いたけど、日葵さん的には石渡さんと2人きりの空気は厳しかったらしい。
恐らく日葵さんも石渡さんとはまだ深いコミュニケーションが取れていないのだと思う。
「あっ……路子さん!」
「お疲れ様、石渡さん」
「お疲れ様です……そ、それに産賀さんと花園さんも」
騒がしさに気付いた石渡さんはこちらに反応を見せる。
ただ、この感じは……
「リョウスケ。今、華凛達はおまけ扱いだったような……」
「しーっ! お、お構いなく~」
「……何か気に障ることでもしたのでしょうか」
「そういうわけじゃないと思うけど……日葵さんは今日、石渡さんとちょっと雑談した?」
「まぁ、軽く挨拶くらいは……挨拶だけかも」
そう言いながら僕と花園さんと日葵さんは、声のする方に目を向ける。
「今日はわざわざ部室を開けて貰ってすみません。ここなら集中して勉強できると思って……」
「わたしが開けたわけじゃないから。でも、わたしも勉強する場所を探してたからちょうど良かったわ」
「そ、そうですか……! あっ、えっと……できればちょっと教えて貰いたいところもあったりして……」
「うん。わたしで良ければ」
その様子を見た僕らは心の中で「楽しそー」と思っていた。
まぁ、部活内で誰と仲良くするかは自由なので、頼れる先輩が1人いるのなら良いことだと思う。
それはそれとして……僕らも石渡さんと打ち解けられるようもう少し努力しなければ。
そんな今日はテスト一週間前なので部活動はないけれど、珍しく部室が開いていた。
「あっ、そういえば。テスト前に部室で勉強したーいって人がいたら言ってね。自習室として開放するから」
ちょうど一週間前に日葵さんは部長としてその定型文を言う。
僕が入学してから文芸部の部室が自習室として利用されたことは一度もないけど、一応言っておくことになっていた。
しかし、今日になってLINEのグループに部室を使いたいという希望が出たのだ。
発言者は……石渡さんだった。
「良助くん。もしよかったら放課後に部室へ行ってみない?」
「うん。いいよ」
「良かった……何も心配する必要はないとは思うのだけれど、石渡さんの様子を見ておきたくて」
僕の返答を聞いた後、路ちゃんはそう言う。
前例がないことではあるけど、ちょっと心配してしまうのは、路ちゃんが石渡さんとよく話しているからだろう。
僕の見た感じでは石渡さんは2年生よりも路ちゃんの方に懐いている気がする。
「ちなみに華凛も行きます」
「おお」
「残念でしたね、リョウスケ。2人きりになれなくて」
「いや、部室に行ったら2人きりじゃないから……」
花園さんも合流して部室へ向かう中、僕は未だにわからないところが多い石渡さんについて質問していく。
「2人から見て石渡さんってどんな感じ?」
「華凛は……あまり喋っていません。どちらかと言えばミチちゃんと話している様子を眺めています」
「わたしから見た石渡さんは……素直でいい子って感じかな。少しわたしと似ているところもあるけど、わたしよりは社交的だと思う」
「なるほど」
「……納得された」
「あっ!? いや、別に路ちゃんが社交的ではないと言いたかったわけじゃ……」
「い、いいの……自覚はあるから」
「おーよしよし。まったくリョウスケは」
「ご、ごめんなさい」
ちょっとした質問のつもりだったのに、なぜか路ちゃんにダメージを与える結果になってしまった。
でも、路ちゃんと似ているのだとしたら……社交的というわけではなく、路ちゃん以外にはやや人見知りしている可能性がある。
現に僕は1ヶ月近く経っているのに、石渡さんとの会話がほぼ無いに等しい。
そうこうしているうちに、部室に到着して扉を開けると、室内には大人しく佇む石渡さんと若干落ち着きがない日葵さんがいた。
そして、僕らを見つけた日葵さんはすぐさまこちらに飛んで来る。
「センパイ方! よく来てくれました!」
「お、おう。熱烈な歓迎だね」
「い、いやー……だって、部室で勉強なんてしたことないから何だか変な感じがして……」
「変も何も勉強すればいいのでは」
「産賀センパイ、なんでそんなに冷たいんですかぁ!? ひまりは寂しいとどうにかなっちゃうんですよ!?」
その情報は初めて聞いたけど、日葵さん的には石渡さんと2人きりの空気は厳しかったらしい。
恐らく日葵さんも石渡さんとはまだ深いコミュニケーションが取れていないのだと思う。
「あっ……路子さん!」
「お疲れ様、石渡さん」
「お疲れ様です……そ、それに産賀さんと花園さんも」
騒がしさに気付いた石渡さんはこちらに反応を見せる。
ただ、この感じは……
「リョウスケ。今、華凛達はおまけ扱いだったような……」
「しーっ! お、お構いなく~」
「……何か気に障ることでもしたのでしょうか」
「そういうわけじゃないと思うけど……日葵さんは今日、石渡さんとちょっと雑談した?」
「まぁ、軽く挨拶くらいは……挨拶だけかも」
そう言いながら僕と花園さんと日葵さんは、声のする方に目を向ける。
「今日はわざわざ部室を開けて貰ってすみません。ここなら集中して勉強できると思って……」
「わたしが開けたわけじゃないから。でも、わたしも勉強する場所を探してたからちょうど良かったわ」
「そ、そうですか……! あっ、えっと……できればちょっと教えて貰いたいところもあったりして……」
「うん。わたしで良ければ」
その様子を見た僕らは心の中で「楽しそー」と思っていた。
まぁ、部活内で誰と仲良くするかは自由なので、頼れる先輩が1人いるのなら良いことだと思う。
それはそれとして……僕らも石渡さんと打ち解けられるようもう少し努力しなければ。
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