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3年生1学期

4月28日(金)後輩との日常・姫宮青蘭の場合その15

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 GW目前の象の日。
 でも、月火は普通に学校があるので、本格的な休みは3日かになる。
 そして、新入部員の歓迎会はその3日の午後から行われることになった。
 僕と路ちゃんは午前中に塾の集中講義があるけど、歓迎会には間に合いそうだった。

「それじゃあ、お疲れ様でした。失礼します」

 そんな今日も三浦くんは雑談には参加せずに帰宅してしまう。
 ただ、歓迎会には参加してくれるようなので、そこは少し安心した。

「石渡さんは確か……SF小説が好きなんだよね?」

「は、はい。どちらかといえば海外の少し古いのが中心で……」

 一方、今日の路ちゃんは、僕がほとんど話せていない1年生の石渡さんに話しかけていた。
 2本の三つ編みが印象的な石渡さんはどちらかといえば大人しい感じで、文学少女らしい空気感がある。
 いや、文芸部に所属しているからには少なからず文学少女・少年であるはずなので、これは完全に僕個人の感想だ。
 ちなみに2番目に文学少女感があるのは……路ちゃんだ。ひいき目とかではなく。

「元副部長」

 そんなことを考えていると、背後から姫宮さんが呼びかけてくる。

「……そういえばまだその呼び方だった」

「私としては口が慣れているので言いやすいんですが」

「うーん……なんかそれでもいいような気がしてきたけど、他の呼び方は考えられない?」

「――良助先輩」

「えっ」

「敢えての名前で」

 姫宮さんはそう言うけど、突然の名前呼びに僕は反応に困ってしまう。
 苗字に先輩を付けられるのは慣れているけど、名前で呼ばれるのはなんというか……くすぐったい。

「これだと問題ありますか?」

「い、いや……ないよ」

「それでは良助先輩ということで」

「わかった」

「私も青蘭でいいですよ」

「それは……遠慮しとく」

「そうですか――残念」

 本当に残念そうな表情をする姫宮さんは何だか新鮮だった。
 
 こうして、姫宮さんからの呼び方がようやくアップデートされた。
 今思えば1年間役職呼びされていたのは、結構珍しいことなのかもしれない。
 それがいきなり名前呼びになるのは、なんだかんだ信頼を得た……ということでいいのだろうか。
 いや、他の人と違いを出してみたかったという方が姫宮さんらしい気がする。
 ……桐山くんには少し申し訳ないかもしれないけど。
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