上 下
750 / 942
3年生1学期

4月23日(日)曇り時々晴れ 社会人の森本先輩

しおりを挟む
 モヤついた空の子ども読書の日。
 そんな今日は記念日に合わせたわけじゃないけど、路ちゃんと一緒に森本先輩が働いている本屋へ行くことになった。
 我が高校は基本的にはアルバイトが禁止なので、該当する本屋は電車で2駅ほど移動する必要がある。
 その運賃を払ってまでバイトを続けていたということは、バイト収入はプラスとなっていたのだろう。

 本屋の事業展開についてあまり詳しくないので、到着した本屋は初めて聞く名前だった。

「店舗名は違うけれど、系列の店舗はあるみたい。でも、系列店も含めてこちらでは珍しい店舗みたい」

 路ちゃんから情報を聞きながら店舗に入ると、店内は比較的新しいように感じた。
 店内は結構広くて、本以外にも文房具や小物などが置かれている。
 店員おすすめの書籍や今期のドラマ・アニメ化作品のピックアップなどが入ってすぐのところにあり、その他にもポップアップによる書籍紹介が各ジャンルで設置されていた。

「わぁ……! 良助くん、あっちのコーナー見てみてもいい?」

「いいよ。その間に森本先輩探してみる」

「あっ、違うの。森本さんのことを忘れてたわけじゃなくて……や、やっぱり先に会ってから見て回る」

 店の雰囲気が良かったのか、路ちゃんのテンションが上がっているのがよくわかる。
 森本先輩には伺う時間を連絡していたけど、仕事中なので時間をあまり割かせるわけにはいかない。
 そう思いながら店内を回っていると……

(あっ……)

 恐らく本の在庫を確認している森本先輩の後ろ姿が見える。
 ただ、部活動でゆったりとした空気感を出していた時と違って、少し緊張感のある空気できびきびと動いていた。
 だから、僕と路ちゃんは一瞬話しかけるのをためらってしまう。

「……あー! いらっしゃい、ウーブくんに路子ちゃんー」

 そんな僕らの気配に気づいたのか、森本先輩はいつもの感じで話しかけてくれる。

「お、お疲れ様です。お仕事中にすみません」

「いいのいいのー いやー、わざわざデート場所に選んでくれるとは光栄だねー」

「で、デートのために来たわけじゃ……」

「ふふー 路子ちゃんまだ照れるんだー いや、何気に休日の2人の姿を見る機会はなかったかもー?」

「森本さーん」

 すると、話しているところに女性の店員がやって来る。

「あっ、店長ー この子達が来るって言ってた部活の後輩ですー」

「あっ、そうなの。いらっしゃいませ。今後ともご贔屓にして頂けたら嬉しいわ」

「ちなみにー 2人は……これです」

「ほう……部活内で成立したカップルのうちの1組ね」

 どうやら森本先輩は文芸部のことを店長さんによく話していたようで、面識がないのに色々知られていそうだった。

「それはそれとして、ここが終わったらリスト確認お願い」

「りょうかいですー」

「2人は引き続き買い物を楽しんでくださいね」

「そういうことだから、心ゆくまで楽しんでねー」

 そうして、森本先輩と店長さんは仕事に戻って行った。
 その後、僕と路ちゃんは暫く店内を見て回り、それぞれ本を購入してスタンプカードを作って貰った。

「こういう言い方は良くないのかもしれないけれど……森本さん、部活動の時よりもしっかりしてたように見えたわ」

「うん。水原先輩が心配する必要がないくらいには」

 森本先輩の新しい一面を知れた一日だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

本屋の中の喫茶店

Hatton
青春
フラッと入った喫茶店で、なんとなく思いついて書き始めたやつです。 一話一話が5分程度で読める短編集なので、お気軽にどうぞ

クルーエル・ワールドの軌跡

木風 麦
青春
 とある女子生徒と出会ったことによって、偶然か必然か、開かなかった記憶の扉が、身近な人物たちによって開けられていく。  人間の情が絡み合う、複雑で悲しい因縁を紐解いていく。記憶を閉じ込めた者と、記憶を糧に生きた者が織り成す物語。

おもいでにかわるまで

名波美奈
青春
失恋した時に読んで欲しい物語です。 高等専門学校が舞台の王道純愛青春ラブストーリーです。 第一章(主人公の水樹が入学するまで)と第二章(水樹が1年生から3年生まで)と第三章と第四章(4年生、5年生とその後)とで構成されています。主人公の女の子は同じですが、主に登場する男性が異なります。 主人公は水樹なのですが、それ以外の登場人物もよく登場します。 失恋して涙が止まらない時に、一緒に泣いてあげたいです。

イケメン腐男子君の学校生活

華愁
青春
誰もが羨むイケメンの〈久留宮蛍〉には秘密があった㊙️ それは"腐男子"である事。

処理中です...