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2年生3学期
3月8日(水)晴れ 挑戦する清水夢愛その6
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高校公立入試の水曜日。
しかし、今日は清水先輩と会う約束をしているので、朝に明莉を見送った後は少し申し訳ない気持ちになりながら家を出た。
集合場所は長期休みで散歩する時の場所で、清水先輩は既に来て待っていた。
「おはようございます。待たせてすみません」
「いや、3分くらい前に着いたばっかりだ。おはよう、良助」
「そうですか。それと……改めて合格おめでとうございます」
「ありがとう。まぁ、とりあえず歩きながら話そうか」
そう、会う約束とは言ったけど、やることはいつも通り歩きながら話すことだった。
この日は春先並み温かさだったので、散歩日和だったけど、久しぶりに会うからどこかでお茶でもするものかと……いや、よく考えたら清水先輩はそういう人ではなかった。
「そうか。今日は妹さんが受験か。全然配慮できてなかった……」
「いえいえ。どうせ家にいても今日は暇でしたし……」
「言い訳するわけじゃないが、私の中だと続けてずっと中学生の印象だったよ。いや、3月末までは中学生なんだけど」
「たぶん、今年はあんまり妹の話をしてなかったからだと思います」
「……うむ。確かに。良助はよく妹の話題を出す印象がある」
「自分で言っといて何ですけど、そんなにしてました……?」
「そんな気はする。実際、今も話の始まりは妹さんからだし」
それについては今日一番のトピックだと思ったからだけど……聞いた人が言うなら本当なのだろう。
清水先輩の前だと比較的マシだと勝手に思っていた。
「あっ。そういえば小織も合格してたよ。たぶん教えて貰ってないだろう?」
「おお、そうですか!」
「やっぱり知らなかったか」
「はい。というか、清水先輩以外の先輩方がどういう状況かあまり知りません。こっちから聞く感じでもないですし」
「へー 案外みんな言わないものなのか。私は普通に小織聞いてしまったが……不合格だったらどうするつもりだったのかと言われた」
「それはそうでしょう」
「い、いや、小織なら合格してると信じてたからだし……」
「別に責めてませんよ。清水先輩らしいと思います」
「それはそれで褒められてる気はしないが……まぁ、これで小織とも暫く離れ離れだ」
「あっ……」
清水先輩達が受験シーズンに入る前の記憶だけど、桜庭先輩は県外の大学へ進学を考えていると聞いた覚えがある。
つまりは、清水先輩が家から通える範囲の大学に行くと決まった時点で、こうなることはわかっていた。
けれども、それが確定した今になると、何とも言えない気持ちになる。
「だから、大学に入ってからどうしようかとちょっと考えててな。大々的に大学デビューするか、一人で自由に行動するか」
「今のところは……どっちなんですか?」
「もちろん、一人で自由。考えてると言いつつ大学デビューはできないと思ってるよ。小織がいないと人間関係を構築できる気がしない」
「そんなことは……」
「あっ。言っておくが、全然悲観してないぞ。自由でいられる方が私には合ってるからな」
「それなら……いいと思います。大学はやりたいことをやる場所ですし」
「ああ。それに良助もあと1年はここにいるわけだし」
「えっ?」
「うん? 別に今から転校する予定はないだろう?」
清水先輩はさも当然のことであるかのように言うから、僕は驚いてしまった。
確かに清水先輩がいる場所は変わらないけど……環境が変われば疎遠になると思い込んでいた。
でも、清水先輩の方はそんなつもりは全くなかったらしい。
何なら今日で最後の話かもしれないと思っていたのに――
「ふふっ」
「ど、どうした良助。思い出し笑いか?」
「いえ、その……やっぱり清水先輩らしいなぁと」
「いったいどの発言からそう思ったかわからないが……私はいつまでも私だと思う。良くも悪くも大きくは成長できないよ」
「僕からすると、清水先輩は結構成長……というか、変わったところも多いと思います。それでも清水先輩らしさは変わらないというか」
「うーん……これは褒められたと受け取っておこう」
そんなわけで、僕と清水先輩の繋がりはもう少しだけ続きそうだった。
実際にどうなるかは清水先輩が入学したり、僕が3年生になってからじゃないとわからない。
だけど、来年もそれほど変わらないような予感はした。
しかし、今日は清水先輩と会う約束をしているので、朝に明莉を見送った後は少し申し訳ない気持ちになりながら家を出た。
集合場所は長期休みで散歩する時の場所で、清水先輩は既に来て待っていた。
「おはようございます。待たせてすみません」
「いや、3分くらい前に着いたばっかりだ。おはよう、良助」
「そうですか。それと……改めて合格おめでとうございます」
「ありがとう。まぁ、とりあえず歩きながら話そうか」
そう、会う約束とは言ったけど、やることはいつも通り歩きながら話すことだった。
この日は春先並み温かさだったので、散歩日和だったけど、久しぶりに会うからどこかでお茶でもするものかと……いや、よく考えたら清水先輩はそういう人ではなかった。
「そうか。今日は妹さんが受験か。全然配慮できてなかった……」
「いえいえ。どうせ家にいても今日は暇でしたし……」
「言い訳するわけじゃないが、私の中だと続けてずっと中学生の印象だったよ。いや、3月末までは中学生なんだけど」
「たぶん、今年はあんまり妹の話をしてなかったからだと思います」
「……うむ。確かに。良助はよく妹の話題を出す印象がある」
「自分で言っといて何ですけど、そんなにしてました……?」
「そんな気はする。実際、今も話の始まりは妹さんからだし」
それについては今日一番のトピックだと思ったからだけど……聞いた人が言うなら本当なのだろう。
清水先輩の前だと比較的マシだと勝手に思っていた。
「あっ。そういえば小織も合格してたよ。たぶん教えて貰ってないだろう?」
「おお、そうですか!」
「やっぱり知らなかったか」
「はい。というか、清水先輩以外の先輩方がどういう状況かあまり知りません。こっちから聞く感じでもないですし」
「へー 案外みんな言わないものなのか。私は普通に小織聞いてしまったが……不合格だったらどうするつもりだったのかと言われた」
「それはそうでしょう」
「い、いや、小織なら合格してると信じてたからだし……」
「別に責めてませんよ。清水先輩らしいと思います」
「それはそれで褒められてる気はしないが……まぁ、これで小織とも暫く離れ離れだ」
「あっ……」
清水先輩達が受験シーズンに入る前の記憶だけど、桜庭先輩は県外の大学へ進学を考えていると聞いた覚えがある。
つまりは、清水先輩が家から通える範囲の大学に行くと決まった時点で、こうなることはわかっていた。
けれども、それが確定した今になると、何とも言えない気持ちになる。
「だから、大学に入ってからどうしようかとちょっと考えててな。大々的に大学デビューするか、一人で自由に行動するか」
「今のところは……どっちなんですか?」
「もちろん、一人で自由。考えてると言いつつ大学デビューはできないと思ってるよ。小織がいないと人間関係を構築できる気がしない」
「そんなことは……」
「あっ。言っておくが、全然悲観してないぞ。自由でいられる方が私には合ってるからな」
「それなら……いいと思います。大学はやりたいことをやる場所ですし」
「ああ。それに良助もあと1年はここにいるわけだし」
「えっ?」
「うん? 別に今から転校する予定はないだろう?」
清水先輩はさも当然のことであるかのように言うから、僕は驚いてしまった。
確かに清水先輩がいる場所は変わらないけど……環境が変われば疎遠になると思い込んでいた。
でも、清水先輩の方はそんなつもりは全くなかったらしい。
何なら今日で最後の話かもしれないと思っていたのに――
「ふふっ」
「ど、どうした良助。思い出し笑いか?」
「いえ、その……やっぱり清水先輩らしいなぁと」
「いったいどの発言からそう思ったかわからないが……私はいつまでも私だと思う。良くも悪くも大きくは成長できないよ」
「僕からすると、清水先輩は結構成長……というか、変わったところも多いと思います。それでも清水先輩らしさは変わらないというか」
「うーん……これは褒められたと受け取っておこう」
そんなわけで、僕と清水先輩の繋がりはもう少しだけ続きそうだった。
実際にどうなるかは清水先輩が入学したり、僕が3年生になってからじゃないとわからない。
だけど、来年もそれほど変わらないような予感はした。
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