上 下
704 / 942
2年生3学期

3月8日(水)晴れ 挑戦する清水夢愛その6

しおりを挟む
 高校公立入試の水曜日。
 しかし、今日は清水先輩と会う約束をしているので、朝に明莉を見送った後は少し申し訳ない気持ちになりながら家を出た。

 集合場所は長期休みで散歩する時の場所で、清水先輩は既に来て待っていた。

「おはようございます。待たせてすみません」

「いや、3分くらい前に着いたばっかりだ。おはよう、良助」

「そうですか。それと……改めて合格おめでとうございます」

「ありがとう。まぁ、とりあえず歩きながら話そうか」

 そう、会う約束とは言ったけど、やることはいつも通り歩きながら話すことだった。
 この日は春先並み温かさだったので、散歩日和だったけど、久しぶりに会うからどこかでお茶でもするものかと……いや、よく考えたら清水先輩はそういう人ではなかった。

「そうか。今日は妹さんが受験か。全然配慮できてなかった……」

「いえいえ。どうせ家にいても今日は暇でしたし……」

「言い訳するわけじゃないが、私の中だと続けてずっと中学生の印象だったよ。いや、3月末までは中学生なんだけど」

「たぶん、今年はあんまり妹の話をしてなかったからだと思います」

「……うむ。確かに。良助はよく妹の話題を出す印象がある」

「自分で言っといて何ですけど、そんなにしてました……?」

「そんな気はする。実際、今も話の始まりは妹さんからだし」

 それについては今日一番のトピックだと思ったからだけど……聞いた人が言うなら本当なのだろう。
 清水先輩の前だと比較的マシだと勝手に思っていた。

「あっ。そういえば小織も合格してたよ。たぶん教えて貰ってないだろう?」

「おお、そうですか!」

「やっぱり知らなかったか」

「はい。というか、清水先輩以外の先輩方がどういう状況かあまり知りません。こっちから聞く感じでもないですし」

「へー 案外みんな言わないものなのか。私は普通に小織聞いてしまったが……不合格だったらどうするつもりだったのかと言われた」

「それはそうでしょう」

「い、いや、小織なら合格してると信じてたからだし……」

「別に責めてませんよ。清水先輩らしいと思います」

「それはそれで褒められてる気はしないが……まぁ、これで小織とも暫く離れ離れだ」

「あっ……」

 清水先輩達が受験シーズンに入る前の記憶だけど、桜庭先輩は県外の大学へ進学を考えていると聞いた覚えがある。
 つまりは、清水先輩が家から通える範囲の大学に行くと決まった時点で、こうなることはわかっていた。
 けれども、それが確定した今になると、何とも言えない気持ちになる。

「だから、大学に入ってからどうしようかとちょっと考えててな。大々的に大学デビューするか、一人で自由に行動するか」

「今のところは……どっちなんですか?」

「もちろん、一人で自由。考えてると言いつつ大学デビューはできないと思ってるよ。小織がいないと人間関係を構築できる気がしない」

「そんなことは……」

「あっ。言っておくが、全然悲観してないぞ。自由でいられる方が私には合ってるからな」

「それなら……いいと思います。大学はやりたいことをやる場所ですし」

「ああ。それに良助もあと1年はここにいるわけだし」

「えっ?」

「うん? 別に今から転校する予定はないだろう?」

 清水先輩はさも当然のことであるかのように言うから、僕は驚いてしまった。
 確かに清水先輩がいる場所は変わらないけど……環境が変われば疎遠になると思い込んでいた。
 でも、清水先輩の方はそんなつもりは全くなかったらしい。
 何なら今日で最後の話かもしれないと思っていたのに――

「ふふっ」

「ど、どうした良助。思い出し笑いか?」

「いえ、その……やっぱり清水先輩らしいなぁと」

「いったいどの発言からそう思ったかわからないが……私はいつまでも私だと思う。良くも悪くも大きくは成長できないよ」

「僕からすると、清水先輩は結構成長……というか、変わったところも多いと思います。それでも清水先輩らしさは変わらないというか」

「うーん……これは褒められたと受け取っておこう」

 そんなわけで、僕と清水先輩の繋がりはもう少しだけ続きそうだった。
 実際にどうなるかは清水先輩が入学したり、僕が3年生になってからじゃないとわからない。
 だけど、来年もそれほど変わらないような予感はした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

私の親友がかわいすぎて触れたらダメな気がする

ゆんさんですが
青春
主人公 七瀬ゆな(ななせ),(高校三年生)が可愛すぎる親友の矢弥未菜わこ(ややみな)を触れれるようになるまでのお話かもしれないし違うかもしれない話

私立桃華学園! ~性春謳歌の公式認可《フリーパス》~

cure456
青春
『私立桃華学園』  初中高等部からなる全寮制の元女子校に、期待で色々と膨らませた主人公が入学した。しかし、待っていたのは桃色の学園生活などではなく……?  R15の学園青春バトル! 戦いの先に待つ未来とは――。

へたくそ

MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。 チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。 後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。 3人の視点から物語は進行していきます。 チームメイトたちとの友情と衝突。 それぞれの想い。 主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。 この作品は https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています) 小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS にも掲載しています。

CROWNの絆

須藤慎弥
青春
【注意】 ※ 当作はBLジャンルの既存作『必然ラヴァーズ』、『狂愛サイリューム』のスピンオフ作となります ※ 今作に限ってはBL要素ではなく、過去の回想や仲間の絆をメインに描いているためジャンルタグを「青春」にしております ※ 狂愛サイリュームのはじまりにあります、聖南の副総長時代のエピソードを読了してからの閲覧を強くオススメいたします ※ 女性が出てきますのでアレルギーをお持ちの方はご注意を ※ 別サイトにて会員限定で連載していたものを少しだけ加筆修正し、2年温めたのでついに公開です 以上、ご理解くださいませ。 〜あらすじとは言えないもの〜  今作は、唐突に思い立って「書きたい!!」となったCROWNの過去編(アキラバージョン)となります。  全編アキラの一人称でお届けします。  必然ラヴァーズ、狂愛サイリュームを読んでくださった読者さまはお分かりかと思いますが、激レアです。  三人はCROWN結成前からの顔見知りではありましたが、特別仲が良かったわけではありません。  会えば話す程度でした。  そこから様々な事があって三人は少しずつ絆を深めていき、現在に至ります。  今回はそのうちの一つ、三人の絆がより強くなったエピソードをアキラ視点で書いてみました。  以前読んでくださった方も、初見の方も、楽しんでいただけますように*(๑¯人¯)✧*

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

パンとサーカスと、自転車に乗って

常に移動する点P
青春
祖父が戦時中に身に着けた特殊能力【火炎】【回復】【蘇生】【瞬間移動】【呪い】が隔世遺伝した久保隅秀一。母に捨てられ、祖母の咲江と一緒に暮らす。穏やかな暮らしのなか、いじめられっ子の重野正美と「ボカロP」という共通点から親しくなる。  「パンとサーカス」 食料と娯楽で満足になって政治に無関心になるということを表している。ユウェナリスという詩人のことばから始まる、友情の物語。

優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由

棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。 (2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。 女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。 彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。 高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。 「一人で走るのは寂しいな」 「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」 孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。 そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。 陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。 待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。 彼女達にもまた『駆ける理由』がある。 想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。 陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。 それなのに何故! どうして! 陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか! というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。 嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。 ということで、書き始めました。 陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。 表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。

処理中です...