上 下
683 / 942
2年生3学期

2月15日(水)曇り時々雪 奮起する大山亜里沙その5

しおりを挟む
 冬に気温が戻ってしまったらしい水曜日。
 雪がそれほど降らなかったのは良かったけど、自転車に乗って風を切ると寒いのはそろそろ勘弁して欲しい。

 そんな今日はバレンタインの感想会といった感じで、教室でも塾でもその話題が出ていた。

「じゃあ、亜里沙はみーちゃんのチョコ貰ったってこと? いいなぁー」

「ごめんね。今日渡せば良かったのにすっかり忘れてて……」

「ううん。私も持って来てないし、1日過ぎちゃうとなんか違う感じもするし」

 申し訳なさそうにする路ちゃんに重森さんはそう言う。
 女子間のチョコ交換がどうなっているかは知らなかったけど、クラスを超えてまでの交換はできなかったようだ。

「それでどんなチョコだったの?」

「生チョコ。ちょっぴりビターめだったけど、凄く美味しかった」

「良かったぁ……」

「ミチ、そんなに不安だったの? 全然問題なかったって。ね、うぶクン?」

「もちろん」

 僕は路ちゃんを真っ直ぐ見て頷く。
 感想は直接伝えていたけど、その時もちょっぴり自信が無さそうだったから、念押ししておかなくては。

「ますます食べたかったなぁ」

「ちょっと。食べたはずのアタシのチョコの感想は?」

「普通に美味しかった」

「うーん……簡単過ぎない?」

「そんなに言うなら産賀くんに聞いてみたら?」

 重森さんは何の気なしにそう振るけど、僕と大山さんは一瞬固まってしまう。
 だけど、先に僕の方が口を開いた。

「僕は貰ってないよ。ほら、路ちゃんから貰えるし」

「あっ、そっか。じゃあ、みーちゃんから亜里沙の感想をどうぞ」

「え、えっと……」

 路ちゃんが困惑していたのは、大山さんのチョコの感想を悩んでいる……わけではなく、この空気感のせいだろう。
 実際のところ、今年は大山さんからチョコを貰っていない。
 いや、必ず貰えるなんて思っていなかったし、今言い訳に使った理由が1つの要因であるとは思う。
 ただ、それなら大山さんも即座に否定してくれれば良かったようにも――

「ごめんね、うぶクン。余計に気を遣わせちゃって」

「いや、全然。でも、大山さんのチョコもちょっと食べてみたかったかも」

「……ホントに?」

「うん」

「……じゃあ、ミチから分けて貰って。余ってたらだケド」

 大山さんは冗談っぽく笑いながらそう言う。

 まぁ、大山さんの方も何か気遣おうとしてくれたが故の沈黙だったのだと思う。
 路ちゃんから本当に分けて貰うつもりはないので、後で路ちゃんから感想でも聞いておこう。
しおりを挟む

処理中です...