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2年生3学期
2月4日(土)曇り 明莉との日常その76
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暦の上では春の土曜日。
先週の大雪の影響から、本日も午前中は土曜授業だった。
ただ、今日の本題はそちらではなく、二日前に頼まれた明莉のバレンタインの手伝いだ。
午後からスーパーへ買い出しに行って、スマホでレシピを開きながら必要な材料を購入していく。
「うーん……どれがいいかなぁ」
しかし、肝心の手作りチョコをどういうタイプにするかはまだ決まっていないようだった。
店内には既製品のチョコがピックアップされて大量に並んでいるけど、そちらには全く目がいかないようだ。
バレンタインチョコには付き合う前に気持ちを送るイメージがあるから、付き合った後でもこんな風に考えてくれるのはありがたいことなのかもしれない。
「桜庭くんは甘いの好きとか聞いてないの?」
「……甘いチョコが嫌いという発想がなかった」
「マジか」
「だ、だって、あかりと一緒に甘いモノ食べに行ってるし、無理して食べてる感じはなかったよ?」
「まぁ、それなら大丈夫か。だったら、なるべく明莉でも作りやすい簡単なやつにした方がいいんじゃないか?」
「りょうちゃん。あかりが簡単に作れるのはチョコを砕いた後にボウルごと冷やすやつくらいだよ」
「料理ですらない……というか、そこまで酷くないだろう」
「それはどうかな。本当に今年度は一切調理過程に携わってないから」
明莉はなぜか自慢げに言う。でも、思い返す限り直近に両親がいない時は僕が料理担当で……いや、そもそもずっとそうじゃないか。
「型に入れてもう一回固めるだけでも手作りになると思うけど」
「それじゃあ、味見する時に味気なくない?」
「いや、味見を前提に考えないで」
「じゃあ、形を変えるだけじゃ楽したと思われるのが嫌だ」
「じゃあって言うなよ。別に貰う側は自分のために作ったり選んだりしてくれた事実だけでも十分だと思うぞ」
「うーん……それなら既製品でもいいか」
「おいおい。楽したと思われるのは嫌じゃなかったのか」
「冗談だって。でも、もうちょっと考えさせて」
どこまで本気なのかわからないけど、考えている明莉の表情には真剣みがあった。
本当に面倒くさければ、僕に相談することもないから、何かしてあげたい気持ちは本当に違いない。
でも、そう考えると……兄である僕の意見や手を加えるのは良くないんじゃないか?
桜庭くんがどれくらい事実を知らされているかわからないけど、貰うなら純度100%の明莉作を望んでいるんじゃないか?
自分に置き換えて考えると……許せはするけど、ちょっと微妙な気持ちになる。
「よし、決めた。ガトーショコラにする」
「あ、明莉。やっぱり一人で作れるやつの方が……」
「大丈夫。いざとなったらりょうちゃんが二人羽織のようにあかりを動かしてくれたらいいから。明莉が作ったことには変わらない!」
その勢いのまま、明莉は必要な材料を買い物かごに入れるので、僕は止められなかった。
去年はまだ桜庭くんのことを知らなかったから、こんな気持ちにはならなかったけど、知った上でこうなると、何だか申し訳なさが勝っていた。
夏休みの自由研究を親がほとんどやってしまうような事態にならないよう、今年の手伝いは最低限にしようと思う。
先週の大雪の影響から、本日も午前中は土曜授業だった。
ただ、今日の本題はそちらではなく、二日前に頼まれた明莉のバレンタインの手伝いだ。
午後からスーパーへ買い出しに行って、スマホでレシピを開きながら必要な材料を購入していく。
「うーん……どれがいいかなぁ」
しかし、肝心の手作りチョコをどういうタイプにするかはまだ決まっていないようだった。
店内には既製品のチョコがピックアップされて大量に並んでいるけど、そちらには全く目がいかないようだ。
バレンタインチョコには付き合う前に気持ちを送るイメージがあるから、付き合った後でもこんな風に考えてくれるのはありがたいことなのかもしれない。
「桜庭くんは甘いの好きとか聞いてないの?」
「……甘いチョコが嫌いという発想がなかった」
「マジか」
「だ、だって、あかりと一緒に甘いモノ食べに行ってるし、無理して食べてる感じはなかったよ?」
「まぁ、それなら大丈夫か。だったら、なるべく明莉でも作りやすい簡単なやつにした方がいいんじゃないか?」
「りょうちゃん。あかりが簡単に作れるのはチョコを砕いた後にボウルごと冷やすやつくらいだよ」
「料理ですらない……というか、そこまで酷くないだろう」
「それはどうかな。本当に今年度は一切調理過程に携わってないから」
明莉はなぜか自慢げに言う。でも、思い返す限り直近に両親がいない時は僕が料理担当で……いや、そもそもずっとそうじゃないか。
「型に入れてもう一回固めるだけでも手作りになると思うけど」
「それじゃあ、味見する時に味気なくない?」
「いや、味見を前提に考えないで」
「じゃあ、形を変えるだけじゃ楽したと思われるのが嫌だ」
「じゃあって言うなよ。別に貰う側は自分のために作ったり選んだりしてくれた事実だけでも十分だと思うぞ」
「うーん……それなら既製品でもいいか」
「おいおい。楽したと思われるのは嫌じゃなかったのか」
「冗談だって。でも、もうちょっと考えさせて」
どこまで本気なのかわからないけど、考えている明莉の表情には真剣みがあった。
本当に面倒くさければ、僕に相談することもないから、何かしてあげたい気持ちは本当に違いない。
でも、そう考えると……兄である僕の意見や手を加えるのは良くないんじゃないか?
桜庭くんがどれくらい事実を知らされているかわからないけど、貰うなら純度100%の明莉作を望んでいるんじゃないか?
自分に置き換えて考えると……許せはするけど、ちょっと微妙な気持ちになる。
「よし、決めた。ガトーショコラにする」
「あ、明莉。やっぱり一人で作れるやつの方が……」
「大丈夫。いざとなったらりょうちゃんが二人羽織のようにあかりを動かしてくれたらいいから。明莉が作ったことには変わらない!」
その勢いのまま、明莉は必要な材料を買い物かごに入れるので、僕は止められなかった。
去年はまだ桜庭くんのことを知らなかったから、こんな気持ちにはならなかったけど、知った上でこうなると、何だか申し訳なさが勝っていた。
夏休みの自由研究を親がほとんどやってしまうような事態にならないよう、今年の手伝いは最低限にしようと思う。
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