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2年生3学期

1月31日(火)曇り 後輩との日常・岸元日葵の場合その13

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 1月最終日の火曜日。
 年明けからもう1ヶ月と考えると早い……と言いたいところだけど、僕としては今月はたっぷり詰まってそこそこの時間が経っているような気がした。

 そう感じた理由の1つには、文芸部に花園さんが入部してくれた件だ。

「い、伊月さん。貴方は良助の友人の彼女ということで、遠からず華凛とも縁があるというか……」

「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ、花園先輩。でも、たぶん浩太くんからになるとわたしに辿り着くまで時間がかかると思います」

「で、では、ミチちゃんの方なら……」

「えっと……普通に今私と話してるから直接知り合いでいいと思います」

 花園さんはゆっくりではあるけど、後輩の女子3人とは会話ができるようになってきた。
 この3人と仲良くなってくれれば、とりあえず残りの活動でも楽しく過ごせるはずだ。

「産賀センパイ、そろそろ頃合いじゃないですか?」

「えっ? 何が?」

「それはもちろん……花園センパイの歓迎会ですよ!」

 そう言いながら日葵さんはサムズアップを見せる。
 またこのパターンかと思いながらも、全く無しとは言いづらいので、僕は会話を続けることにした。

「さすがに一人入部では祝うのは難しいんじゃないかな。3年生とのお別れ会や来年度の新入生の歓迎会と合わせればいいと思う」

「えー、ひどくないですか? ひまりが部長なら逐一やりますけど」

「いや、部内の予算やみんなの都合もあるから」

「そこは自腹でもいいんですよ。花園センパイは他の子よりもイベント参加が少ないから、余計に開くべきだと思います!」

 日葵さんのお祭り好きはともかくとして、花園さんが今までのイベントに参加できていない事実はその通りだ。
 その分を取り返して欲しい気持ちはあるから、自腹で開くのもアリなんだろうか?

「まぁ、まずは路ちゃんと話してからかな。というか、なんで毎回副部長の僕から相談するの」

「それは……産賀センパイの方がすぐ説得できそうだから?」

「別にそうでもないと思うけど」

「確かに今回は路センパイの方が親しい友人ですし、そっちから行って産賀センパイを丸め込む方が良かったか……」

「日葵さん、意外と考えているんだね」

「意外とってちょっと馬鹿にしてませんか!? あーあ。ひまりが部長になったら産賀センパイのことこき使っちゃいますからね!」

「ご、ごめん。でも、部長にそんな権力はないから」

「じゃあ、路センパイにチクるようにします」

「何をチクるか知らないけど、やめて!」

 別に弱みを握られている覚えはないけど、何だか怖くてそう言ってしまった。
 日葵さんの話術なら路ちゃんも信じてしまいそうな気がする。

「そ、それなら花園さんは今月誕生日だから、部内でちょっと祝うとか……どう?」

「おっ、それいいじゃないですか。というか、部員の誕生日もパーッと祝うべきじゃないですかぁ。来年からはそうしよーっと」


 逃げのために余計なことを言ってしまった気がするけど……少なくとも花園さんを還元する点ではいいことだと思う。
 来年度の文芸部は、改革の年になるかもしれない。
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