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2年生3学期
1月13日(金)曇り 後輩との日常・岸元日葵の場合その12
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新年最初の部活が行われた金曜日。
今日から文芸部に花園さんを迎えることになるけれど、3年生は明日から大学入学共通テストなので、本日は1年生のみと顔合わせする。
まぁ、花園さんが3年生と関われる時間はほとんどないので、1年生に溶け込めるかが重要だ。
「かりんちゃん、大丈夫?」
「だだだ大丈夫です。問題ありませんんん」
部室に入る前の花園さんは珍しく緊張気味で……いや、想像以上に緊張していた。
昨日の感じなら冗談を交えて行けそうな空気だったのに。
「部活としては後輩ですが、校内においては先輩ですので……あれ? その場合、華凛は下の立場になるのでしょうか? 最初は雑用から……?」
「ふ、普通に部員として入って貰うから心配しないで」
「そ、そうですよね。ミチちゃんが取り仕切る組織がそんな殺伐としているわけがありません」
「う、うん……りょ、良助くん」
「えっ? どうしたの?」
「……わたしまで緊張してきた。何だか1年生の時になかなか部室へ入れなかったのを思い出して……」
それは逆戻りし過ぎで非常に困る。
最近はしっかりしていた路ちゃんが影響を受けるのは、花園さんとの仲の良さのせいか。
一方の僕は緊張が伝染してなかったので、冷静に言葉を返す。
「ここで止まっても仕方ないからそろそろ入ろう。僕が話を進めるから」
それに対して2人は頷いたので、僕は部室の扉を開ける。
「産賀センパイと路センパイあけおめでーす! 今年もよろ……あら?」
元気な声で迎え入れてくれたのは日葵さんだったけど、すぐにその目線は花園さんに移っていった。
「えっと……ひまりが年末ボケしていなければ、知らないセンパイ?」
「みんな明けましておめでとう。年始の説明の前にちょっと報告を。こちらは2年生の花園華凛さん。今日から文芸部に入部することになったんだ」
「み、皆さま、ご紹介に預かりました。花園華凛と……」
「えー!? マジですか!? このタイミングで入部のセンパイって……あっ、どうも。ひまりは1年生の岸元日葵っていいまーす! 現部長の路センパイとは苗字の読み被りで……あっ!? 来年からひまりが部長なら2年連続できしもと部長になるじゃないですか!?」
凄くないですかとでも言いたげな感じで、日葵さんは路ちゃんの方を見る。
でも、連鎖で緊張していた路ちゃんは全然反応できていなかった。
「こら、日葵。花園さんが困ってるから。すみません、産賀さん。改めて紹介を続けてください」
そこに伊月さんがすかさずフォローを入れてくれる。
「えっと……それじゃあ、花園さんからもう一度自己紹介して貰おうかな」
「リョウスケ。この空気で華凛から喋らせようというのですか……?」
「えっ。でも、花園さんは何か考えてきたんじゃ……」
「な、なにもありません。ぜんぶとびました」
「お、おお……えー、花園さんは僕と路ちゃんの友人でもあり、前々から文芸部にも興味を持ってくれていて……」
「ということは2人の関係性も知ってたんすか!? というか、産賀先輩は女子の知り合いそんなに多いんすか!?」
僕のアドリブ解説に久しぶりの桐山くんの声が挟まされる。
彼女ができた報告以降、桐山くんはやや僕への当たりが強くなった気がする。
……何となくだけど。
「それは今関係ないから」
「それよりも花園センパイとお喋りタイムを設けましょう! それが色々知るのに一番早いです!」
「そ、そうかな……花園さんはどう?」
「……も、もう好きにしてください」
「わーい! ほら、茉奈と青蘭、囲め―!」
それから10分ほど花園さんと路ちゃんは1年女子3人とのお喋りを始めて、僕は桐山くんの恨み節を聞いていた。
その結果……
「……つ、疲れました」
さすがに一回で馴染めるわけがなく、花園さんはシンプルに疲弊していた。
「ご、ごめんね、かりんちゃん。わたしが不甲斐ないばかりに……」
「いえ。ミチちゃんは悪くありません。それに歓迎されていないよりはマシだったので……恐らく」
「で、でも、日葵ちゃんも悪い子じゃないから、そこは安心して」
「ええ。ですが……来年度からは彼女がトップなんですよね……?」
その聞き方には花園さんの少しばかりの不安が垣間見えていた。
僕も日葵さんの勢いを全く止められなかったのは反省すべきだけど、歓迎しているのは良いことだと捉えたい。
来週以降はお互いにもっと落ち着いて話せたらいいと思った。
今日から文芸部に花園さんを迎えることになるけれど、3年生は明日から大学入学共通テストなので、本日は1年生のみと顔合わせする。
まぁ、花園さんが3年生と関われる時間はほとんどないので、1年生に溶け込めるかが重要だ。
「かりんちゃん、大丈夫?」
「だだだ大丈夫です。問題ありませんんん」
部室に入る前の花園さんは珍しく緊張気味で……いや、想像以上に緊張していた。
昨日の感じなら冗談を交えて行けそうな空気だったのに。
「部活としては後輩ですが、校内においては先輩ですので……あれ? その場合、華凛は下の立場になるのでしょうか? 最初は雑用から……?」
「ふ、普通に部員として入って貰うから心配しないで」
「そ、そうですよね。ミチちゃんが取り仕切る組織がそんな殺伐としているわけがありません」
「う、うん……りょ、良助くん」
「えっ? どうしたの?」
「……わたしまで緊張してきた。何だか1年生の時になかなか部室へ入れなかったのを思い出して……」
それは逆戻りし過ぎで非常に困る。
最近はしっかりしていた路ちゃんが影響を受けるのは、花園さんとの仲の良さのせいか。
一方の僕は緊張が伝染してなかったので、冷静に言葉を返す。
「ここで止まっても仕方ないからそろそろ入ろう。僕が話を進めるから」
それに対して2人は頷いたので、僕は部室の扉を開ける。
「産賀センパイと路センパイあけおめでーす! 今年もよろ……あら?」
元気な声で迎え入れてくれたのは日葵さんだったけど、すぐにその目線は花園さんに移っていった。
「えっと……ひまりが年末ボケしていなければ、知らないセンパイ?」
「みんな明けましておめでとう。年始の説明の前にちょっと報告を。こちらは2年生の花園華凛さん。今日から文芸部に入部することになったんだ」
「み、皆さま、ご紹介に預かりました。花園華凛と……」
「えー!? マジですか!? このタイミングで入部のセンパイって……あっ、どうも。ひまりは1年生の岸元日葵っていいまーす! 現部長の路センパイとは苗字の読み被りで……あっ!? 来年からひまりが部長なら2年連続できしもと部長になるじゃないですか!?」
凄くないですかとでも言いたげな感じで、日葵さんは路ちゃんの方を見る。
でも、連鎖で緊張していた路ちゃんは全然反応できていなかった。
「こら、日葵。花園さんが困ってるから。すみません、産賀さん。改めて紹介を続けてください」
そこに伊月さんがすかさずフォローを入れてくれる。
「えっと……それじゃあ、花園さんからもう一度自己紹介して貰おうかな」
「リョウスケ。この空気で華凛から喋らせようというのですか……?」
「えっ。でも、花園さんは何か考えてきたんじゃ……」
「な、なにもありません。ぜんぶとびました」
「お、おお……えー、花園さんは僕と路ちゃんの友人でもあり、前々から文芸部にも興味を持ってくれていて……」
「ということは2人の関係性も知ってたんすか!? というか、産賀先輩は女子の知り合いそんなに多いんすか!?」
僕のアドリブ解説に久しぶりの桐山くんの声が挟まされる。
彼女ができた報告以降、桐山くんはやや僕への当たりが強くなった気がする。
……何となくだけど。
「それは今関係ないから」
「それよりも花園センパイとお喋りタイムを設けましょう! それが色々知るのに一番早いです!」
「そ、そうかな……花園さんはどう?」
「……も、もう好きにしてください」
「わーい! ほら、茉奈と青蘭、囲め―!」
それから10分ほど花園さんと路ちゃんは1年女子3人とのお喋りを始めて、僕は桐山くんの恨み節を聞いていた。
その結果……
「……つ、疲れました」
さすがに一回で馴染めるわけがなく、花園さんはシンプルに疲弊していた。
「ご、ごめんね、かりんちゃん。わたしが不甲斐ないばかりに……」
「いえ。ミチちゃんは悪くありません。それに歓迎されていないよりはマシだったので……恐らく」
「で、でも、日葵ちゃんも悪い子じゃないから、そこは安心して」
「ええ。ですが……来年度からは彼女がトップなんですよね……?」
その聞き方には花園さんの少しばかりの不安が垣間見えていた。
僕も日葵さんの勢いを全く止められなかったのは反省すべきだけど、歓迎しているのは良いことだと捉えたい。
来週以降はお互いにもっと落ち着いて話せたらいいと思った。
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