上 下
630 / 942
2年生冬休み

12月24日(土)雪 ロマンティックにはほど遠い

しおりを挟む
 冬休み初日の土曜日。
 そして、クリスマスイブ。
 本来なら勘弁して欲しい雪も、今日の気持ち的には舞台を整えてくれたと思えた。

 集合時間の15分前に到着すると、路ちゃんも程なくしてお互いの真面目さを少し笑い合う。
 今日の路ちゃんは雪の日だけあってとても暖かそうな服装だった。
 1年前くらいは私服を見るのが珍しいと思っていたのに、今は塾の日は必ず私服なので、この1年は制服以外の路ちゃんをたくさん見てきたと思う。
 でも、その中でも今日の路ちゃんは……何だかいつも以上に可愛く見えた。

 それからクリスマスムードの街の中をあてもなく歩く。
 先週のように何か計画しようと思っていたけど、路ちゃんが今日はそうしなくても大丈夫だと言ったからだ。
 その理由は……また緊張してしまいそうだから。
 そう、この時点ではまだ僕と路ちゃんは、単に冬休みの初日の暇を潰す2人でしかない。
 
 お昼ご飯は歩く中で見つけた洋食屋さんに入った。
 晩ご飯で食べるのはチキンとケーキだから、それと被らなくて、何となくクリスマスっぽいのは洋食だという意見になったからだ。
 先週のカフェよりもリラックスした雰囲気が流れていく。
 教室では専ら大倉くんと食べるから、路ちゃんとご飯を食べるのは結構珍しい。
 この日の路ちゃんはかなり饒舌だったので、僕にしてはかなりゆっくりとご飯を食べることになった。

 洋食店を出ると、足は少しゆっくりになりながらまたクリスマスの空気を浴びていく。
 登校している時も目に入っていたはずだけど、改めて見ると想像よりもクリスマスらしい飾り付けがあった。
 でも、それと同時に昼を過ぎたせいか、カップルと思われる2人組が増えてくる。
 去年までは自宅待機だったから、話に聞く程度だったけど、クリスマスは本当にそういう日なんだと実感した。

 ……そうであるならば。路ちゃんがこの日に僕をもう一度誘った意味とは。
 一度は言うのを阻まれてしまったけど、あれから僕の気持ちは少しだけ変わった。
 その時は、路ちゃんが僕を想ってくれるなら、僕も応えたいと思った故の行動だった。
 こう書くと、どうにも上から目線になってしまうけど、僕としてはその気持ちが素直に嬉しいと思っていた。
 それが今は……路ちゃんともう一歩近づきたいと思っている。
 相手の気持ちを知ってから好きになるのは、もしかしたら不誠実なのかもしれない。
 だから、僕と同じように路ちゃんの気持ちも前とは変わっている可能性はある。
 それでも……もう一度が許されるなら。

「良助くん」

「な、なに?」

「……もうちょっと静かなところに行こう?」

 路ちゃんはそう言いながら僕に右手を差し出してくる。
 僕は一瞬戸惑ってしまったけど、その手を掴んだ。

 次に足を止めたのは河川敷だった。
 冬らしい冷たい空気は感じるけど、さすがにここではクリスマスらしさはない。
 でも、着いた時に、路ちゃんはホッと一息ついた。

「……クリスマスイブの街の中って本当にああいう感じなんだ」

「路ちゃんも思ってたんだ」

「ということは、良助くんも?」

「うん。ちょっと飲まれそうだった」

「ふふっ、わたしも。行ってみたはいいけれど、背伸びし過ぎたかもと思っちゃった」

 路ちゃんが微笑みかけると、僕の鼓動は早くなった。
 言うなら今か……それとも相応しい場所に戻るべきか。
 今日という日と、路ちゃんという人を考えれば……

「わたしね。良助くんのことが好き」

「……えっ」

「たぶん、それは文芸部で会った時点では色々助けてくれる、頼れる存在。あるいは……異性の友達って意味だった」

「み、路ちゃん……」

「でも、いつの間にか変わっていって……我ながら単純だと思う。一番近くにいて優しくてくれる人に惹かれる。きっと、わたし以外にもそうであるはずなのに、特別な気分になってしまう」

「…………」

「だから、えっと…………ここまでは頭の中に流れていたの。ただ、言うべき場所は河川敷じゃなくて、もっとイルミネーションが見えるような場所で、周りの声が聞こえない意味ではここも静かなのだけれど……」

「み、路ちゃん?」

「……難しいわ、直接告白するのって。みんなが直接言わない理由がよくわかった」

 路ちゃんはあっさりしたように言うけど、顔の赤みは寒さだけはなさそうだった。

「あの……ぼ、僕は……!」

「良助くんが気持ちを伝えてくれたから、今度はわたしの番だと思っていたのに」

「あっ、あの日のあれ、伝わってたんだ」

「う、うん。それに、先週出かけた時も……だから、わたしも何とかしないといけないと思って……」

「ま、待って! 僕としては……あんまり成功したと思ってなかったんだけど……」

 僕が焦ってそう言うと、路ちゃんは驚いた表情で固まる。

「…………ええっ!? わ、わたし、すっかり告白されたものだと思って、考える時間のつもりで……あれ? わたし、いつからそんな妄想を……」

「み、路ちゃん……ふふっ」

「わ、笑わないで……というのは無理があるわよね……」

「そうだね。じゃあ……路ちゃん。一応にはなるけど、僕から言わせて欲しい」

「えっ……」

「……僕と付き合ってください」

 蓋を開けてみれば、想像していたよりもロマンティックな感じではなかったし、あっさりと終わってしまったように思う。
 けれども、僕と路ちゃんにはこれくらいの雰囲気が良かったのだ。

 それから、また街の方に戻ってみたけど……またクリスマスの空気のせいか、急に2人して恥ずかしさを覚えてしまった。
 冬休みと共に、僕と路ちゃんの関係もまだ始まったばかりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

過去は輝く。けど未来は未だに見えない。

ぽやしみ仙人
青春
声優アイドルグループ『世界は明日晴れるかな?』は、メンバーが休業や卒業を繰り返しいまや風前の灯となっていた。 メンバーである甘楽歌南は未来に不安を感じつつ、輝いていた過去を振り返っていく令和のアイドルコメディ。 第二章開始までしばらくお待ちください…

*いにしえのコトノハ*5 匿名ごっこ

N&N
青春
あれはきっと あの人からだと 自分だけが 知っている

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

三角形のディスコード

阪淳志
青春
思いがけない切っ掛けで高校の吹奏楽部でコントラバスを弾くことになった長身の少女、江崎千鶴(えざき・ちづる)。 その千鶴の中学時代からの親友で吹奏楽部でフルートを吹く少女、小阪未乃梨(こさか・みのり)。 そして千鶴に興味を持つ、学外のユースオーケストラでヴァイオリンを弾く艷やかな長い黒髪の大人びた少女、仙道凛々子(せんどう・りりこ)。 ディスコードとは時に音楽を鮮やかに描き、時に聴く者の耳を惹き付けるクライマックスを呼ぶ、欠くべからざる「不協和音」のこと。 これは、吹奏楽部を切っ掛けに音楽に触れていく少女たちの、鮮烈な「ディスコード」に彩られた女の子同士の恋と音楽を描く物語です。 ※この作品は「小説家になろう」様及び「ノベルアッププラス」様でも掲載しております。 https://ncode.syosetu.com/n7883io/ https://novelup.plus/story/513936664

永遠のファーストブルー

河野美姫
青春
それは、ちっぽけな恋をした僕の、 永遠のファーストブルー。 わけあってクラスの日陰者に徹している日暮優は、ある日の放課後、クラスでひときわ目立つ少女――空野未来の後を尾けてしまう。 そこで、数日後に入院すると言う未来から『相棒』に任命されて――? 事なかれ主義でいようと決めたはずの優は、その日から自由奔放で身勝手、そして真っ直ぐな未来に振り回されていく。 *アルファポリス* 2023/4/30~2023/5/18 こちらの作品は、他サイトでも公開しています。

麻雀少女激闘戦記【牌神話】

彼方
キャラ文芸
 この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。  そういう魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も全員読むことをおすすめします。  大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります!   私は本物の魔法使いなので。 彼方 ◆◇◆◇ 〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜  ──人はごく稀に神化するという。  ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。  そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。  この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。   ◆◇◆◇ もくじ 【メインストーリー】 一章 財前姉妹 二章 闇メン 三章 護りのミサト! 四章 スノウドロップ 伍章 ジンギ! 六章 あなた好みに切ってください 七章 コバヤシ君の日報 八章 カラスたちの戯れ 【サイドストーリー】 1.西団地のヒロイン 2.厳重注意! 3.約束 4.愛さん 5.相合傘 6.猫 7.木嶋秀樹の自慢話 【テーマソング】 戦場の足跡 【エンディング】 結果ロンhappy end イラストはしろねこ。さん

処理中です...