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2年生冬休み
12月24日(土)雪 ロマンティックにはほど遠い
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冬休み初日の土曜日。
そして、クリスマスイブ。
本来なら勘弁して欲しい雪も、今日の気持ち的には舞台を整えてくれたと思えた。
集合時間の15分前に到着すると、路ちゃんも程なくしてお互いの真面目さを少し笑い合う。
今日の路ちゃんは雪の日だけあってとても暖かそうな服装だった。
1年前くらいは私服を見るのが珍しいと思っていたのに、今は塾の日は必ず私服なので、この1年は制服以外の路ちゃんをたくさん見てきたと思う。
でも、その中でも今日の路ちゃんは……何だかいつも以上に可愛く見えた。
それからクリスマスムードの街の中をあてもなく歩く。
先週のように何か計画しようと思っていたけど、路ちゃんが今日はそうしなくても大丈夫だと言ったからだ。
その理由は……また緊張してしまいそうだから。
そう、この時点ではまだ僕と路ちゃんは、単に冬休みの初日の暇を潰す2人でしかない。
お昼ご飯は歩く中で見つけた洋食屋さんに入った。
晩ご飯で食べるのはチキンとケーキだから、それと被らなくて、何となくクリスマスっぽいのは洋食だという意見になったからだ。
先週のカフェよりもリラックスした雰囲気が流れていく。
教室では専ら大倉くんと食べるから、路ちゃんとご飯を食べるのは結構珍しい。
この日の路ちゃんはかなり饒舌だったので、僕にしてはかなりゆっくりとご飯を食べることになった。
洋食店を出ると、足は少しゆっくりになりながらまたクリスマスの空気を浴びていく。
登校している時も目に入っていたはずだけど、改めて見ると想像よりもクリスマスらしい飾り付けがあった。
でも、それと同時に昼を過ぎたせいか、カップルと思われる2人組が増えてくる。
去年までは自宅待機だったから、話に聞く程度だったけど、クリスマスは本当にそういう日なんだと実感した。
……そうであるならば。路ちゃんがこの日に僕をもう一度誘った意味とは。
一度は言うのを阻まれてしまったけど、あれから僕の気持ちは少しだけ変わった。
その時は、路ちゃんが僕を想ってくれるなら、僕も応えたいと思った故の行動だった。
こう書くと、どうにも上から目線になってしまうけど、僕としてはその気持ちが素直に嬉しいと思っていた。
それが今は……路ちゃんともう一歩近づきたいと思っている。
相手の気持ちを知ってから好きになるのは、もしかしたら不誠実なのかもしれない。
だから、僕と同じように路ちゃんの気持ちも前とは変わっている可能性はある。
それでも……もう一度が許されるなら。
「良助くん」
「な、なに?」
「……もうちょっと静かなところに行こう?」
路ちゃんはそう言いながら僕に右手を差し出してくる。
僕は一瞬戸惑ってしまったけど、その手を掴んだ。
次に足を止めたのは河川敷だった。
冬らしい冷たい空気は感じるけど、さすがにここではクリスマスらしさはない。
でも、着いた時に、路ちゃんはホッと一息ついた。
「……クリスマスイブの街の中って本当にああいう感じなんだ」
「路ちゃんも思ってたんだ」
「ということは、良助くんも?」
「うん。ちょっと飲まれそうだった」
「ふふっ、わたしも。行ってみたはいいけれど、背伸びし過ぎたかもと思っちゃった」
路ちゃんが微笑みかけると、僕の鼓動は早くなった。
言うなら今か……それとも相応しい場所に戻るべきか。
今日という日と、路ちゃんという人を考えれば……
「わたしね。良助くんのことが好き」
「……えっ」
「たぶん、それは文芸部で会った時点では色々助けてくれる、頼れる存在。あるいは……異性の友達って意味だった」
「み、路ちゃん……」
「でも、いつの間にか変わっていって……我ながら単純だと思う。一番近くにいて優しくてくれる人に惹かれる。きっと、わたし以外にもそうであるはずなのに、特別な気分になってしまう」
「…………」
「だから、えっと…………ここまでは頭の中に流れていたの。ただ、言うべき場所は河川敷じゃなくて、もっとイルミネーションが見えるような場所で、周りの声が聞こえない意味ではここも静かなのだけれど……」
「み、路ちゃん?」
「……難しいわ、直接告白するのって。みんなが直接言わない理由がよくわかった」
路ちゃんはあっさりしたように言うけど、顔の赤みは寒さだけはなさそうだった。
「あの……ぼ、僕は……!」
「良助くんが気持ちを伝えてくれたから、今度はわたしの番だと思っていたのに」
「あっ、あの日のあれ、伝わってたんだ」
「う、うん。それに、先週出かけた時も……だから、わたしも何とかしないといけないと思って……」
「ま、待って! 僕としては……あんまり成功したと思ってなかったんだけど……」
僕が焦ってそう言うと、路ちゃんは驚いた表情で固まる。
「…………ええっ!? わ、わたし、すっかり告白されたものだと思って、考える時間のつもりで……あれ? わたし、いつからそんな妄想を……」
「み、路ちゃん……ふふっ」
「わ、笑わないで……というのは無理があるわよね……」
「そうだね。じゃあ……路ちゃん。一応にはなるけど、僕から言わせて欲しい」
「えっ……」
「……僕と付き合ってください」
蓋を開けてみれば、想像していたよりもロマンティックな感じではなかったし、あっさりと終わってしまったように思う。
けれども、僕と路ちゃんにはこれくらいの雰囲気が良かったのだ。
それから、また街の方に戻ってみたけど……またクリスマスの空気のせいか、急に2人して恥ずかしさを覚えてしまった。
冬休みと共に、僕と路ちゃんの関係もまだ始まったばかりだ。
そして、クリスマスイブ。
本来なら勘弁して欲しい雪も、今日の気持ち的には舞台を整えてくれたと思えた。
集合時間の15分前に到着すると、路ちゃんも程なくしてお互いの真面目さを少し笑い合う。
今日の路ちゃんは雪の日だけあってとても暖かそうな服装だった。
1年前くらいは私服を見るのが珍しいと思っていたのに、今は塾の日は必ず私服なので、この1年は制服以外の路ちゃんをたくさん見てきたと思う。
でも、その中でも今日の路ちゃんは……何だかいつも以上に可愛く見えた。
それからクリスマスムードの街の中をあてもなく歩く。
先週のように何か計画しようと思っていたけど、路ちゃんが今日はそうしなくても大丈夫だと言ったからだ。
その理由は……また緊張してしまいそうだから。
そう、この時点ではまだ僕と路ちゃんは、単に冬休みの初日の暇を潰す2人でしかない。
お昼ご飯は歩く中で見つけた洋食屋さんに入った。
晩ご飯で食べるのはチキンとケーキだから、それと被らなくて、何となくクリスマスっぽいのは洋食だという意見になったからだ。
先週のカフェよりもリラックスした雰囲気が流れていく。
教室では専ら大倉くんと食べるから、路ちゃんとご飯を食べるのは結構珍しい。
この日の路ちゃんはかなり饒舌だったので、僕にしてはかなりゆっくりとご飯を食べることになった。
洋食店を出ると、足は少しゆっくりになりながらまたクリスマスの空気を浴びていく。
登校している時も目に入っていたはずだけど、改めて見ると想像よりもクリスマスらしい飾り付けがあった。
でも、それと同時に昼を過ぎたせいか、カップルと思われる2人組が増えてくる。
去年までは自宅待機だったから、話に聞く程度だったけど、クリスマスは本当にそういう日なんだと実感した。
……そうであるならば。路ちゃんがこの日に僕をもう一度誘った意味とは。
一度は言うのを阻まれてしまったけど、あれから僕の気持ちは少しだけ変わった。
その時は、路ちゃんが僕を想ってくれるなら、僕も応えたいと思った故の行動だった。
こう書くと、どうにも上から目線になってしまうけど、僕としてはその気持ちが素直に嬉しいと思っていた。
それが今は……路ちゃんともう一歩近づきたいと思っている。
相手の気持ちを知ってから好きになるのは、もしかしたら不誠実なのかもしれない。
だから、僕と同じように路ちゃんの気持ちも前とは変わっている可能性はある。
それでも……もう一度が許されるなら。
「良助くん」
「な、なに?」
「……もうちょっと静かなところに行こう?」
路ちゃんはそう言いながら僕に右手を差し出してくる。
僕は一瞬戸惑ってしまったけど、その手を掴んだ。
次に足を止めたのは河川敷だった。
冬らしい冷たい空気は感じるけど、さすがにここではクリスマスらしさはない。
でも、着いた時に、路ちゃんはホッと一息ついた。
「……クリスマスイブの街の中って本当にああいう感じなんだ」
「路ちゃんも思ってたんだ」
「ということは、良助くんも?」
「うん。ちょっと飲まれそうだった」
「ふふっ、わたしも。行ってみたはいいけれど、背伸びし過ぎたかもと思っちゃった」
路ちゃんが微笑みかけると、僕の鼓動は早くなった。
言うなら今か……それとも相応しい場所に戻るべきか。
今日という日と、路ちゃんという人を考えれば……
「わたしね。良助くんのことが好き」
「……えっ」
「たぶん、それは文芸部で会った時点では色々助けてくれる、頼れる存在。あるいは……異性の友達って意味だった」
「み、路ちゃん……」
「でも、いつの間にか変わっていって……我ながら単純だと思う。一番近くにいて優しくてくれる人に惹かれる。きっと、わたし以外にもそうであるはずなのに、特別な気分になってしまう」
「…………」
「だから、えっと…………ここまでは頭の中に流れていたの。ただ、言うべき場所は河川敷じゃなくて、もっとイルミネーションが見えるような場所で、周りの声が聞こえない意味ではここも静かなのだけれど……」
「み、路ちゃん?」
「……難しいわ、直接告白するのって。みんなが直接言わない理由がよくわかった」
路ちゃんはあっさりしたように言うけど、顔の赤みは寒さだけはなさそうだった。
「あの……ぼ、僕は……!」
「良助くんが気持ちを伝えてくれたから、今度はわたしの番だと思っていたのに」
「あっ、あの日のあれ、伝わってたんだ」
「う、うん。それに、先週出かけた時も……だから、わたしも何とかしないといけないと思って……」
「ま、待って! 僕としては……あんまり成功したと思ってなかったんだけど……」
僕が焦ってそう言うと、路ちゃんは驚いた表情で固まる。
「…………ええっ!? わ、わたし、すっかり告白されたものだと思って、考える時間のつもりで……あれ? わたし、いつからそんな妄想を……」
「み、路ちゃん……ふふっ」
「わ、笑わないで……というのは無理があるわよね……」
「そうだね。じゃあ……路ちゃん。一応にはなるけど、僕から言わせて欲しい」
「えっ……」
「……僕と付き合ってください」
蓋を開けてみれば、想像していたよりもロマンティックな感じではなかったし、あっさりと終わってしまったように思う。
けれども、僕と路ちゃんにはこれくらいの雰囲気が良かったのだ。
それから、また街の方に戻ってみたけど……またクリスマスの空気のせいか、急に2人して恥ずかしさを覚えてしまった。
冬休みと共に、僕と路ちゃんの関係もまだ始まったばかりだ。
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