上 下
552 / 942
2年生2学期

10月7日(金)雨 ソフィアとシュウの完結編:序

しおりを挟む
 少し天気が悪い日が続いた金曜日。
 この日も文化祭に向けた文芸部内での準備が進められ、細かい装飾を除くとあとは冊子が届けばいいところまで進んだ。

 しかし、そんな準備が一区切り付いた時、僕と桐山くんは藤原先輩に呼ばれて一旦部室を出る。
 普段から一緒にトイレへ行くことはないし、そもそも藤原先輩がこういう呼びかけをすることがあまりなかったから、呼ばれた時に僕と桐山くんは思わず顔を見合わせていた。

「どうしたんですか、藤原先輩」

「さっきの準備で何か不備でもあったんすか?」

「いや……それとは関係なくて……凄く個人的な話……」

 そう言いながら藤原先輩は一度深呼吸するので、僕と桐山くんは息を吞む。

「実は……文化祭で……告白しようと思うんだ」

「ああ、告白っすか……えええっ、ふがふが」

「桐山くん、ごめん」

 藤原先輩の言葉に声を上げそうになった桐山くんの口を僕は塞ぐ。
 もちろん、僕も驚いてはいたが、とうとう来たかという感情もあった。

「……ちょ、ちょっと待ってください。藤原先輩が誰に告白する話なんすか。俺、全然事情知らないんすけど」

「それは……岬ソフィアに」

「へぇ~ 全然わからなかったっす。いや、3年生の先輩方と会ってる回数少ないのもあるとは思うんですけど。産賀先輩は知ってたんっすか?」

「まぁ……薄々は」

 そう言いつつも森本先輩や水原先輩と共に色々見たり聞いたりしていたから、薄々どころか完全に把握していた。
 桐山くんの言う通り、最近は3年生が忙しく、僕自身も副部長でやることや後輩に気を取られていて、あまり気にする暇がなかったけど。

「なるほど、それで俺達に協力して欲しいって話っすね」

「うん……とはいっても……シフトの調整とか……その辺りを気にして貰えれば……十分」

「じゃあ、そこは産賀先輩の役割っすね……あれ? じゃあ、俺は……?」

「……この前、桐山くんの好きな子を教えて貰ったから……話しておこうかと。それに……共有しておいた方が……色々いいかと」

「藤原先輩、真面目っすねぇ。でも、そういうことなら俺も上手い事動きは合わせますよ」

 僕が答えるより先に桐山くんは話を進めていく。
 普段の自分のことだと、あたふたしているけど、他人のことならスムーズに進められるらしい。

「3年生の文化祭で告白なんてマジで小説やドラマみたいな話っすねぇ。まぁ、これからもっと忙しい時期にはなるんでしょうけど……いつ頃から好きだったんすか?」

「全部話すと長くなるけど……意識したのは高1の終わり」

「それならもっと早く告白していれば……いや、俺は他人のことは言えないっすね」

「……桐山くんも何かやる予定なら……特に気にしないでも……」

「いや、そこは全力で援護させて貰うっすよ。言っても俺はまだ1年生で時間はありますし。ね、産賀先輩?」

「う、うん」

 そのつもりではあったけど、僕は少しだけ桐山くんのテンションに付いていけなかった。
 これからシフトを決める時も含めて、上手く調整しなければならないプレッシャーがあったし、何より僕が他人の恋路を応援することは……少々良くない前例がある。

「がんばりましょう、藤原先輩!」

「うん……!」

 こうして、文化祭の裏で藤原先輩の戦いも始まることになった。
 僕と桐山くんだけに相談したということは、もっと事情に詳しいはずの森本先輩や水原先輩に情報を共有できないということだ。
 ただ、僕が見た限りだと、2人の関係はもう仕上がっていると思っているので、成功することを祈るばかりである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!

佐々木雄太
青春
四月—— 新たに高校生になった有村敦也。 二つ隣町の高校に通う事になったのだが、 そこでは、予想外の出来事が起こった。 本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。 長女・唯【ゆい】 次女・里菜【りな】 三女・咲弥【さや】 この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、 高校デビューするはずだった、初日。 敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。 カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。 ほんのりと百合の香るお話です。 ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。 イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。 ★Kindle情報★ 1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H ★第1話『アイス』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE ★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI ★Chit-Chat!1★ https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

処理中です...