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2年生2学期

9月25日(日)曇り 燃え尽きた体育祭

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 体育祭本番の日曜日。
 前日と比べるとやや気温が高いものの、体を動かすにはちょうどいいくらいの環境だ。
 開会式を終えてから僕の最初の出番は昼前の部活対抗リレーだった。
 他の人はどうかわからないけど、僕にとっては今日のメインで、一番がんばるところになる。

「それじゃあ、事前の作戦通りでやっていきましょー! 文芸部ファイト……おー!」

 日葵さんのかけ声に合わせて他の4人も「おー!」と気合を入れる。
 まるで試合前の運動部みたいだ。
 最初の競技になる僕と違って、日葵さんの方は既にテンションが仕上がっている。

「おお、産賀くんじゃないの。お手柔らかによろしく」

 リレーの順番で並んだ時にそう声をかけてきたのは野島さんだった。

「野島さんも出るんだ」

「いやぁ、本当は出たくなかったんだけど、厳正なくじ引きの結果というやつだよ。3年生の先輩たちの方が足早いけど、毎年2年生以下でやることになってるし……」

「文芸部も同じ感じだよ。まぁ、来年の部員が少なかったから僕はまた走るかもしれないけど……」

「大変だぁ……って、他人事でもないか。ともかく文化部シップに則ってよろしく!」

 どういう規則なのかわからないけど、僕は適当に頷いておいた。
 それと同時に今年は茶道部の3年生がいないことに少し安心してしまう。

 そして、部活対抗リレーの文化部の戦いが始まった。
 第一走者の日葵さんは好調な滑り出しで、毎年のリレーで圧倒的な強さを見せる吹奏楽の後を追って2位につける。

「路センパイ、お願いします!」

 そのバトン(辞書)を路ちゃんは少しだけリードしながら受け取った。
 昨日一日の練習だから少しぎこちなさはあるけど、日葵さんの勢いを無くすことなく、路ちゃんは走っていく。

「路さん、ファイトです!」

「そのままのペースで!」

 待機場所から伊月さんや桐山くんの応援の声が響くと、遠目から見た路ちゃんは頷いているように見えた。
 後ろから追ってきた将棋部の男子が半分くらいのところで追いつき、バトン渡す直前には抜かされてしまったけど、3位は守って僕のところに到着する。

「良助くん!」

「路ちゃん、ナイスファイト!」

 僕はあまりリードし過ぎないようにしながら路ちゃんからバトンを受け取り走り出す。
 後ろは見えないのでどんな状況かわからなかったけど、将棋部の第三走者の後ろを追っていった。
 この後待っているのは綱引きだけだし、みんなのやる気を感じたことから僕も思った以上に前のめりで走っていき、大股で2歩くらいの距離まで近づいた。
 だけど、そこから追い付くには僕の体力は足りなかった。

「お、お願い!」

 声をかける余裕がなかったので最低限の言葉になったけど、伊月さんはそれに頷いてバトンを受け取る。

「は、はやい……!」

「いけるよぉー! 茉奈―!」

 日葵さんに応援は任せつつ、伊月さんの走りを見守っていると、将棋部の第四走者を追い越し、1位の吹奏楽部との距離もだいぶ詰め始める。
 去年の伊月さんの走りよりもさらに早く見えるのは、同じチームだからだろうか。
 恐らく松永が浴びせるような声援を送っていると思われる。

「桐山!」

「おっす!」

 伊月さんから桐山くんへのバトンパスはこのチームの中でも最もスムーズに行われて、桐山くんは爆走していった。
 吹奏楽部との差は5メートルほどだけど、吹奏楽部の第五走者も当然ながら足は早い。
 それでも桐山くんの走りも負けていなかった。
 テンション補正があるかもしれないけど、その桐山くんの姿はとてもかっこよく見える。
 そして、残り10メートルのところで桐山くんはさらに差を縮めようとするけど、吹奏楽部はそのまま走り抜いて……

『吹奏楽部が今ゴール! 続いて文芸部もゴールです!』

 結果、文芸部は第2位と去年よりも順位を1位上げることになった。
 体力のある吹奏楽部には敵わなかったけど、それでも大健闘である。

「やったぁ、2位! これはもう文芸部リレー参加者でも打ち上げしなきゃ!」

「それが目的だったんかい……いや、打ち上げに姫宮さんも来てくれるなら俺も参加hするが……」

「それよりも今は2位だったことを喜べば……だ、大丈夫ですが、産賀さん、路さん?」

 走り終わってからそこそこ時間が経っても僕と路ちゃんは息が荒いままだった。
 前日に練習しておいてこれだから本当に体力がない先輩2人である。

「だ、大丈夫。ようやく落ち着いてきた」

「う、うん……良かったぁ、ちゃんと走れて」

「やっぱ全然心配なかったじゃないですかぁ! というか、路センパイの走り方、めっちゃ可愛かったですよ?」

「か、可愛い!?」

「なんかわからないですけど、可愛さがあるんですよねぇ。ほら、茉奈とかは……」

「悪かったわね。必死の形相で走って」

「もう、そういうことが言いたいんじゃないの。ねぇ、桐山」

「俺に振るのか!? ま、まぁ、走ってたら仕方ないっていうか……」

「桐山。それはフォローになってないんだけど」

 他の観客からすると、注目するのは後にやる運動部のリレーだろうから、僕ら文芸部の2位は大したことないことなのかもしれない。
 1年生がわちゃわちゃと楽しそうに話している姿を見ると、僕も必死に走れて良かったと思えた。
 
「良助くん……ありがとう。おかげでちゃんと走り切れた」

「いやいや。ちょっとの練習で身につけられた路ちゃんが凄いよ」

「そんなことはないと思うのだけれど……そ、それよりわたしの走り方ってそんなに変な感じだった?」

「えっ? 別に変ではないと思うよ。日葵さんが言うように可愛らしさはあるかもだけど。」

「か、かわ……そ、そうなんだ」

 こうして、僕の体育祭は……終わっていない。演目はまだ半分残っている。
 だけど、この後の僕は体力を使い切ってしまったので、綱引きでは置物として少しだけ貢献し、フォークダンスでは最低限の動きで過ごしていた。
 だから、桐山くんが姫宮さんとの踊りを実現できたかはわからないし、明莉と来ているはずの桜庭くんの親戚が誰なのかもわかっていない。
 だから、部活対抗リレーの満足感を記して、今日のところは終わらせて貰おうと思う。
 うん、正直に言うと、2位取れてめっちゃ嬉しかった。
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