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2年生2学期
9月4日(日)曇り時々晴れ 明莉との日常その58
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台風前の晴れ間が見えた日曜日。
だけど、この日は特に用事がなかったので、ずっと自宅にいた。
明日からは塾も始まってより忙しくなるし、今のうちにゆっくりしておこうという考えだ。
「えー、それはないって……うん、あかりはそっちの方がいいと思うなぁ」
一方の明莉も今日は自宅待機のようだけど、昼過ぎから居間で長電話をしていた。
別に僕は他の人が喋っていても気にならないタイプだ。
でも、その相手に対して明莉が自分のことを「あかり」と言っていたことに気付いてから少し気になってしまう。
「誰と話してたの?」
「えっ? 正弥くんだけど?」
明莉がそう言うと、僕は「やっぱりそうか」と返す。
明莉がそこまで砕けた感じになる相手は現状だと桜庭くんしかいないだろうと思っていた。
「でも、桜庭くんには自分のことあかりって言ってるんだな」
「うん。それが何か?」
「いや、学校とかでは私で通してると思ってたから……」
「まぁ、今は家にいるわけだし、彼氏に隠しても仕方ないかなって。もちろん、正弥くんは特に気にしてなかったよ?」
明莉は少し自慢げに言う。
「でも、自分のこと名前呼びするのはいつか治さなきゃなぁとは思ってる」
「えっ? 気にしてないならいいんじゃないのか?」
「あかりが気にするの。癖になっちゃってるけど、世間一般だとあんまりイメージ良くないし」
「確かにその話はよく聞くな」
「別にこっちとしては何か狙ってるわけじゃないんだけどなー りょうちゃんの周りには自分のことを名前呼びする女子いないの?」
「……いるよ。明莉も会ってる人だよ」
「会ってる……あっ、花園先輩だ」
「そうそう」
「うーん……だったら、やっぱり悪いイメージないけどなぁ。花園先輩っておしとやかな感じだし」
明莉はそう言った時、僕の頭の中は一瞬だけ「どうだろうか」と思ってしまった。
いや、花園さんの性格をどうこう言いたいわけではない。
単におしとやかのイメージはちょっと違うような気がするだけだ。
「ぶりっ子だとか、性格悪そうだとか、風評被害にも程があるよ。りょうちゃんもそう思うでしょ?」
「も、もちろん。そういう個性も大事だと思う」
「そうだよね。あーあ、世の中はもっと個性を大事にすべきなんだよ」
僕が言いたかったのは桜庭くんにそこまで包み隠さないでいるのだというちょっとした嫉妬が混じった話だったのだけれど、いつの間にか個性の話になっていた。
明莉も意識して学校では「私」で通しているのだから、自分の呼び方に思うところは色々あるのだろう。
それを受け入れている桜庭くんは良い男だ……と暫く会っていないのに彼の評価を上げざるを得なくなってしまった。
だけど、この日は特に用事がなかったので、ずっと自宅にいた。
明日からは塾も始まってより忙しくなるし、今のうちにゆっくりしておこうという考えだ。
「えー、それはないって……うん、あかりはそっちの方がいいと思うなぁ」
一方の明莉も今日は自宅待機のようだけど、昼過ぎから居間で長電話をしていた。
別に僕は他の人が喋っていても気にならないタイプだ。
でも、その相手に対して明莉が自分のことを「あかり」と言っていたことに気付いてから少し気になってしまう。
「誰と話してたの?」
「えっ? 正弥くんだけど?」
明莉がそう言うと、僕は「やっぱりそうか」と返す。
明莉がそこまで砕けた感じになる相手は現状だと桜庭くんしかいないだろうと思っていた。
「でも、桜庭くんには自分のことあかりって言ってるんだな」
「うん。それが何か?」
「いや、学校とかでは私で通してると思ってたから……」
「まぁ、今は家にいるわけだし、彼氏に隠しても仕方ないかなって。もちろん、正弥くんは特に気にしてなかったよ?」
明莉は少し自慢げに言う。
「でも、自分のこと名前呼びするのはいつか治さなきゃなぁとは思ってる」
「えっ? 気にしてないならいいんじゃないのか?」
「あかりが気にするの。癖になっちゃってるけど、世間一般だとあんまりイメージ良くないし」
「確かにその話はよく聞くな」
「別にこっちとしては何か狙ってるわけじゃないんだけどなー りょうちゃんの周りには自分のことを名前呼びする女子いないの?」
「……いるよ。明莉も会ってる人だよ」
「会ってる……あっ、花園先輩だ」
「そうそう」
「うーん……だったら、やっぱり悪いイメージないけどなぁ。花園先輩っておしとやかな感じだし」
明莉はそう言った時、僕の頭の中は一瞬だけ「どうだろうか」と思ってしまった。
いや、花園さんの性格をどうこう言いたいわけではない。
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「ぶりっ子だとか、性格悪そうだとか、風評被害にも程があるよ。りょうちゃんもそう思うでしょ?」
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