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2年生夏休み
8月17日(水)雨のち曇り 清水夢愛との夏散歩Ⅱその5
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夏休み28日目。この日は天気が悪かったものの、朝から清水先輩に呼び出されて僕は家を出る。昨日の一件から心配している中での連絡だったからなるべく早く着こうと少し足を速めた。
すると、待っていた清水先輩はいつも通りの軽装だった。
「おはよう、良助」
「お、おはようございます」
「随分急いで来てくれたんだな。雨の中すまない」
「い、いえ……勝手に急いだだけなので……」
「……実はまだ言えてないんだ。1日考える時間が欲しくて。だから、その……少し歩いてくれないか?」
そう言われた僕はすぐに頷く。それでも不安にならなかったのは昨日と比べて清水先輩が落ち着いた雰囲気だったからだ。
「改めて昨日はありがとう。良助のお母さんと妹さんにも礼を言っておいて欲しい」
「はい、わかりました」
「完全に勢いだった。小織に言えば絶対に断られて駆けつけさせることになるから、良助に頼もうと思って家を飛び出してしまった」
「それは桜庭先輩も察していました。まぁ、めちゃくちゃ心配してはいましたけど……」
「おかげで昨日帰った後は通話で大説教だった。3時間くらい話していたよ」
「そんなにですか」
「いや、説教自体は1時間くらいだったが……でも、小織も本当のことを言うべきだと後押ししてくれたよ」
「それは良かったです」
「……子どもの頃からずっと寂しかった。仕事ばかりのお父さんとお母さんにもっと構って欲しかった。私が変なことをするのは2人に私を見て欲しかったから。遠くに連れて行かなくてもいいからいつも、今でも傍にいて欲しい」
「…………」
「ちゃんと言えてるか?」
「は、はい。言えてます!」
急に言われたので僕は一瞬だけ反応が遅れる。それで僕はようやく清水先輩の悩みの全貌が理解できた。両親に対する遠慮は子どもの頃からできていたもので……母さんはその辺りも察していたんだろうか。
「良助?」
「あっ、いえ……清水先輩の悩んでること、もう少ししっかり聞けば良かったと思って。そうしたらお盆に話し合う前にもっといい方向に持っていけたのかなと……」
「それは違う。私が頑なに言わなかっただけだ。良助は……いつも受け入れようとしてくれているのはわかっていたのに」
「でも……」
「今日は良助に反省会をして貰うために呼んだわけじゃない。そうじゃなくて……私がさっきの言葉を両親に言えるように……勇気を分けて欲しい」
真剣な目で清水先輩は言う。
「勇気を……ですか」
「小織には昨日貰ったから……あとは良助の後押しがあれば言える気がするんだ」
「わかりました……清水先輩なら大丈夫です!」
「もっと」
「も、もっと? いい結果に繋がると思います!」
「もうひと声」
「……絶対成功します!」
「…………」
普段褒め慣れていないせいか、上手く言葉が出てこない。本当は絶対や必ずという表現は使いたくないけど、そう言うしかなかった。
「し、清水先輩? 僕、何か――」
その時、不意に清水先輩は手から傘を放して、僕の方へ駆け寄る。
そして、僕の頭を抱き寄せた。
何秒間その状態だったかは、呆気に取られた僕にはわからなかった。
「……うん。言葉もいいけど、これもいいな」
そう言いながら清水先輩は僕から離れると、再び傘を持って歩き出す。
当然ながら僕はすぐに動けなかった。
「どうした、良助?」
「ど、どうしたもこうしたも……」
「いきなりですまないな。でも……勇気は貰えた」
言い返したいことが色々あったけど、清水先輩が笑顔を見せたから僕はそれ以上何も言えなかった。
それから10分ほどして、清水先輩は家に帰っていく。話すのは今夜両親が帰って来てからになる。だから、もしも何かあればまた我が家に駆け込むかもしれないと冗談っぽく言っていた。
でも、できることなら、今度我が家に来る時は何の悩みも抱えていない状態でいて欲しい。僕からそう願うことしかできなかった。
すると、待っていた清水先輩はいつも通りの軽装だった。
「おはよう、良助」
「お、おはようございます」
「随分急いで来てくれたんだな。雨の中すまない」
「い、いえ……勝手に急いだだけなので……」
「……実はまだ言えてないんだ。1日考える時間が欲しくて。だから、その……少し歩いてくれないか?」
そう言われた僕はすぐに頷く。それでも不安にならなかったのは昨日と比べて清水先輩が落ち着いた雰囲気だったからだ。
「改めて昨日はありがとう。良助のお母さんと妹さんにも礼を言っておいて欲しい」
「はい、わかりました」
「完全に勢いだった。小織に言えば絶対に断られて駆けつけさせることになるから、良助に頼もうと思って家を飛び出してしまった」
「それは桜庭先輩も察していました。まぁ、めちゃくちゃ心配してはいましたけど……」
「おかげで昨日帰った後は通話で大説教だった。3時間くらい話していたよ」
「そんなにですか」
「いや、説教自体は1時間くらいだったが……でも、小織も本当のことを言うべきだと後押ししてくれたよ」
「それは良かったです」
「……子どもの頃からずっと寂しかった。仕事ばかりのお父さんとお母さんにもっと構って欲しかった。私が変なことをするのは2人に私を見て欲しかったから。遠くに連れて行かなくてもいいからいつも、今でも傍にいて欲しい」
「…………」
「ちゃんと言えてるか?」
「は、はい。言えてます!」
急に言われたので僕は一瞬だけ反応が遅れる。それで僕はようやく清水先輩の悩みの全貌が理解できた。両親に対する遠慮は子どもの頃からできていたもので……母さんはその辺りも察していたんだろうか。
「良助?」
「あっ、いえ……清水先輩の悩んでること、もう少ししっかり聞けば良かったと思って。そうしたらお盆に話し合う前にもっといい方向に持っていけたのかなと……」
「それは違う。私が頑なに言わなかっただけだ。良助は……いつも受け入れようとしてくれているのはわかっていたのに」
「でも……」
「今日は良助に反省会をして貰うために呼んだわけじゃない。そうじゃなくて……私がさっきの言葉を両親に言えるように……勇気を分けて欲しい」
真剣な目で清水先輩は言う。
「勇気を……ですか」
「小織には昨日貰ったから……あとは良助の後押しがあれば言える気がするんだ」
「わかりました……清水先輩なら大丈夫です!」
「もっと」
「も、もっと? いい結果に繋がると思います!」
「もうひと声」
「……絶対成功します!」
「…………」
普段褒め慣れていないせいか、上手く言葉が出てこない。本当は絶対や必ずという表現は使いたくないけど、そう言うしかなかった。
「し、清水先輩? 僕、何か――」
その時、不意に清水先輩は手から傘を放して、僕の方へ駆け寄る。
そして、僕の頭を抱き寄せた。
何秒間その状態だったかは、呆気に取られた僕にはわからなかった。
「……うん。言葉もいいけど、これもいいな」
そう言いながら清水先輩は僕から離れると、再び傘を持って歩き出す。
当然ながら僕はすぐに動けなかった。
「どうした、良助?」
「ど、どうしたもこうしたも……」
「いきなりですまないな。でも……勇気は貰えた」
言い返したいことが色々あったけど、清水先輩が笑顔を見せたから僕はそれ以上何も言えなかった。
それから10分ほどして、清水先輩は家に帰っていく。話すのは今夜両親が帰って来てからになる。だから、もしも何かあればまた我が家に駆け込むかもしれないと冗談っぽく言っていた。
でも、できることなら、今度我が家に来る時は何の悩みも抱えていない状態でいて欲しい。僕からそう願うことしかできなかった。
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