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2年生夏休み

8月7日(日)晴れ 岸本路子との夏創作Ⅱ その3

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 夏休み18日目。とうとうやって来た文芸部1・2年で行くプールの日。本来ならそれほど構える必要なく楽しめばいいんだけど、桐山くんと姫宮さんの件があるから、僕は少しだけ気合を入れて当日を迎える。

「う、産賀先輩! 結局、俺はどうしたらいいんすか!?」

 男子更衣室で桐山くんは焦りながらそう聞いてくる。それに対して僕は一つの答えを用意していた。

「……これは僕の彼女持ちの友達から聞いたんだけど……誰だって好きな子の前では緊張する。それは簡単に変えられない」

「そ、そんなぁ……」

「でも、だからって焦る必要はない。まずは少しでも距離を縮めることが大事だって。桐山くんはまず姫宮さんと友達になるところから始めるべきなんだ」

「そ、そう言われたら……今はただ同じ部活の部員でしかない……っすね」

「そう。まずはお友達からは遠慮なんかじゃなく、必要なこと……なんて僕も受け売りなんだけどね。でも、今日は友達として遊べるように協力するよ」

 僕の言葉に桐山くんは強く頷く。それを見た僕はひとまず安心した。

 そして、着替えを終えてプールの方に入場して少し待つと女子達がやって来る。去年はその前に男子特有の会話をしていたけど、今日の桐山くんにそれをするのは逆効果だと思った。

「お待たせしました~ どうです? ひまり達の水着!」

 やって来てからすぐに日葵さんはそう聞いてくる。しまった。日葵さんはそういうタイプだったか。けれど、今日遊ぶ限りは否が応でも女子の、姫宮さんの水着は目に入ってしまう。それを心配しながら桐山くんの方を向くと……

「産賀先輩……ヤバいっす」

 桐山くんの視線は4人の女子の中で1人に釘付けだった。そこに立つ姫宮さんはセクシーさのあるビキニスタイルで、その意外さに僕も少しだけ驚く。

「視線を感じる」

「ええっ!? もしかしてこの中だと青蘭が一番人気!?」

「日葵、一番とかそういうこと言わないの」

「そんなこと言って~ 茉奈はどうせ一回彼氏さんに見せたことある水着なんでしょ?」

「な、なんで知って……んんっ! べ、別にいつも着てる水着だから。産賀さん、勘違いしないでくださいね!」

 何の勘違いだろうと思いつつも僕は「わかってる」と返す。去年はこのプールで松永から彼女ができていることを聞かされたけど、その頃には2人でプールや海へ行ってたりしたんだろうか。でも、松永が見たことがある水着なら何となくこちらも安心できる。

「そ、それより路先輩の水着、可愛いですね! 水色が爽やかな感じでとっても似合ってます!」

「そ、そうかな? ありがとう」

 伊月さんの褒め言葉を聞いた後、路ちゃんは僕の方へ視線を向けてくる。その評価には僕も同意で、実際に水着を着た路ちゃんは僕がお腹が隠れているという理由で選んだとは思えないほど似合っていた。そのせいで僕は一瞬だけ目を逸らしてしまう。

「ねぇねぇ、ひまりの水着は? ひまりだけ何もなくない?」

「はいはい、似合ってます。それで、最初はどこに行くの?」

「そうだなぁ~ 青蘭はどこか行きたいとこある?」

「何も考えてなかったの」

「こういうのはその場のノリが大事なの。でも、まぁ最初はシンプルな奴で体を慣らしますか。みんな体に水をかけていくんだよ!」

 日葵さんに導かれて、まずは少し浅めのプールへ向かって行く。その時、ちょうど路ちゃんが隣にやって来た。

「りょ、良助くん。水着似合ってるって言われちゃった……」

「う、うん」

「……良助くん的にはどう?」

「ぼ、僕? 似合ってる……と思う」

「それなら……良かった」

「そ、それより路ちゃん、少し相談があるんだけど……実は姫宮さんが……」

 そうして、僕は路ちゃんに今日やりたいことを話す。なるべく姫宮さんと桐山くんが話せるような状況を作りたいから、路ちゃんに日葵さんと伊月さんの相手を少し任せたいというものだ。もちろん、無理に引き合わせるつもりはないので、流れができそうだという前提で。

「……わかったわ。わたしもなるべく意識してみる」

「ありがとう。でも、あくまで自然にできそうな時でいいから路ちゃんは基本気にせず遊んでて」

「……うん」

 それからプールでの遊びは主に日葵さんの仕切りで進んでいく。まずは貸し出しのボールを使った遊びだ。僕としては正直なところ苦手な分野だけど、桐山くんを上手い具合に姫宮さんの隣に配置することで、自然に声をかけられるような状態を作り出せた。

「桐山」

「は、はい!」

「2人ともナイ……ぐはっ!」

「だ、大丈夫ですか、産賀さん!?」

「す、すみません、産賀先輩!」

「桐山。今のは私の受け渡しが悪かった」

「いやいや、そんなことなかったよ」

「でも副部長の顔面トスは面白かったので後悔はない」

「……ははっ、確かに」

 続いては流れるプール。前にも書いた気がするけど、ここでの正しい遊び方はわからない。でも、わりとゆったりした時間が流れるので会話させるチャンスだ。

「姫宮さんは夏にプールや海へ行くタイプなの?」

「程々には。基本は日葵誘われないと行きません。暑いので」

「あー……桐山くんは?」

「俺も誘われない限りはあんまり行かないっすね。わりとインドア派なんで」

「インドア派」

「そこ引っかかるの!? 俺も暑い日は家で本を読むタイプだから!」

「そうか。桐山も文芸部だった」

「いや、そうじゃないと俺、今日この場に呼ばれてないから……えっ。もしかして今まで部員と思われなかった?」

「冗談。さすがに男子3人しかいないのに忘れてたらまずい」

 その返しに桐山くんはオーバーな反応を返す。姫宮さんの絡み方はかなり独特ではあるけど、積極的に話そうとする感じが伝わってくる。一方の桐山くんもボール遊びで普段の自分のペースを掴んだのか、普通に喋れているように見えた。時折目を逸らすこともあるから緊張はしているんだろうけど。

「よっしゃー! 次はどこ行こうか!」

「俺はウォータースライダーを希望する!」

「なんだなんだ、桐山。やけにテンション高いじゃん」

「全然いつも通りだが? そ、それとも何か別に行きたいとこある……姫宮さん?」

「私もウォーターでスライダーしたい気分」

「いや、区切るとなんか意味変わって聞こえるような……?」

「あれ、青蘭と桐山が絡んでるの珍しいじゃん」

「そ、そんなことねぇよ。部員同士なんだから」

「そうか。桐山は文芸部だった」

「それやめてぇ!? 冗談でもちょっと傷つくんだけど!」

 プールに来てから1時間ほど経った頃には桐山くんからも違和感なく喋れるようになっていた。恐らく日葵さんを挟んでいる時の桐山くんはこういうテンションなんだろうけど、姫宮さんと直接絡むことはあまりなかったのだろう。
 結局、僕がお節介焼きしなくてもプールの賑やかな空気のおかげで、2人の会話はかなりスムーズになっていた。意識している桐山くんはともかく、姫宮さんの方も桐山くんを悪く思っていなかったのがこの結果に繋がったのだと思う。
 
 こうして、僕は今日のプールでの使命を……

「産賀さん……!」

 ……かと思ったら伊月さんが急に後ろから手を引いて僕を止める。

「ど、どうしたの!? 何かあった!?」

「それはこっちの台詞なんですけど……桐山と青蘭を話しやすいように仕向けてたんですね」

「あ、ああ。よくわかったね」

「わかりますよ。露骨に2人へ話を振ってましたし、反対に路先輩はわたしと日葵へ必死に話しかけてたので、何か意図があるなと思いました」

「あはは……」

「それはいいんですけど……産賀さんは産賀さんでやるべきことがあるじゃないですか」

「えっ? 他にやることって……?」

「……行きますよ」

 そのまま伊月さんは少し後ろにいた路ちゃんの前まで引っ張って来て手を離す。

「路先輩。産賀さんのお仕事は完了したみたいです」

「い、伊月さん?」

「後の役目はわたしが引き受けますので……じゃあ、産賀さん。わたしはあっちへ合流します!」

 そう言いながら伊月さんは僕と路ちゃんを残して行ってしまう。これが伊月さんの言う、僕のやるべきこと……

「み、路ちゃん。協力してくれてありがとう。おかげで2人はいい感じに話せてる」

「う、うん。さっき見た時に楽しそうに話してた」

「…………」

「…………」

「え、えっと……それじゃあ、僕も色々気にせず遊ぼう……と思うんだけど、路ちゃんは何かやりたいことある?」

「そ、それなら……とりあえずこのままみんなのところに。でも、わたし、ああいうのあんまり経験がないから……」

「駄目そうなら下で待っててもいいと思う。実は僕も得意じゃないからみんながすべってるの見て楽しもうかな」

「じゃあ、わたしも。下のプールで待っておきましょう」

 その後、1年生は元気に遊び回る中、僕と路ちゃんは保護者のような感じでプールに浸かりながら見守る時間が多かった。桐山くん以上に僕ら2人がインドア派だったからそうなったのもあるけど……少なくとも僕はそうやってゆっくり過ごした方がいいと思ったからそうした。

 こうして、僕は今日のプールでの使命を本当に果たすことができた……と思う。プールから上がった後も桐山くんと姫宮さんは部員として、友達としての会話ができていた。それについての詳しい感想はまた後日聞けるだろう。
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