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2年生1学期
6月19日(日)曇り 明莉との日常その52
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父の日の日曜日。今年も2日前に迎えた父さんの誕生日のお祝いも兼ねて家族で外食へ出かける。その時、僕は一瞬だけ清水先輩は父の日を祝ったりするんだろうかと思ってしまったけど、今日はそちらに思考を割くのではなく、父さんを全力で祝おうとすぐに切り替えた。
しかし、父の日兼父の誕生日に別のことを考えていたのは僕だけじゃなかった。
「りょうちゃん、ちょっと……」
それは外食へ出かける前のこと。明莉が周囲に注意しながら僕に話しかけてきた。
「どうしたの?」
「その……単刀直入に言うと、最近お父さんとそんなに話してない」
「ええっ!? ま、まさか、彼氏のこと言ってから!?」
「いや、そこから会話ゼロってわけじゃないんだけど、あかりもお父さんも何か話しかけづらくなってて。そもそもどんな会話してたんだっけ……?」
そう言われてしまうと、具体的な会話は出てこないけど、明莉甘やかしマンだったはずの父さんが気まずくなっているのは相当なことである。勝手にショックを乗り越えたと思っていたけど、結構引きずっているのは……また変なところで親子だと思ってしまう。いや、普通は親が子に感じるものかもしれないけど。
「普通の日常会話だよ。学校の話とか」
「今学校の話したら彼氏のこと言っちゃいそうじゃない?」
「そうかな? 僕と話してる時はほとんど触れられてないような気がするけど」
「それはまぁ、りょうちゃんは現役の学生だから話しやすさがあるけど、お父さんと話したら絶対余計なこと聞いてきたり、あかりの方が言っちゃたりしそうで……」
「だから話しづらくなってるのか。でも、父さんだって一回受け入れたんだから大丈夫だと思うけどなぁ」
「本当に? 伝えた当日のこと覚えてる?」
「う、うん。父さんは大人だし」
そう言ってみたものの、娘がいる父親だからこそ大丈夫じゃないこともあると心の中では思っていた。特にうちの父さんは。
「じゃあ……今日何とか仲直りというか、ちゃんと話せるようにがんばってみる。だから、りょうちゃんもアシストお願い!」
「そういうことなら任せて……って、具体的に何をアシストするの?」
「それはもう話を盛り上げる感じで。それから会話を上手く誘導してね」
「めっちゃ難しいんだけど……」
「頼りにしてるね、お兄ちゃん」
明莉は100点満点の笑顔で言う。そんなことをされてしまったら兄として僕は動かざるを得ない。
そして、今日のお店となるステーキ店に到着して注文を終えると、家族団らんの時間が発生する。そういう場合に率先して話してくれるのは明莉だったりするのだけど、今回は任されてしまったので、僕は話題を考えていた……その時だった。
「そういえば、明莉は彼氏さんとどんな感じなの?」
今日に限って言えば絶対に避けようと思っていた話題を振ったのは母さんだった。思わず僕と明莉を父さんの方に視線を向けると、父さんは何かを堪えるような顔をしていた。
(りょ、りょうちゃん、どうしよう!? 何か別の話題に切り替えられない!?)
(無茶言わないで! 話題がストレート過ぎてどこにも逸らせないよ!)
「ああ、2人ともお父さんのことは大丈夫だからね。むしろこの人、気になってるの聞けずにいたんだから」
「か、母さん!」
「えっ……? そうなの?」
明莉の言葉を同じ感想を僕も抱く。
「い、いや、あんまり聞くもんじゃないとは思っていたんだが……」
「そしたら明莉と普段何話してたか忘れちゃったとか言い出しちゃって。困ったお父さんだわ」
「あ、あかりも! お父さんが本当は怒ってるかもしれないとか考えて、何話してたか忘れちゃって……」
「そ、そうだったのか! うん、やっぱり明莉は父さんの娘だなぁ」
「当たり前でしょ! そんなところで親子を感じないでよ~」
その話をきっかけに明莉と父さんはいつも通り我が家の賑やかしとして盛り上げ始めた。すると、少し置いてけぼりを喰らった僕を母さんが見てクスリと笑う。
恐らく明莉が僕へ相談したのと同じように、父さんも母さんに助言を求めたのだろう。それで直球勝負に出るように仕向けたのは僕じゃ思い付かない解決方法だ。
そんなこんなで知らないうちにちょっと気まずくなっていた父と娘の関係は、父の日という収まりのいい日に元に戻った。
でも、その後に彼氏の話題を出す明莉に、父さんはいちいちダメージを喰らっていたから、今日の主役にしてはちょっと可哀想だったかもしれない。
しかし、父の日兼父の誕生日に別のことを考えていたのは僕だけじゃなかった。
「りょうちゃん、ちょっと……」
それは外食へ出かける前のこと。明莉が周囲に注意しながら僕に話しかけてきた。
「どうしたの?」
「その……単刀直入に言うと、最近お父さんとそんなに話してない」
「ええっ!? ま、まさか、彼氏のこと言ってから!?」
「いや、そこから会話ゼロってわけじゃないんだけど、あかりもお父さんも何か話しかけづらくなってて。そもそもどんな会話してたんだっけ……?」
そう言われてしまうと、具体的な会話は出てこないけど、明莉甘やかしマンだったはずの父さんが気まずくなっているのは相当なことである。勝手にショックを乗り越えたと思っていたけど、結構引きずっているのは……また変なところで親子だと思ってしまう。いや、普通は親が子に感じるものかもしれないけど。
「普通の日常会話だよ。学校の話とか」
「今学校の話したら彼氏のこと言っちゃいそうじゃない?」
「そうかな? 僕と話してる時はほとんど触れられてないような気がするけど」
「それはまぁ、りょうちゃんは現役の学生だから話しやすさがあるけど、お父さんと話したら絶対余計なこと聞いてきたり、あかりの方が言っちゃたりしそうで……」
「だから話しづらくなってるのか。でも、父さんだって一回受け入れたんだから大丈夫だと思うけどなぁ」
「本当に? 伝えた当日のこと覚えてる?」
「う、うん。父さんは大人だし」
そう言ってみたものの、娘がいる父親だからこそ大丈夫じゃないこともあると心の中では思っていた。特にうちの父さんは。
「じゃあ……今日何とか仲直りというか、ちゃんと話せるようにがんばってみる。だから、りょうちゃんもアシストお願い!」
「そういうことなら任せて……って、具体的に何をアシストするの?」
「それはもう話を盛り上げる感じで。それから会話を上手く誘導してね」
「めっちゃ難しいんだけど……」
「頼りにしてるね、お兄ちゃん」
明莉は100点満点の笑顔で言う。そんなことをされてしまったら兄として僕は動かざるを得ない。
そして、今日のお店となるステーキ店に到着して注文を終えると、家族団らんの時間が発生する。そういう場合に率先して話してくれるのは明莉だったりするのだけど、今回は任されてしまったので、僕は話題を考えていた……その時だった。
「そういえば、明莉は彼氏さんとどんな感じなの?」
今日に限って言えば絶対に避けようと思っていた話題を振ったのは母さんだった。思わず僕と明莉を父さんの方に視線を向けると、父さんは何かを堪えるような顔をしていた。
(りょ、りょうちゃん、どうしよう!? 何か別の話題に切り替えられない!?)
(無茶言わないで! 話題がストレート過ぎてどこにも逸らせないよ!)
「ああ、2人ともお父さんのことは大丈夫だからね。むしろこの人、気になってるの聞けずにいたんだから」
「か、母さん!」
「えっ……? そうなの?」
明莉の言葉を同じ感想を僕も抱く。
「い、いや、あんまり聞くもんじゃないとは思っていたんだが……」
「そしたら明莉と普段何話してたか忘れちゃったとか言い出しちゃって。困ったお父さんだわ」
「あ、あかりも! お父さんが本当は怒ってるかもしれないとか考えて、何話してたか忘れちゃって……」
「そ、そうだったのか! うん、やっぱり明莉は父さんの娘だなぁ」
「当たり前でしょ! そんなところで親子を感じないでよ~」
その話をきっかけに明莉と父さんはいつも通り我が家の賑やかしとして盛り上げ始めた。すると、少し置いてけぼりを喰らった僕を母さんが見てクスリと笑う。
恐らく明莉が僕へ相談したのと同じように、父さんも母さんに助言を求めたのだろう。それで直球勝負に出るように仕向けたのは僕じゃ思い付かない解決方法だ。
そんなこんなで知らないうちにちょっと気まずくなっていた父と娘の関係は、父の日という収まりのいい日に元に戻った。
でも、その後に彼氏の話題を出す明莉に、父さんはいちいちダメージを喰らっていたから、今日の主役にしてはちょっと可哀想だったかもしれない。
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