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2年生1学期
6月10日(金)曇り 夢想する岸本路子その6
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程よい疲れの金曜日。今日も通常通り文芸部の活動が行われる。1年生の4人もその流れに慣れてきたようで、元々意見や質問は出る方だったけど、ここ数回は更に積極的になっているような気がする。
一方、座学タイムが終わった後についても馴染んでいたようで、僕を含めた先輩とも楽し気に話す光景が当たり前になってきた。
そんな中、今日は伊月さんが僕に声をかけてくれる。
「産賀さん、ちょっと」
「どうしたの?」
「あれ……見てください」
少し心配そうな表情の伊月さんに言われてそちらに目線をやると……路ちゃんが今日も赤べこのように頭をカクカクさせていた。
しかし、僕はこの前のことを思い出してすぐに目線を逸らす。
「い、伊月さん。僕が見たら駄目なやつ……!」
「すみません。別に産賀さんを陥れようと思っていたわけじゃなくて。路子さん、教室でもあんな風になってたんですよね?」
「そうだけど……」
「そうなると、やっぱりここ最近は疲れてるのかもしれません」
「だろうね。部活の日に被ってないけど、塾に通い始めてるし」
「……ここは産賀さんが何か1つ言葉をかけてあげるべきだと思います」
「えっ? なんで?」
「なんでって……この中なら産賀さんが一番付き合い長いでしょうし」
「3年生も同じくらいの付き合いだけど……」
「でも、今は産賀さんが副部長ですし……ともかく、私が一旦声をかけてくるので、何か考えておいてください!」
容赦ない無茶ぶりしながら伊月さんは路ちゃんの方へと近づいていく。そのまま寝させてあげてもいいんじゃないかと思ったし、急に言葉をかけろと言われても非常に困ってしまう。
程なくして到着した伊月さんが優しく路ちゃんの肩を揺らすと、路ちゃんはゆっくり顔を上げる。そして、飛び跳ねるように驚く。またやってしまった。恥ずかしい。起こしてくれてありがとう。そんな感じのやり取りをしているのが少し離れたところからでもわかった。
いや、観察している場合じゃなかった。こういう時にかけるのは労いの言葉でいいんだろうか。それとも僕が部活動の役割を請け負うように言う?
僕は伊月さんのことをかなり信頼しているけど、今回ばかりはわりと突拍子もないことで、意図していることがわからなかった。かく言う僕も週末の放課後で気が抜けているせいか、少し頭が回らないのが重なって全く何も浮かんでこない。
「良助くん……?」
気が付くと伊月さんに連れられた路ちゃんが目の前にいた。恐らく伊月さんが何か言いたいことがあるみたいです、と言ってくれたのだろうけど、僕は全然準備ができていない。
しかし、疲れてるところを呼び出したことになっているのだから、これ以上待たせるわけにはいかない。
「えっと……お疲れみたいだね」
「う、うん。そうみたい。最近は気付かないうちにウトウトしちゃってるみたいで……」
「あんまり無理しないようにね。何か手伝えることがあったら僕に言ってくれていいから」
「……うん。ありがとう、良助くん。元気出た」
路ちゃんはそう言うと、元いた場所に帰っていった。すると、すかさず伊月さんは僕の前に来る。
「いい感じです、産賀さん!」
「お、おお。それなら良かった」
「はい。これからも今日みたいな感じで路子さんに声かけてあげてくださいね」
「えっ? これからも?」
「それはもう……産賀さんが副部長なので」
そう言いながら伊月さんが嬉しそうにするので、僕はそれ以上何も言えなかった。
伊月さんに限ってそんなことはないとは思うんだけど……実際、路ちゃんの疲れが少し和らぐならば労いの言葉や仕事の肩代わりをするのもやぶさかではない。
一方、座学タイムが終わった後についても馴染んでいたようで、僕を含めた先輩とも楽し気に話す光景が当たり前になってきた。
そんな中、今日は伊月さんが僕に声をかけてくれる。
「産賀さん、ちょっと」
「どうしたの?」
「あれ……見てください」
少し心配そうな表情の伊月さんに言われてそちらに目線をやると……路ちゃんが今日も赤べこのように頭をカクカクさせていた。
しかし、僕はこの前のことを思い出してすぐに目線を逸らす。
「い、伊月さん。僕が見たら駄目なやつ……!」
「すみません。別に産賀さんを陥れようと思っていたわけじゃなくて。路子さん、教室でもあんな風になってたんですよね?」
「そうだけど……」
「そうなると、やっぱりここ最近は疲れてるのかもしれません」
「だろうね。部活の日に被ってないけど、塾に通い始めてるし」
「……ここは産賀さんが何か1つ言葉をかけてあげるべきだと思います」
「えっ? なんで?」
「なんでって……この中なら産賀さんが一番付き合い長いでしょうし」
「3年生も同じくらいの付き合いだけど……」
「でも、今は産賀さんが副部長ですし……ともかく、私が一旦声をかけてくるので、何か考えておいてください!」
容赦ない無茶ぶりしながら伊月さんは路ちゃんの方へと近づいていく。そのまま寝させてあげてもいいんじゃないかと思ったし、急に言葉をかけろと言われても非常に困ってしまう。
程なくして到着した伊月さんが優しく路ちゃんの肩を揺らすと、路ちゃんはゆっくり顔を上げる。そして、飛び跳ねるように驚く。またやってしまった。恥ずかしい。起こしてくれてありがとう。そんな感じのやり取りをしているのが少し離れたところからでもわかった。
いや、観察している場合じゃなかった。こういう時にかけるのは労いの言葉でいいんだろうか。それとも僕が部活動の役割を請け負うように言う?
僕は伊月さんのことをかなり信頼しているけど、今回ばかりはわりと突拍子もないことで、意図していることがわからなかった。かく言う僕も週末の放課後で気が抜けているせいか、少し頭が回らないのが重なって全く何も浮かんでこない。
「良助くん……?」
気が付くと伊月さんに連れられた路ちゃんが目の前にいた。恐らく伊月さんが何か言いたいことがあるみたいです、と言ってくれたのだろうけど、僕は全然準備ができていない。
しかし、疲れてるところを呼び出したことになっているのだから、これ以上待たせるわけにはいかない。
「えっと……お疲れみたいだね」
「う、うん。そうみたい。最近は気付かないうちにウトウトしちゃってるみたいで……」
「あんまり無理しないようにね。何か手伝えることがあったら僕に言ってくれていいから」
「……うん。ありがとう、良助くん。元気出た」
路ちゃんはそう言うと、元いた場所に帰っていった。すると、すかさず伊月さんは僕の前に来る。
「いい感じです、産賀さん!」
「お、おお。それなら良かった」
「はい。これからも今日みたいな感じで路子さんに声かけてあげてくださいね」
「えっ? これからも?」
「それはもう……産賀さんが副部長なので」
そう言いながら伊月さんが嬉しそうにするので、僕はそれ以上何も言えなかった。
伊月さんに限ってそんなことはないとは思うんだけど……実際、路ちゃんの疲れが少し和らぐならば労いの言葉や仕事の肩代わりをするのもやぶさかではない。
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