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2年生1学期
6月2日(木)晴れ 夢想する岸本路子その5
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暑い日が戻ってきた木曜日。昨日から教室のエアコンも稼働が解禁となり、今日は稼働し始めの独特な匂い(定期的な清掃は恐らく学校側している……はず)がしていた。
こうなってくると、行き帰りの時間帯の暑さがより嫌になってしまうけど、炎天下の中動いている運動部のことを考えると、僕の置かれる環境はマシな方なのだろう。
そんな中、僕は今日も大倉くんの席までお喋りをしに行く。
「こ、この位置、結構エアコンが直接当たるから今日はちょっと寒かったかも……」
大倉くんにそう言われて天井を見上げると、確かにエアコンの吹き出し口がちょうど真上にあった。僕は現在出入り口側の一番前だから涼しさしか感じてなかったけど、場所によってはこういう不都合も出てくる。
「それは災難だったね。直当たりは体に良くないって言うし」
「で、でも、体育の後だったりすると逆にありがたかったりするから、悪いことばかりじゃなさそう」
「なるほど。大倉くんって寒暖だとどっちの方が我慢できる?」
「う、うーん……どっちも嫌だけど、どちらかといえば暑い方が我慢できるかな。ボク、あんまり汗かかないし」
「そうなんだ。僕も我慢できるのは暑さだなぁ。寒いと眠くなっちゃうし」
「あっ。眠いと言えば……」
大倉くんはそう言いながら僕に近くへ来るよう手招きする。
「きょ、今日の岸本さん……めちゃめちゃ眠そうだった」
小声で言った大倉くんがそのまま隣の席に目を向けるので、僕もそちらを見る。すると、路ちゃんは席を移動せずにうつらうつらとしていた。
「……今も眠そうだ」
「や、やっぱり寒かったのかな……?」
「それもあるかもしれないけど……疲れているのもありそう。テスト前から塾に通い出してるし、部長として色々考えることもあるだろうから」
「ぶ、部長って大変なんだなぁ……」
「いや、あくまで想像の話だけどね」
そう言いつつも文芸部の座学については僕や路ちゃんが中心に用意しているので、部長副部長じゃなかった時よりはやることは増えている。それに加えて塾のタスクがあのだとしたら僕とは比べらないほど忙しいに違いない。
そんなことを考えている間にも路ちゃんは赤べこのように首を揺らしていた。
「……わ、笑っちゃいけないけど、ちょっと面白いね」
「……はっ!? いやいや、あんまり見てあげないで」
「そ、そう言う産賀くんも見てるじゃない。それにどうせボクは忘れられた存在で……」
「それについては心中お察しするけど、やっぱり良くないよ。よし!」
僕はこれ以上路ちゃんの赤べこを教室内で晒さないようにするため、思い切って声をかける。
「み、路ちゃんー」
「……ふぇ?」
「大丈夫? お疲れのようだけど……」
「…………み」
「み?」
「み、見ないで!」
そう言った路ちゃんは両手を前に突き出した。それによって僕は大倉くんの方によろける。路ちゃんにしては珍しい行動に僕は驚いてしまったけど、路ちゃんはすぐに我に返る。
「ご、ごめんなさい、良助くん! ついびっくりして……」
「全然平気。起きて良かったよ」
「……じゃあ、さっきまでの……うぅ……」
そのまま路ちゃんは机に顔を伏せてしまったので僕はどうすることもできなくなった。
「……今のは軽率だったね」
「ええっ!? 僕が悪いの!?」
「だ、だって、まぁ……ねぇ?」
「ど、どういうこと……?」
僕が聞いても大倉くんは言葉を濁すばかりで詳しくは教えてくれなかった。
そんなこんなでエアコン稼働初日は過ごしやすかったけど、心地よ過ぎて眠ってしまわないように気をつけようと思った……という締めでいいのだろうか。
こうなってくると、行き帰りの時間帯の暑さがより嫌になってしまうけど、炎天下の中動いている運動部のことを考えると、僕の置かれる環境はマシな方なのだろう。
そんな中、僕は今日も大倉くんの席までお喋りをしに行く。
「こ、この位置、結構エアコンが直接当たるから今日はちょっと寒かったかも……」
大倉くんにそう言われて天井を見上げると、確かにエアコンの吹き出し口がちょうど真上にあった。僕は現在出入り口側の一番前だから涼しさしか感じてなかったけど、場所によってはこういう不都合も出てくる。
「それは災難だったね。直当たりは体に良くないって言うし」
「で、でも、体育の後だったりすると逆にありがたかったりするから、悪いことばかりじゃなさそう」
「なるほど。大倉くんって寒暖だとどっちの方が我慢できる?」
「う、うーん……どっちも嫌だけど、どちらかといえば暑い方が我慢できるかな。ボク、あんまり汗かかないし」
「そうなんだ。僕も我慢できるのは暑さだなぁ。寒いと眠くなっちゃうし」
「あっ。眠いと言えば……」
大倉くんはそう言いながら僕に近くへ来るよう手招きする。
「きょ、今日の岸本さん……めちゃめちゃ眠そうだった」
小声で言った大倉くんがそのまま隣の席に目を向けるので、僕もそちらを見る。すると、路ちゃんは席を移動せずにうつらうつらとしていた。
「……今も眠そうだ」
「や、やっぱり寒かったのかな……?」
「それもあるかもしれないけど……疲れているのもありそう。テスト前から塾に通い出してるし、部長として色々考えることもあるだろうから」
「ぶ、部長って大変なんだなぁ……」
「いや、あくまで想像の話だけどね」
そう言いつつも文芸部の座学については僕や路ちゃんが中心に用意しているので、部長副部長じゃなかった時よりはやることは増えている。それに加えて塾のタスクがあのだとしたら僕とは比べらないほど忙しいに違いない。
そんなことを考えている間にも路ちゃんは赤べこのように首を揺らしていた。
「……わ、笑っちゃいけないけど、ちょっと面白いね」
「……はっ!? いやいや、あんまり見てあげないで」
「そ、そう言う産賀くんも見てるじゃない。それにどうせボクは忘れられた存在で……」
「それについては心中お察しするけど、やっぱり良くないよ。よし!」
僕はこれ以上路ちゃんの赤べこを教室内で晒さないようにするため、思い切って声をかける。
「み、路ちゃんー」
「……ふぇ?」
「大丈夫? お疲れのようだけど……」
「…………み」
「み?」
「み、見ないで!」
そう言った路ちゃんは両手を前に突き出した。それによって僕は大倉くんの方によろける。路ちゃんにしては珍しい行動に僕は驚いてしまったけど、路ちゃんはすぐに我に返る。
「ご、ごめんなさい、良助くん! ついびっくりして……」
「全然平気。起きて良かったよ」
「……じゃあ、さっきまでの……うぅ……」
そのまま路ちゃんは机に顔を伏せてしまったので僕はどうすることもできなくなった。
「……今のは軽率だったね」
「ええっ!? 僕が悪いの!?」
「だ、だって、まぁ……ねぇ?」
「ど、どういうこと……?」
僕が聞いても大倉くんは言葉を濁すばかりで詳しくは教えてくれなかった。
そんなこんなでエアコン稼働初日は過ごしやすかったけど、心地よ過ぎて眠ってしまわないように気をつけようと思った……という締めでいいのだろうか。
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