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1年生3学期

3月12日(土)晴れ 花園華凛との日常その9

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 すっかり春めいた気温になった土曜日。外に出かける時も先週より上着1枚分少なくて済むくらい温かいし、これくらいが一番過ごしやすいと個人的に思う。

「……くしゅん!」

「大丈夫? 岸本さん」

「う、うん。わたし、ちょっとだけ花粉症があるみたいで」

 ただ、そんな温かさと共に厄介なものを飛んでいるようだ。そんな状況なのに岸本さんと一緒に出かけているのは花園さんの件を解決するためだ。

『実は……ここ最近、かりんちゃんの様子がいつもと違ってて。具体的には言えないのだけれど、少し距離を取られている気がして』

 花園さんから送られた試すようなメッセージについて僕が相談した後、岸本さんも花園さんの態度に違和感を覚えていた。
 そして、昨日岸本さんと部活終わりに改めて話し合った結果、家に直接行って花園さんがどう思っているのか聞きに行くことになったのだ。
 かなり強行突破な作戦ではあるけど、そうでもしなければ花園さんはずっとかわし続けそうだと僕と岸本さんの意見は一致した。

 電車移動終えて、駅から5分歩いて行くと、岸本さんの家である和菓子屋「花月堂」へ到着する。

「岸本さんは家の方に上がったことあるんだよね」

「うん。でも、今日は約束してないから……」

 連絡を取って来てしまうと断られる可能性があるから僕と岸本さんは普通に入店していく。

「いらっしゃいませ……あっ」

 すると、イートインスペースから移動していた花園さん本人といきなり遭遇する。今日は店を手伝う日だったのか。

「……とうとうデートですか?」

「ででで、デートじゃないよ!?」

 さらりととんでもないことを言う花園さんに岸本さんは慌てて否定する。

「ミチちゃん、そんなに焦らなくても。とりあえずご注文があればカウンターへどうぞ」

「ま、待って、花園さん」

「お仕事中なので」

 それはごもっともなので、それ以上引き止められず、花園さんはバックの方へ戻って行った。

「岸本さん、何か注文して待とう」

「う、うん……」

 適当に注文終えた僕と岸本さんは席について、カウンターの方を見ながら暫く待つ。前に明莉と来た時にスイーツ系は花園さんが作ると言っていた。このまま持って来たタイミングで花園さんを掴まえれば何か話ができるかもしれない。

「う、産賀くん……」

「どうしたの、岸本さん?」

「……な、何でもない。ちょっと……化粧直しに行ってくるね」

 そう言った岸本さんは足早に席から離れていった。今日も避けられるような行動を取られているから岸本さん的には心苦しい状況に違いない。それを解決するためにも――

「リョウスケ、この前も白玉ぜんざいだった気がするのですけど、そんなに気に入ったのですか?」

「いや、あんまり考えずに注文したから……って、花園さん!?」

「こちらはミチちゃんの抹茶ロールです。よいしょと」

 注文品をテーブルに並べた花園さんはそのまま岸本さんのいたところに座る。

「それで……本当にデートじゃないのですか?」

「違うよ。今日は……お店の方は大丈夫?」

「はい。今日は何となく暇だったので手伝っているだけです。手伝いとは言っても少し時給が発生するので、欲しい物がある時は華凛の稼働率も上がります」

「そ、そうなんだ。今日来たのは……テスト前に僕に送ったメッセージと最近岸本さんが感じている距離感について何だけど……」

「メッセージは面白くなると思って送りました。ミチちゃんについては……空気詠みの結果です」

 僕の方はあっさり解決してしまったので僕は何とも言えない気持ちになる。怒ってるわけじゃなくていつものやつだったのか。

「結構タチが悪い試し方だったと思うんだけど……それは置いといて岸本さんの方はどういうこと?」

「それを華凛の口から言わせるつもりですか。空気を読んで貰いたいですね」

「ご、ごめん。でも、岸本さんが気になってるみたいだから……」

「リョウスケのことを?」

「いや、そうじゃなくて」

「そうじゃなくないのです。これが」

 花園さんは真面目な表情で言うけど、これまでもこんな表情でボケたことがあるからまだわからない。ただ、今のところ僕と花園さんの会話は噛み合っていない。

「……華凛の誕生日のことで1割くらい華凛も悪いと思っています。結構主張していましたし。でも、それだけでミチちゃんがいきなり突き放すのは何だか変だと思わなかったのですか?」

「そ、それはちょっと思ったけど、僕の対応も悪かったから」

「そうだとしてもミチちゃんがそんなに感情的になるのは……リョウスケに対して少々特別な感情を抱いているからです」

「まさか、そんなわけ……」

「こう見えても華凛はリョウスケよりミチちゃんと一緒にいる時間が長いので」

 花園さんは自信あり気な顔でそう言う。一方の僕は胸の鼓動がどんどんと早くなっていく。今は冷静に話しているつもりだけど、もしかしなくても今とんでもないことを話されているんじゃないか?

「か、かりんちゃん。あの……」

「お帰りなさい、ミチちゃん。席を温めておきました」

「あ、ありがとう?」

 そうこうしているうちに岸本さんが戻ってきてしまった。そうだ、今日解決すべきは僕の話じゃない。岸本さんと花園さんの方だ。

「……まぁ、それでミチちゃんに距離を取っているように思わせてしまったのは少々露骨過ぎたのかもしれません。なので……」

 僕が話を進める前に立ち上がった花園さんはいきなり岸本さんへ抱き着く。

「か、かりんちゃん!?」

「先週までの態度はこれで許して貰えれば嬉しいです、ミチちゃん」

「えっ!? えっと……わたしがいない間に話が進んでる……?」

 その抱擁に少しだけ困惑しながらも岸本さんの表情は和らいでいるように見えた。それについては良かったけど、僕の方はまだ別の問題が発生してしまっている。

「それではお二人は華凛のことは気にせずごゆっくり」

 そう言った花園さんは僕の方を見て笑った……気がした。

「産賀くん。わたしは流れがよくわからないのだけど、解決できた……ってことでいいんだよね?」

「そう……思う」

「産賀くん? 顔が赤くなってるけれど、大丈夫?」

「きょ、今日は温かいからね!」

「それもそうね。それじゃあ……せっかくだし、このままかりんちゃんの誕生日会をどうするか話していい?」

 僕はそれに頷くけど、正直岸本さんの出した意見に頷くばかりで内容は詳しく覚えていなかった。

 テスト前のメッセージから始まって今日お店に二人で来るところまで花園さんは全部想定していた……とはさすがに思わないけど、所々に思惑はあったのかもしれない。

 ただ、重要なのはそっちじゃなくて……いや、きっと花園さんの勘違いだ。もしくは今度も試されているのだ。そうじゃないと……僕は困ってしまう。
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