上 下
318 / 942
1年生3学期

2月15日(火)曇り 心配とカテゴライズ

しおりを挟む
 我が高校の入試1日目となる火曜日。この日は筆記試験が行われる。1年ほど前の記憶を何とか思いだしてみると、あの時は知らない校舎で試験を受けるというだけで凄く緊張していた気がする。

「あ~ どうしよう、りょーちゃん! もうすぐ昼休みだよ!」

 そんな中、在校生の僕たちは休日となっていて、僕は一人家で過ごすものだと思っていたが……この日の午前中に松永が連絡もなしにうちへやって来た。
 それ自体は別に構わないし、来た理由が伊月さんが試験を受けていると思うと落ち着かないというのもわからなくはないけど、さすがに落ち着きが無さ過ぎる。

「あんまり覚えてない僕だけど、試験当日の松永がそんな感じではなかったのは確かだぞ。なんで自分が受けてない時の方が焦ってるんだよ。伊月さんってそんなに勉強できないタイプなのか?」

「そんなことはないけど、気になっちゃうんだよ。こう見えて俺は繊細だから……」

「繊細じゃないとは言いづらいけど、もう少し落ち着けって。伊月さんにそんな様子見せたら絶対駄目だぞ」

「そこは心配ない。茉奈ちゃんの前だとカッコつけてるから」

 それが彼氏彼女の関係として正しいのか僕にはわからないけど、少なくとも松永はこういう一面はあまり出さないようにしているのだろう。だけど、僕の予想だと伊月さんには見抜かれている。

「とりあえず昼ご飯どうするんだ? 僕はカップ麺で済ませようと思ったんだけど」

「あっ、それなら一旦コンビニ行って戻ってくるわ。りょーちゃんもなんかいる?」

「別にいらないよ。というか、カップ麺でいいならうちの食べて言ってもいいぞ」

「じゃあ、ごちそうになろうかなー りょーちゃん家はどういう系統買ってるの?」

 試験から気を逸らせたのか、それともご飯は話が別なのか、松永はいつも通りの様子に戻る。それから各々好きなカップ麺を作り終えると、昼の番組を流しながら昼食タイムになった。

「なんか変な感じだ。普段は平日で学校に行っているのに、松永と家でカップ麺をすすってるの」

「確かに。これは小中学校時代にもなかった気がするわ。でも、お行儀悪くカップ麺だけで済ませるのちょっと自由な感じしない?」

「わかる。めっちゃくだらないけど」

 おもてなしで考えるとカップ麺はあまり良くないだろうし、居間で適当な姿勢で食べる姿はマナー的には最悪だった。でも、この感じは心地良い背徳感というか、いけないことをしているからこそ楽しい感じがある。

「……茉奈ちゃんもちゃんと食べれてるかなぁ」

「そんなお昼ご飯食べられないほど緊張することは……人によるか。僕はそんな覚えはないけど」

「俺も普通に食べてた気がする」

「じゃあ、なんで伊月さんだとそんな……いや、松永がそう感じてるならあるのかもしれないけど」

「いや、茉奈ちゃんは結構真面目だから……ん? それで言ったらりょーちゃんも真面目だけど、試験中に胃が痛くなるとかそういうのなかったの?」

「真面目なやつが胃痛キャラみたいな風潮はなんなんだ。まぁ、僕も緊張はしていたけど、ご飯が喉を通らないとか、緊張がお腹に影響したとかはなかったよ」

 それこそ受験に持っていくべきと言われて使わなかった物の中には胃腸薬もあった気がする。備えあれば患いなしと言うけど、今まで生きてきた中でそんな状態になったことはなかったから最初から持ち腐れだったと思う。

「……なら、茉奈ちゃんも大丈夫か」

「なにその納得の仕方」

「いや、俺的にはりょーちゃんと茉奈ちゃんは同じタイプだと思ってるから。りょーちゃんも俺に対してそういうカテゴライズ的なやつあるでしょ。誰と似てるなーって」

「まぁ、言わんとしていることはわかる。そうか、僕は伊月さんと同じタイプか」

「はー 安心したらお腹物足りない気がしてきた。やっぱコンビニ行ってくるわ」

 謎の納得で本調子を取り戻した松永はそのままコンビニへ向かって行く。

 その後は普通に僕の家でダラダラとした時間を過ごして夕方に明莉の姿を見てから松永は帰宅した。

 松永がここまで心配するのはそれだけ伊月さんのことを想っている証拠だから良いことだと思う。
 だけど、そこから安心する要素を僕から見出すのは……上手く言えないけどなんかムズムズした。たぶん、今日のことは伊月さんに言わない方がいい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...