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1年生3学期
2月3日(木)曇り 松永浩太との昔話その6
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節分の水曜日。もちろん、この日一番の話題はその節分に関する話だった。我が家では昔ほど大々的にやらなくなったけど玄関で最低限の豆まきをして、何週間か前に予約した恵方巻きを食べるのが通例だ。
「りょーちゃん。折り入って聞きたいことがある」
そんな節分の話題が真っ先に出てくると思っていたけど、今日最初の休み時間に松永から振られた話は別のものだった。
「どうしたんだ? 急に改まって」
「俺……ここの受験の時ってどうしてたっけ……?」
「受験の時? そんなの……いや、よく知らないな。そもそも僕と松永って同じ部屋で試験受けたっけ?」
「受けてないけど! 来る時や帰り際に話したじゃん!?」
松永がそう言うからには間違いないのだろうけど、僕はあまり覚えていないので薄い反応になってしまう。
「それだけ覚えてるなら自分がどうしてたかわかるんじゃないの?」
「いや、俺も全部覚えてるわけじゃないし、どっちかというと聞きたいのは受験に挑む際の心構え的な話なの。ほら……茉奈ちゃんがもうすぐ受験だから」
「あー もうすぐだっけ?」
「もう再来週だよ。知らなかったの、りょーちゃん」
松永は責めるように言うけど、修学旅行と同じで自分にあまり関係ない話だからすっかり頭から抜けていた。いや、受験についてはその日が休みになるし、後輩ができることを考えると全く無関係とはいえないけど。
「つまりは……伊月さんに何か質問されたってことか」
「まぁ、やんわりと。でも、下手なこと言えないし、実際の俺が試験とか面接とかで何言ってたか全然覚えてないんだよなぁ」
「僕も同じだ。ちょうど1年前の話なのにどういう問題を解いたか覚えてない……」
「りょーちゃん……年は取りたくないな」
「いや、緊張もあって覚えてないのもあると思う……たぶん」
物覚えが悪くなるとしてもさすがに早すぎる。だけど、がんばって思い出そうとしても古い中で鮮明なのは合格発表を見た時の記憶だった。
「今更勉強うんぬんは俺から言っても仕方ないし、何かいい感じのアドバイスをしたいんだけどなぁ。本当に何も覚えてない?」
「うーん……あれだ。持って行っておいた方がいいものを調べて持って行ったけど、結局あんまり使わなかった」
「あるあるー……って、そういうのじゃなくてさ」
「でも、やたら当日の天気は気にしてたと思う。体調崩したらいけないからカイロ張るかどうか迷ったり、どれくらい防寒していくべきか考えたり」
「それもあるだろうけど……りょーちゃん、普通に昔話してるだけじゃない?」
「こうでもしないと思い出せないだろ。それから……あんまり派手じゃない腕時計をこの時期に買ったような」
「あっ、俺もその覚えあるし、りょーちゃんとも話した気がするわ。でも、茉奈ちゃんはその辺しっかりしてそうだし……」
それからその休み時間中に受験のあれこれを思い出そうと二人でがんばってみたけど、やればやるほどあまり重要ではない記憶が掘り起こされることになった。
「ど、どうしよう、りょーちゃん……」
「……まぁ、今みたいに焦った感じを見せるくらいなら自分が大丈夫だったから伊月さんも大丈夫って言うしかないんじゃないかな」
「りょーちゃん」
「他に思い付くことは――」
「それめっちゃいいじゃん! 採用!」
そう言った松永はすぐにスマホ取り出して何やらメッセージをうっていた。
それでいいのかと思ってしまったけど、恐らく伊月さんが欲しかったのは具体的な対策とか秘訣とかではなく、松永自身のエールだったのではないかと勝手に推測する。
あまり覚えてない僕が言うのもなんだけど、試験や面接に関する話を聞くならもっと早く聞いていそうだから今欲しいのはきっと緊張をほぐしたり、当日の支えになったりするものだと思う。
松永ほど意識するわけではないけど、伊月さんがうちの受験に挑む際には僕も心の中で応援させて貰おう。
「りょーちゃん。折り入って聞きたいことがある」
そんな節分の話題が真っ先に出てくると思っていたけど、今日最初の休み時間に松永から振られた話は別のものだった。
「どうしたんだ? 急に改まって」
「俺……ここの受験の時ってどうしてたっけ……?」
「受験の時? そんなの……いや、よく知らないな。そもそも僕と松永って同じ部屋で試験受けたっけ?」
「受けてないけど! 来る時や帰り際に話したじゃん!?」
松永がそう言うからには間違いないのだろうけど、僕はあまり覚えていないので薄い反応になってしまう。
「それだけ覚えてるなら自分がどうしてたかわかるんじゃないの?」
「いや、俺も全部覚えてるわけじゃないし、どっちかというと聞きたいのは受験に挑む際の心構え的な話なの。ほら……茉奈ちゃんがもうすぐ受験だから」
「あー もうすぐだっけ?」
「もう再来週だよ。知らなかったの、りょーちゃん」
松永は責めるように言うけど、修学旅行と同じで自分にあまり関係ない話だからすっかり頭から抜けていた。いや、受験についてはその日が休みになるし、後輩ができることを考えると全く無関係とはいえないけど。
「つまりは……伊月さんに何か質問されたってことか」
「まぁ、やんわりと。でも、下手なこと言えないし、実際の俺が試験とか面接とかで何言ってたか全然覚えてないんだよなぁ」
「僕も同じだ。ちょうど1年前の話なのにどういう問題を解いたか覚えてない……」
「りょーちゃん……年は取りたくないな」
「いや、緊張もあって覚えてないのもあると思う……たぶん」
物覚えが悪くなるとしてもさすがに早すぎる。だけど、がんばって思い出そうとしても古い中で鮮明なのは合格発表を見た時の記憶だった。
「今更勉強うんぬんは俺から言っても仕方ないし、何かいい感じのアドバイスをしたいんだけどなぁ。本当に何も覚えてない?」
「うーん……あれだ。持って行っておいた方がいいものを調べて持って行ったけど、結局あんまり使わなかった」
「あるあるー……って、そういうのじゃなくてさ」
「でも、やたら当日の天気は気にしてたと思う。体調崩したらいけないからカイロ張るかどうか迷ったり、どれくらい防寒していくべきか考えたり」
「それもあるだろうけど……りょーちゃん、普通に昔話してるだけじゃない?」
「こうでもしないと思い出せないだろ。それから……あんまり派手じゃない腕時計をこの時期に買ったような」
「あっ、俺もその覚えあるし、りょーちゃんとも話した気がするわ。でも、茉奈ちゃんはその辺しっかりしてそうだし……」
それからその休み時間中に受験のあれこれを思い出そうと二人でがんばってみたけど、やればやるほどあまり重要ではない記憶が掘り起こされることになった。
「ど、どうしよう、りょーちゃん……」
「……まぁ、今みたいに焦った感じを見せるくらいなら自分が大丈夫だったから伊月さんも大丈夫って言うしかないんじゃないかな」
「りょーちゃん」
「他に思い付くことは――」
「それめっちゃいいじゃん! 採用!」
そう言った松永はすぐにスマホ取り出して何やらメッセージをうっていた。
それでいいのかと思ってしまったけど、恐らく伊月さんが欲しかったのは具体的な対策とか秘訣とかではなく、松永自身のエールだったのではないかと勝手に推測する。
あまり覚えてない僕が言うのもなんだけど、試験や面接に関する話を聞くならもっと早く聞いていそうだから今欲しいのはきっと緊張をほぐしたり、当日の支えになったりするものだと思う。
松永ほど意識するわけではないけど、伊月さんがうちの受験に挑む際には僕も心の中で応援させて貰おう。
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