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1年生3学期
1月7日(金)晴れ 岸本路子の成長
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まだ冬休み明けの体を慣らす期間。金曜日の今日は文芸部のミーティングが開かれる。こちらは終業式よりも前に部活納めをしたせいか、かなり久しぶりな感じがした。
「皆さん、あけましておめでとうございまーす。今年度的には残り3ヶ月となっていますが、文芸部としての大きな目標は3月中頃の卒業式までに冊子を作り上げることでーす。まぁ、そうは言ってもあたしが部長である限りは焦らずのんびりがモットーなのでそういう感じでやっていきまーす」
森本先輩の空気感は新しい年を迎えてもそのままだった。僕としては凄く安心感がある。
「新年なので私も挨拶させて貰う。副部長として残り少ない期間ではあるが、文芸部が滞りなく動けるようにサポートできたらと思っている。今年もよろく頼む」
一方の水原先輩の対照的なしっかりした空気も変わっていない。こちらはこちらで安心できる要素……だけど、来年度からはそのどちらかを僕も務めなければならないのだから他人事にしてはいられない。
それはそれとして、この日も僕は京都のお土産を引っ提げて来たので森本先輩にそれを献上する。部活用に買ったラスクは京都感があるかはわからないけど、さすがに宇治抹茶を擦り過ぎてしまったし、人気と書かれていたので間違いはないと思う。
「ウーブ君、お菓子ありがとね! ソフィアも今度何か買って来なきゃなぁ」
「いえいえ。いつもお世話になってるほんの気持ちです」
「いやー できた後輩だね! ほら、シュウもなんか言ってあげたら?」
「オレはさっきお礼言ったから特に何も……」
「もう! そういう時はちょっとした小ボケでも……」
ソフィア先輩と藤原先輩もどうやらクリスマスでは大きな変化はなかったようだ。いや、これに関しては僕が気付いていないだけの可能性もあるけど……そういう詮索は他の先輩方に任せるとしよう。
「産賀くん」
そして、先輩方との話をひと通り終えた後、僕に話しかけてくれたのは……岸本さんだった。
「改めてにはなるのだけど、明けましておめでとうござまいます」
「あけましておめでとう。ラスク取ってくれた?」
「うん。これが京都のお土産ということは……おばあさんに文化祭の冊子は渡せた感じ?」
「そうそう。ばあちゃんは冊子も短歌の用紙も凄く喜んでた。用紙は綺麗に飾るとか言ってたけど」
「ふふっ。凄く祖父母孝行してるね」
岸本さんは楽しそうに笑う。それを見た僕は少しだけ違和感を覚えた。別に笑っているのが悪いわけじゃなくて、岸本さんの雰囲気が年明け前と何か違う気がする。
「岸本さん、間違ってたらごめんなんだけど……髪切ったりした」
「うん、ちょっとだけ。もしかして……変?」
「いやいや、全然変じゃないよ。なんだか少し雰囲気が変わったような気がしてそう聞いてみただけなんだ」
「一昨日に切ったばかりだから一番変わってるタイミングかもしれないわ。でも、産賀くんが気付くなんて……あっ、今のは産賀くんのことを馬鹿にしたわけじゃなくて……!」
「わかってるわかってる。実際、この数ヶ月で他に切った時には気付いてなかったろうから今回はたまたまそう思ったんだ」
「……そうなんだ」
「あっ。これも改めてになるけど『望遠鏡の中の君へ』の感想、もう少しだけ話していい? 実は岸本さんの話を聞いた後にもう一度読み返して……」
この日は珍しく僕の方がテンション高めで岸本さんへ感想を熱弁することになった。恐らく岸本さんや先輩方に久しぶりに会えて、お土産も喜んで貰えたことで調子に乗っていたのだろう。
ただ、後から思い返すと髪を切ったことを指摘するのは軽率だったかもしれない。もし違っていたら新年一発目から気まずくなるところだった。今度こういう場面になったら一回考えるようにしよう。
「皆さん、あけましておめでとうございまーす。今年度的には残り3ヶ月となっていますが、文芸部としての大きな目標は3月中頃の卒業式までに冊子を作り上げることでーす。まぁ、そうは言ってもあたしが部長である限りは焦らずのんびりがモットーなのでそういう感じでやっていきまーす」
森本先輩の空気感は新しい年を迎えてもそのままだった。僕としては凄く安心感がある。
「新年なので私も挨拶させて貰う。副部長として残り少ない期間ではあるが、文芸部が滞りなく動けるようにサポートできたらと思っている。今年もよろく頼む」
一方の水原先輩の対照的なしっかりした空気も変わっていない。こちらはこちらで安心できる要素……だけど、来年度からはそのどちらかを僕も務めなければならないのだから他人事にしてはいられない。
それはそれとして、この日も僕は京都のお土産を引っ提げて来たので森本先輩にそれを献上する。部活用に買ったラスクは京都感があるかはわからないけど、さすがに宇治抹茶を擦り過ぎてしまったし、人気と書かれていたので間違いはないと思う。
「ウーブ君、お菓子ありがとね! ソフィアも今度何か買って来なきゃなぁ」
「いえいえ。いつもお世話になってるほんの気持ちです」
「いやー できた後輩だね! ほら、シュウもなんか言ってあげたら?」
「オレはさっきお礼言ったから特に何も……」
「もう! そういう時はちょっとした小ボケでも……」
ソフィア先輩と藤原先輩もどうやらクリスマスでは大きな変化はなかったようだ。いや、これに関しては僕が気付いていないだけの可能性もあるけど……そういう詮索は他の先輩方に任せるとしよう。
「産賀くん」
そして、先輩方との話をひと通り終えた後、僕に話しかけてくれたのは……岸本さんだった。
「改めてにはなるのだけど、明けましておめでとうござまいます」
「あけましておめでとう。ラスク取ってくれた?」
「うん。これが京都のお土産ということは……おばあさんに文化祭の冊子は渡せた感じ?」
「そうそう。ばあちゃんは冊子も短歌の用紙も凄く喜んでた。用紙は綺麗に飾るとか言ってたけど」
「ふふっ。凄く祖父母孝行してるね」
岸本さんは楽しそうに笑う。それを見た僕は少しだけ違和感を覚えた。別に笑っているのが悪いわけじゃなくて、岸本さんの雰囲気が年明け前と何か違う気がする。
「岸本さん、間違ってたらごめんなんだけど……髪切ったりした」
「うん、ちょっとだけ。もしかして……変?」
「いやいや、全然変じゃないよ。なんだか少し雰囲気が変わったような気がしてそう聞いてみただけなんだ」
「一昨日に切ったばかりだから一番変わってるタイミングかもしれないわ。でも、産賀くんが気付くなんて……あっ、今のは産賀くんのことを馬鹿にしたわけじゃなくて……!」
「わかってるわかってる。実際、この数ヶ月で他に切った時には気付いてなかったろうから今回はたまたまそう思ったんだ」
「……そうなんだ」
「あっ。これも改めてになるけど『望遠鏡の中の君へ』の感想、もう少しだけ話していい? 実は岸本さんの話を聞いた後にもう一度読み返して……」
この日は珍しく僕の方がテンション高めで岸本さんへ感想を熱弁することになった。恐らく岸本さんや先輩方に久しぶりに会えて、お土産も喜んで貰えたことで調子に乗っていたのだろう。
ただ、後から思い返すと髪を切ったことを指摘するのは軽率だったかもしれない。もし違っていたら新年一発目から気まずくなるところだった。今度こういう場面になったら一回考えるようにしよう。
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