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1年生冬休み
12月28日(火)晴れ 大山亜里沙との冬遊び
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冬休み4日目。両親は今日が仕事納めになるので、昨日と今日の昼ご飯は僕が作ることになっている。昨日は簡単なパスタだったので、今日は明莉お気に入りのオムライスを作ることにした。
一度作ってから僕がご飯を作らなければいけない時に繰り返し作っていたので、レシピは頭に入っているし、少し手間をかけている感じがして料理できている感があるから僕としても結構お気に入りだ。
そんなオムライスを完成させて、食卓に並べてから明莉を呼ぶと……
「りょうちゃん。あかりはそろそろ新作が食べたいよ」
お気に入りじゃなくなっていた。オムライス自体は久しぶりだったけど、さすがに擦り過ぎてしまったようだ。
「し、新作かぁ……どういう系統の料理がいいの?」
「うーん……あんみつパフェ?」
「主食の話をしてるんだけど」
「だって、花園先輩のお店のパフェ美味しかったんだもん。また行きたいな-」
「それ聞いたら本人も喜ぶだろうな。もっと近くにあれば気軽に行けるんだけど」
「えっ!? りょうちゃん、おごってくれる気満々じゃん」
「そういう意味で言ったんじゃないよ。そういえば……スイーツというと、明莉はうちの高校近くにあるスイーツ店ってまだ行ってたりするのか?」
「ううん。りょうちゃんに連れて行って貰った時から行ってない。友達と行くのはファミレス系が多いし、中学からだとちょっと距離あるから」
「それもそうか。いや、あのスイーツ店は季節限定メニューをやってるって話を聞いたのを思い出して……」
そこまで言いかけて僕は自分の首を絞めてしまったことに気付く。恐らく次に明莉から言われるのは――
「へ~ そのスイーツ店なら自転車ですぐに行ける距離だよね。りょうちゃんも毎日通るところにあるわけだし」
「……こ、この12月は色々と出費が」
「もう。別にりょうちゃんに払って貰うとは言ってないよ。どうせ午後から暇だし、ちょっと行ってみない?」
明莉は気遣うような言葉と共に笑顔を見せるけど、お店に行ってから考えを変える可能性は十分ある。そして、おねだりされてしまったら僕は十中八九それを断れない。
◇
昼食を食べてから1時間後。満腹感が程よくなってきた頃に僕と明莉は自転車を走らせて久しぶりのスイーツ店へ到着する。クリスマスは終わっているので、ケーキの需要は一旦落ち着いていると思ったけど、年末の時期もあってか店内には同年代くらいの女子が何人か見られた。
その空気に若干居心地の悪さを感じつつ、僕と明莉はショーケースを眺めだす。
「アップルタルトにナシのレアチーズケーキ、リンゴとアールグレイのパウンドケーキ……この辺が季節限定だって」
「12月はリンゴやナシが旬なんだ。ショートケーキをよく見る時期だからイチゴだと思ってた」
「イチゴって本当は暖かい季節が旬って何かで見た気がする。うーん……りょうちゃんは何食べるの?」
「僕はいいかな。本当にお金ないし」
「えー!? それじゃあ食べ比べできないじゃん!? というか、お店に来たんだから1個は買っていかないとダメだよ」
そこは同伴の明莉が購入するから許して欲しいと思うけど、僕もスイーツ嫌いではないので、美味しそうなケーキを見ていると1個くらいはと思い始めてしまう。あまりショーケースの前で長居するのはよくないけど、ここはしっかり考えて……
「アタシはナシのレアチーズケーキがいいかな」
「えっ?」
その声に聞き覚えがあって振り向くと、後ろには僕と明莉の間からショーケースを覗く大山さんがいた。
「わっ!? 大山先輩、お久しぶりです。またここで会うなんてすごい偶然ですね!」
「おひさ、明莉ちゃん。たまたま来て見覚えのある二人が並んでたからアタシもびっくりしちゃった」
「あっ、他に待ち合わせしてる感じですか? 良かったらまた私たちと一緒に食べません?」
驚いて何を言おうか迷っている隙に明莉はとんでもない提案をする。今日はお持ち帰りにするつもりだったから完全に明莉がその場で言ったことだ。
「えっ? いいの? アタシは買って帰るつもりだったケド……それじゃあ、お邪魔しちゃおうかな」
「わーい! 私はアップルタルトにするので、大山先輩のもちょっと味見させてください!」
「ふふっ、いいよ。うぶクンはどうする? アタシが期間限定選んだから別のでもいいケド」
相席する方向に流れてしまったので、僕もとりあえずはパウンドケーキを注文して、三人でイートインスペースに向かう。明莉におごることはなかったけど、こんなことになるとは思ってなかった。
「ちょうど今日お兄ちゃんから季節限定メニューがあるって話を聞いたから一緒に来たんです」
「あっ。それ、アタシが教えたヤツかも。でも、テストが終わった後の週に教えたような……?」
「あー!? お兄ちゃん、私におごらされると思って黙ってたでしょー!?」
「いや、普通に忘れてたんだ。本当に」
久しぶりに会うはずなのに相変わらず明莉は馴染むのが早く、大山さん側に付くようにして喋っている。それを見た大山さんは楽しそうに笑うけど……
「……お兄ちゃん? なんか妙によそよそしいけど、なんかあった?」
「そ、そんなことはないよ」
僕は先ほど以上に居心地の悪さを感じていた。そんな僕を見た大山さんはハッとした表情になる。
「あー……たぶんアタシのせいだわ」
「えっ!? お兄ちゃんが何かやらかしちゃったんですか……?」
「いやいや、うぶクンの方は何にも悪いことしてないよ。ただ、アタシが最近カレシと別れちゃって。その話を聞いてるから気を遣ってくれてるんだと思う」
「えっ……ええっ!? 大山先輩、彼氏ができて……いや、別れちゃったんですか……?」
明莉の驚きとは別の意味で僕も驚く。その話を包み隠さず話すとは思っていなかった。
「うん。ほら、クリスマス前に別れちゃうっていうよくある話。でも、もう終わった話だから、うぶクンもそんな気にしなくていいよ?」
「ご、ごめん。僕も話させるつもりじゃなかったんだけど……」
「あっ、またすぐに謝ってるじゃん。気を遣ってくれたのは全然悪くないんだから、謝らなくていいのに」
大山さんに指摘されて僕は何も言えなくなる。何もかもが空回りだ。
「さて。アタシの話はこれくらいにして……明莉ちゃんはどうなの? 好きな子いたりする?」
「わ、私ですか!? それはその……」
「えっ、これはマジでいるヤツ? うぶクン、そういうの聞いても大丈夫な系?」
「ぜ、全然いないですよー! お兄ちゃんも急に悲しい顔しないで!」
明莉の反応で更にメンタルが落ち込みそうだったけど、その後は何とか気分を上げて大山さんを交えた世間話をしていった。そう、本田くんと大山さんの件はもう終わった話だ。それを本人の口から聞けたのなら僕が気にして仕方ない。
「ありがとね、うぶクン」
「えっ?」
1時間ほど店内で話して明莉がお花を摘に行った時、大山さんは唐突にそう言う。
「今日も別にここで食べるつもりなかったのに明莉ちゃんに合わせてくれて」
「いや、元々ここで食べて帰る予定だったから大丈夫」
「じゃあ、そういうことにしておく。それにしても明莉ちゃんって甘え上手ってカンジがする。アタシも末っ子だからその感じはわかるケド、それでも甘やかしちゃうなー たぶん学校でも先輩に好かれてると思う」
「そうなのかな。先輩との絡みはあんまり聞かないからわからないや」
「絶対そうだよ。一番近くにいるお兄ちゃんがこんなにも甘やかしちゃうんだから」
「いや、それは……」
「うん、わかってる。うぶクンが気遣いができるからそこも噛み合ってるんだろうなって」
大山さんはそう言いながら柔らかなほほ笑みを見せる。
「ごめんね。アタシが本田と付き合う前にあんなこと言ったから、ずっと気にしてくれてたんだよね」
「……大山さん。あの時の話って――」
「ただいま戻りましたー!」
「おかえりー! それじゃあ、いい時間だし、そろそろ帰りますか」
明莉に話を遮られたので僕は全てを聞くことはできなかった。だけど、偶然大山さんと出会えたことは僕にとってあの件を一区切りにできるきっかけになったので良かったと思う。詳しい話が聞ける日が来なくとも、僕は引き続き大山さんや本田くんと友達として接するだけだ。
一度作ってから僕がご飯を作らなければいけない時に繰り返し作っていたので、レシピは頭に入っているし、少し手間をかけている感じがして料理できている感があるから僕としても結構お気に入りだ。
そんなオムライスを完成させて、食卓に並べてから明莉を呼ぶと……
「りょうちゃん。あかりはそろそろ新作が食べたいよ」
お気に入りじゃなくなっていた。オムライス自体は久しぶりだったけど、さすがに擦り過ぎてしまったようだ。
「し、新作かぁ……どういう系統の料理がいいの?」
「うーん……あんみつパフェ?」
「主食の話をしてるんだけど」
「だって、花園先輩のお店のパフェ美味しかったんだもん。また行きたいな-」
「それ聞いたら本人も喜ぶだろうな。もっと近くにあれば気軽に行けるんだけど」
「えっ!? りょうちゃん、おごってくれる気満々じゃん」
「そういう意味で言ったんじゃないよ。そういえば……スイーツというと、明莉はうちの高校近くにあるスイーツ店ってまだ行ってたりするのか?」
「ううん。りょうちゃんに連れて行って貰った時から行ってない。友達と行くのはファミレス系が多いし、中学からだとちょっと距離あるから」
「それもそうか。いや、あのスイーツ店は季節限定メニューをやってるって話を聞いたのを思い出して……」
そこまで言いかけて僕は自分の首を絞めてしまったことに気付く。恐らく次に明莉から言われるのは――
「へ~ そのスイーツ店なら自転車ですぐに行ける距離だよね。りょうちゃんも毎日通るところにあるわけだし」
「……こ、この12月は色々と出費が」
「もう。別にりょうちゃんに払って貰うとは言ってないよ。どうせ午後から暇だし、ちょっと行ってみない?」
明莉は気遣うような言葉と共に笑顔を見せるけど、お店に行ってから考えを変える可能性は十分ある。そして、おねだりされてしまったら僕は十中八九それを断れない。
◇
昼食を食べてから1時間後。満腹感が程よくなってきた頃に僕と明莉は自転車を走らせて久しぶりのスイーツ店へ到着する。クリスマスは終わっているので、ケーキの需要は一旦落ち着いていると思ったけど、年末の時期もあってか店内には同年代くらいの女子が何人か見られた。
その空気に若干居心地の悪さを感じつつ、僕と明莉はショーケースを眺めだす。
「アップルタルトにナシのレアチーズケーキ、リンゴとアールグレイのパウンドケーキ……この辺が季節限定だって」
「12月はリンゴやナシが旬なんだ。ショートケーキをよく見る時期だからイチゴだと思ってた」
「イチゴって本当は暖かい季節が旬って何かで見た気がする。うーん……りょうちゃんは何食べるの?」
「僕はいいかな。本当にお金ないし」
「えー!? それじゃあ食べ比べできないじゃん!? というか、お店に来たんだから1個は買っていかないとダメだよ」
そこは同伴の明莉が購入するから許して欲しいと思うけど、僕もスイーツ嫌いではないので、美味しそうなケーキを見ていると1個くらいはと思い始めてしまう。あまりショーケースの前で長居するのはよくないけど、ここはしっかり考えて……
「アタシはナシのレアチーズケーキがいいかな」
「えっ?」
その声に聞き覚えがあって振り向くと、後ろには僕と明莉の間からショーケースを覗く大山さんがいた。
「わっ!? 大山先輩、お久しぶりです。またここで会うなんてすごい偶然ですね!」
「おひさ、明莉ちゃん。たまたま来て見覚えのある二人が並んでたからアタシもびっくりしちゃった」
「あっ、他に待ち合わせしてる感じですか? 良かったらまた私たちと一緒に食べません?」
驚いて何を言おうか迷っている隙に明莉はとんでもない提案をする。今日はお持ち帰りにするつもりだったから完全に明莉がその場で言ったことだ。
「えっ? いいの? アタシは買って帰るつもりだったケド……それじゃあ、お邪魔しちゃおうかな」
「わーい! 私はアップルタルトにするので、大山先輩のもちょっと味見させてください!」
「ふふっ、いいよ。うぶクンはどうする? アタシが期間限定選んだから別のでもいいケド」
相席する方向に流れてしまったので、僕もとりあえずはパウンドケーキを注文して、三人でイートインスペースに向かう。明莉におごることはなかったけど、こんなことになるとは思ってなかった。
「ちょうど今日お兄ちゃんから季節限定メニューがあるって話を聞いたから一緒に来たんです」
「あっ。それ、アタシが教えたヤツかも。でも、テストが終わった後の週に教えたような……?」
「あー!? お兄ちゃん、私におごらされると思って黙ってたでしょー!?」
「いや、普通に忘れてたんだ。本当に」
久しぶりに会うはずなのに相変わらず明莉は馴染むのが早く、大山さん側に付くようにして喋っている。それを見た大山さんは楽しそうに笑うけど……
「……お兄ちゃん? なんか妙によそよそしいけど、なんかあった?」
「そ、そんなことはないよ」
僕は先ほど以上に居心地の悪さを感じていた。そんな僕を見た大山さんはハッとした表情になる。
「あー……たぶんアタシのせいだわ」
「えっ!? お兄ちゃんが何かやらかしちゃったんですか……?」
「いやいや、うぶクンの方は何にも悪いことしてないよ。ただ、アタシが最近カレシと別れちゃって。その話を聞いてるから気を遣ってくれてるんだと思う」
「えっ……ええっ!? 大山先輩、彼氏ができて……いや、別れちゃったんですか……?」
明莉の驚きとは別の意味で僕も驚く。その話を包み隠さず話すとは思っていなかった。
「うん。ほら、クリスマス前に別れちゃうっていうよくある話。でも、もう終わった話だから、うぶクンもそんな気にしなくていいよ?」
「ご、ごめん。僕も話させるつもりじゃなかったんだけど……」
「あっ、またすぐに謝ってるじゃん。気を遣ってくれたのは全然悪くないんだから、謝らなくていいのに」
大山さんに指摘されて僕は何も言えなくなる。何もかもが空回りだ。
「さて。アタシの話はこれくらいにして……明莉ちゃんはどうなの? 好きな子いたりする?」
「わ、私ですか!? それはその……」
「えっ、これはマジでいるヤツ? うぶクン、そういうの聞いても大丈夫な系?」
「ぜ、全然いないですよー! お兄ちゃんも急に悲しい顔しないで!」
明莉の反応で更にメンタルが落ち込みそうだったけど、その後は何とか気分を上げて大山さんを交えた世間話をしていった。そう、本田くんと大山さんの件はもう終わった話だ。それを本人の口から聞けたのなら僕が気にして仕方ない。
「ありがとね、うぶクン」
「えっ?」
1時間ほど店内で話して明莉がお花を摘に行った時、大山さんは唐突にそう言う。
「今日も別にここで食べるつもりなかったのに明莉ちゃんに合わせてくれて」
「いや、元々ここで食べて帰る予定だったから大丈夫」
「じゃあ、そういうことにしておく。それにしても明莉ちゃんって甘え上手ってカンジがする。アタシも末っ子だからその感じはわかるケド、それでも甘やかしちゃうなー たぶん学校でも先輩に好かれてると思う」
「そうなのかな。先輩との絡みはあんまり聞かないからわからないや」
「絶対そうだよ。一番近くにいるお兄ちゃんがこんなにも甘やかしちゃうんだから」
「いや、それは……」
「うん、わかってる。うぶクンが気遣いができるからそこも噛み合ってるんだろうなって」
大山さんはそう言いながら柔らかなほほ笑みを見せる。
「ごめんね。アタシが本田と付き合う前にあんなこと言ったから、ずっと気にしてくれてたんだよね」
「……大山さん。あの時の話って――」
「ただいま戻りましたー!」
「おかえりー! それじゃあ、いい時間だし、そろそろ帰りますか」
明莉に話を遮られたので僕は全てを聞くことはできなかった。だけど、偶然大山さんと出会えたことは僕にとってあの件を一区切りにできるきっかけになったので良かったと思う。詳しい話が聞ける日が来なくとも、僕は引き続き大山さんや本田くんと友達として接するだけだ。
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