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1年生2学期
11月29日(月)晴れ時々曇り 花園華凛との日常その2
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テスト勉強期間の始まり。今週の水曜日辺りまではテスト範囲に入りそうなのでこの直前の期間でも普段の授業は疎かにしてはいけない。
「あっ……」
そう思っていたのに今日の僕は珍しく2時間目の英語表現の教科書を忘れてしまった。昨日の夜少しだけ見た後に鞄へ入れたつもりだったけど、よく確認してなかった。
「どしたの産賀くん?」
そんな状況の僕に隣の栗原さんは声をかける。
「いや、次の教科書忘れてちゃって」
「おお。それでいっそサボってしまおうと」
「どうしてそうなるの!?」
「あはは、冗談。それじゃあ、授業中に当てられたりしたら私が貸してあげよっか?」
「ありがとう。でも、他のクラスの子に借りに行ってくらから……駄目だったらお願いする」
「駄目なことなんてあるの?」
「ほ、ほら、今日同じ授業があるとは限らないから」
僕はそう言い残して教室を出る。でも、僕が駄目だと思っているのは借りるお願いができるかどうかの方になる。そんなことを思ってしまうのは僕が律儀にも一番難易度が高い相手に借りに行こうしているからだ。
1組の教室の前に着いた僕は一旦立ち止まってまずどうやって呼ぶか考える。一応花園さんにお願いするつもりだけど、正直話しかける分には岸本さんの方が圧倒的に話しかけやすい。
ただ、それ以前の問題として他のクラスへずけずけと入っていくわけにはいかないから他の誰かに呼んでも貰うか、二人のどちらかに気付いて貰う必要がある。
「どうかしたのですか、リョウスケ」
「いや、どうやって花園さんか岸本さんを呼ぼうかと……うわぁ!?」
急に花園さんが後ろから話しかけるので僕は驚く。
「人の顔を見て「うわぁ」と言うのは失礼ではないかと」
「ご、ごめん。てっきり教室にいるものかと……」
「不在かどうか確認したいのであればスマホで連絡を寄越せば良いのでは?」
「あっ、確かに……で、でも、花園さんの連絡先は知らないから」
「それはそうですが……華凛でなければならない用事とは何ですか?」
「えっと……今日って英語表現の授業あったりする……?」
「はい。4時間目にあります」
「それならその……教科書を忘れてしまったので貸してください」
「なるほど。この前に頼りにすると言ったことを馬鹿正直に実行したわけですか」
「馬鹿正直……まぁ、そうなるか。お願いしてもいい?」
「……ここで嫌だと言った方が面白いのでは」
「ええっ!? 本当にお願いします! もう他をあたる時間もないから!」
「冗談です。少々待ってください」
花園さんはクスリと笑いながら1組の教室へ戻って行く。何だか僕は周りの人からからかわれやすいような気がするけど、貸して貰う立場だから今日は何も言えない。
「はい。こちらでいいですか?」
「ありがとう! 悪いけどひとまずこれで!」
休み時間がギリギリだったので僕は急いで教室へ戻る。
そして、授業2時間目の終わり。僕はすぐに1組の教室へ向かうと、既に花園さん……と岸本さんが外で待ってくれていた。
「助かったよ、花園さん」
「いえいえ。それではその教科書はこちらに」
「えっ?」
花園さんは僕が返却しようとした教科書をそのまま岸本さんの方へ受け流す。
「そ、その……かりんちゃんが何故かわたしの教科書を貸した方がいいって言ったから」
「そうだったんだ。ありがとう、岸本さん。でも、なんで?」
「その方が面白いと思ったからです」
「お、面白い……?」
僕はそう言いながら岸本さんの方を見てしまうけど、岸本さんからは困った顔を返されるだけだ。
「……というのは半分くらい本音ですが、実は最近ミチちゃんが――」
「あー!? 何でもないの産賀くん!」
「ふごふご」
何か言いかけた花園さんの口を岸本さんは急いで塞ぐ。
「えっと……まぁ、詳しくは聞かないでおくけど、二人ともありがとう。また何かあったらお願いするよ」
「うん。遠慮なく頼ってくれて大丈夫だから」
「ふご、ふごふご」
僕が立ち去るまで花園さんは口を塞がれたままだった。そんな風にできるほど岸本さんと花園さんの関係がこれまで以上に深まっていることを実感した日だった……いや、この感想でいいんだろうか?
「あっ……」
そう思っていたのに今日の僕は珍しく2時間目の英語表現の教科書を忘れてしまった。昨日の夜少しだけ見た後に鞄へ入れたつもりだったけど、よく確認してなかった。
「どしたの産賀くん?」
そんな状況の僕に隣の栗原さんは声をかける。
「いや、次の教科書忘れてちゃって」
「おお。それでいっそサボってしまおうと」
「どうしてそうなるの!?」
「あはは、冗談。それじゃあ、授業中に当てられたりしたら私が貸してあげよっか?」
「ありがとう。でも、他のクラスの子に借りに行ってくらから……駄目だったらお願いする」
「駄目なことなんてあるの?」
「ほ、ほら、今日同じ授業があるとは限らないから」
僕はそう言い残して教室を出る。でも、僕が駄目だと思っているのは借りるお願いができるかどうかの方になる。そんなことを思ってしまうのは僕が律儀にも一番難易度が高い相手に借りに行こうしているからだ。
1組の教室の前に着いた僕は一旦立ち止まってまずどうやって呼ぶか考える。一応花園さんにお願いするつもりだけど、正直話しかける分には岸本さんの方が圧倒的に話しかけやすい。
ただ、それ以前の問題として他のクラスへずけずけと入っていくわけにはいかないから他の誰かに呼んでも貰うか、二人のどちらかに気付いて貰う必要がある。
「どうかしたのですか、リョウスケ」
「いや、どうやって花園さんか岸本さんを呼ぼうかと……うわぁ!?」
急に花園さんが後ろから話しかけるので僕は驚く。
「人の顔を見て「うわぁ」と言うのは失礼ではないかと」
「ご、ごめん。てっきり教室にいるものかと……」
「不在かどうか確認したいのであればスマホで連絡を寄越せば良いのでは?」
「あっ、確かに……で、でも、花園さんの連絡先は知らないから」
「それはそうですが……華凛でなければならない用事とは何ですか?」
「えっと……今日って英語表現の授業あったりする……?」
「はい。4時間目にあります」
「それならその……教科書を忘れてしまったので貸してください」
「なるほど。この前に頼りにすると言ったことを馬鹿正直に実行したわけですか」
「馬鹿正直……まぁ、そうなるか。お願いしてもいい?」
「……ここで嫌だと言った方が面白いのでは」
「ええっ!? 本当にお願いします! もう他をあたる時間もないから!」
「冗談です。少々待ってください」
花園さんはクスリと笑いながら1組の教室へ戻って行く。何だか僕は周りの人からからかわれやすいような気がするけど、貸して貰う立場だから今日は何も言えない。
「はい。こちらでいいですか?」
「ありがとう! 悪いけどひとまずこれで!」
休み時間がギリギリだったので僕は急いで教室へ戻る。
そして、授業2時間目の終わり。僕はすぐに1組の教室へ向かうと、既に花園さん……と岸本さんが外で待ってくれていた。
「助かったよ、花園さん」
「いえいえ。それではその教科書はこちらに」
「えっ?」
花園さんは僕が返却しようとした教科書をそのまま岸本さんの方へ受け流す。
「そ、その……かりんちゃんが何故かわたしの教科書を貸した方がいいって言ったから」
「そうだったんだ。ありがとう、岸本さん。でも、なんで?」
「その方が面白いと思ったからです」
「お、面白い……?」
僕はそう言いながら岸本さんの方を見てしまうけど、岸本さんからは困った顔を返されるだけだ。
「……というのは半分くらい本音ですが、実は最近ミチちゃんが――」
「あー!? 何でもないの産賀くん!」
「ふごふご」
何か言いかけた花園さんの口を岸本さんは急いで塞ぐ。
「えっと……まぁ、詳しくは聞かないでおくけど、二人ともありがとう。また何かあったらお願いするよ」
「うん。遠慮なく頼ってくれて大丈夫だから」
「ふご、ふごふご」
僕が立ち去るまで花園さんは口を塞がれたままだった。そんな風にできるほど岸本さんと花園さんの関係がこれまで以上に深まっていることを実感した日だった……いや、この感想でいいんだろうか?
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