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1年生2学期
10月29日(金)晴れ 岸本路子との親交その9
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部活がある金曜日。本日は火曜日にやった文芸の勉強会的なものではなく、事前に知らされていたとある宿題について持ち寄る日になっていた。
「皆さん忙しい中ありがとうございましたー 今回はこの4名について感想をまとめていきまーす」
その宿題とは文化祭の冊子に載せた作品について、感想を書くというものだ。文化祭からすぐにテストだったことから読む時間の確保のために少し時間を空くことになった。毎週金曜日にやっていけば11月中には全員終わる。
「まずは龍蒼陣さんの作品への感想からー ざっくりと話をまとめると――」
感想の共有はペンネームで部長が代表で読み上げていくので、一応作者がバレないようになっている。だから、感想には改善点なども書いて良いことになっており、添削の意味合いも含まれていた。
ただ、僕は添削できるほどの知識はないから基本的に良い点の感想ばかりになってしまった。
「えー いち、にー……後ろから4行目の表現。ここがもう少し変えた方が良かったんじゃないかなーって意見も出ていまーす。皆さんはどう思いますかー?」
今回は僕の作品が該当してなかったけど、いざその時になったらこういう指摘に動揺せずにいられないと思ってしまった。添削はより良いものにするために必要だと思うけど、そうできなかった自分にちょっと凹みそうだ。
◇
感想会が終了すると、そのまま自由な雑談時間に突入した。年度末の冊子に向けての創作も考えなければならないけど、まだ次の創作ができる思考になっていないから帰ろうかどうか僕は迷っていた。
「産賀くん、今大丈夫……?」
そんなところに岸本さんが声をかけてきた。そうそう、これこれ。この岸本さんが何か持ちかけてくれる感じがいつもの文芸部だ。
「大丈夫。どうしたの?」
「その……どうせ部活内でもやるのはわかっているのだけれど、お互いに感想言い合う予定だったから……今日、それをしようと思って」
「ああ、そうだね。それじゃあ……ちょっと声を小さめにして話そう」
これもテストとごたごたがあって後回しになっていたから、僕と岸本さんはお互いにペンネームを明かした上での感想をまだ言い合っていなかった。
しかし、僕がひそひそ話を始めようとするのに対して、岸本さんは鞄を漁り始める。そこから取り出されたのは……ルーズリーフだった。
「話もしたいのだけれど……これ、どうぞ」
「これは?」
「わたしの感想を書いたの。上手く喋られるかわからないから今週まとめていて」
「なるほ……って、こんなに!?」
いきなり大きな声を出したので先輩方の目線が集まる。僕は「なんでもないです」と言ってから岸本さんの方へ向き直る。
「ご、ごめんなさい。わたしもやり過ぎだと思ったのだけれど、これしか方法が……」
「正直驚いたけど、これだけ書いてくれたのは素直に嬉しいよ。むしろ、僕は口頭で言えるレベルの感想しか……」
「そ、それでいいの。わたしがやりたくてやったことだから」
「そ、そっか。それじゃあ、僕から感想を言っていい?」
このままだとまた謙遜し合うことになりそうだったので、僕が話を進めようとすると、岸本さんも頷く。
冬雷先生こと岸本さんが書いた作品は『1ヶ月の親友』というタイトルだ。それまで同じ友達グループにいながら当人同士ではあまり話していなかった二人の男子高校生がいて、そのうちの一人が1ヶ月に転校することがわかったことをきっかけにして、徐々に仲を深めていく様子が描かれる。
もっと早く話していればと後悔する一人と本当の意味で親友ができたと思うもう一人というように二人の主人公は色々な部分で対比されているようで、友情の良いところと寂しさを感じさせるものになっていた。
「……という感じ。まとまっていて読みやすかった」
「そう言って貰えると……嬉しい。実際のわたしは転校もしたこともなければ友情を語れるほど友達もいないのだけれど……」
「想像で描けるのはそれだけ色々調べながら書いたってことだろうし、凄いことだと思うよ」
「ありがとう。だけど、そういう知識を得られたのは産賀くんの協力のおかげもあるわ」
岸本さんにそう言われるけど、僕が読んでいる時にはそのことはすっかり忘れていた。確かに主人公は男子高校生だけど、僕が答えたものが役立っているかと言われると……どうなのだろうか。岸本さんがそう言ってくれるなら想像の足しになっていたのかもしれない。
「じゃあ、次はわたしの感想。細かい感想はさっき渡した紙に書いてあるから簡潔に言うと……続きが気になったわ。本当に冒険が始まる前に終わってしまったから」
「そ、そうかぁ……そうだよね。僕が上手くオチを付けられなかったから……」
「ち、違うの! 別に尻切れで終わったと言いたいわけじゃなくて、これから冒険が始まるワクワク感はあって、ポジティブな意味で続きが気になるっていうことだから」
「ごめんごめん。書いた僕の方が弱気になったら駄目だよね。文章量に制限はなかったけど、あんまり長くしたらいけないと思ったから続きは読んでくれた人に想像して貰おうかなと」
「何となくそういうことだと思ってたわ。わたしも頭の中で創ったお話は最初で終わることがよくあるから……も、もちろん書き起こすのは大変だからわたしの頭の中と比べるものじゃないと思うけれど!」
その後も岸本さんはちょっと気を遣いながら感想を述べてくれた。他の人からも感想を貰ったけど、その多くは面白かったと簡潔なものが多かったから岸本さんの詳しめの感想は正直嬉しいものだった。一方で、岸本さんが物足りなさそうに言うところもあったから……そこは今後の改善点になる。
「……はっ!? ご、ごめんなさい。簡潔に言うつもりだったのだけれど……」
「ううん。貴重な感想ありがとう。でも、これだけしっかり感想を書いてくれたなら僕も岸本さんの作品をもう少し読み込まないとな。それこそ用紙にまとめて……」
「そ、それは本当にわたしが勝手にだけだから……!」
岸本さんは焦って恥ずかしそうにするけど、それだけできたのはやっぱり岸本さんが本や創作が好きだからこそだと思うし、それを素直にぶつけてくれるのは嬉しいことだ。
僕もそれに追い付くつもりで、先輩方の作品も含めてもう一度よく読んでみようと思った。
「皆さん忙しい中ありがとうございましたー 今回はこの4名について感想をまとめていきまーす」
その宿題とは文化祭の冊子に載せた作品について、感想を書くというものだ。文化祭からすぐにテストだったことから読む時間の確保のために少し時間を空くことになった。毎週金曜日にやっていけば11月中には全員終わる。
「まずは龍蒼陣さんの作品への感想からー ざっくりと話をまとめると――」
感想の共有はペンネームで部長が代表で読み上げていくので、一応作者がバレないようになっている。だから、感想には改善点なども書いて良いことになっており、添削の意味合いも含まれていた。
ただ、僕は添削できるほどの知識はないから基本的に良い点の感想ばかりになってしまった。
「えー いち、にー……後ろから4行目の表現。ここがもう少し変えた方が良かったんじゃないかなーって意見も出ていまーす。皆さんはどう思いますかー?」
今回は僕の作品が該当してなかったけど、いざその時になったらこういう指摘に動揺せずにいられないと思ってしまった。添削はより良いものにするために必要だと思うけど、そうできなかった自分にちょっと凹みそうだ。
◇
感想会が終了すると、そのまま自由な雑談時間に突入した。年度末の冊子に向けての創作も考えなければならないけど、まだ次の創作ができる思考になっていないから帰ろうかどうか僕は迷っていた。
「産賀くん、今大丈夫……?」
そんなところに岸本さんが声をかけてきた。そうそう、これこれ。この岸本さんが何か持ちかけてくれる感じがいつもの文芸部だ。
「大丈夫。どうしたの?」
「その……どうせ部活内でもやるのはわかっているのだけれど、お互いに感想言い合う予定だったから……今日、それをしようと思って」
「ああ、そうだね。それじゃあ……ちょっと声を小さめにして話そう」
これもテストとごたごたがあって後回しになっていたから、僕と岸本さんはお互いにペンネームを明かした上での感想をまだ言い合っていなかった。
しかし、僕がひそひそ話を始めようとするのに対して、岸本さんは鞄を漁り始める。そこから取り出されたのは……ルーズリーフだった。
「話もしたいのだけれど……これ、どうぞ」
「これは?」
「わたしの感想を書いたの。上手く喋られるかわからないから今週まとめていて」
「なるほ……って、こんなに!?」
いきなり大きな声を出したので先輩方の目線が集まる。僕は「なんでもないです」と言ってから岸本さんの方へ向き直る。
「ご、ごめんなさい。わたしもやり過ぎだと思ったのだけれど、これしか方法が……」
「正直驚いたけど、これだけ書いてくれたのは素直に嬉しいよ。むしろ、僕は口頭で言えるレベルの感想しか……」
「そ、それでいいの。わたしがやりたくてやったことだから」
「そ、そっか。それじゃあ、僕から感想を言っていい?」
このままだとまた謙遜し合うことになりそうだったので、僕が話を進めようとすると、岸本さんも頷く。
冬雷先生こと岸本さんが書いた作品は『1ヶ月の親友』というタイトルだ。それまで同じ友達グループにいながら当人同士ではあまり話していなかった二人の男子高校生がいて、そのうちの一人が1ヶ月に転校することがわかったことをきっかけにして、徐々に仲を深めていく様子が描かれる。
もっと早く話していればと後悔する一人と本当の意味で親友ができたと思うもう一人というように二人の主人公は色々な部分で対比されているようで、友情の良いところと寂しさを感じさせるものになっていた。
「……という感じ。まとまっていて読みやすかった」
「そう言って貰えると……嬉しい。実際のわたしは転校もしたこともなければ友情を語れるほど友達もいないのだけれど……」
「想像で描けるのはそれだけ色々調べながら書いたってことだろうし、凄いことだと思うよ」
「ありがとう。だけど、そういう知識を得られたのは産賀くんの協力のおかげもあるわ」
岸本さんにそう言われるけど、僕が読んでいる時にはそのことはすっかり忘れていた。確かに主人公は男子高校生だけど、僕が答えたものが役立っているかと言われると……どうなのだろうか。岸本さんがそう言ってくれるなら想像の足しになっていたのかもしれない。
「じゃあ、次はわたしの感想。細かい感想はさっき渡した紙に書いてあるから簡潔に言うと……続きが気になったわ。本当に冒険が始まる前に終わってしまったから」
「そ、そうかぁ……そうだよね。僕が上手くオチを付けられなかったから……」
「ち、違うの! 別に尻切れで終わったと言いたいわけじゃなくて、これから冒険が始まるワクワク感はあって、ポジティブな意味で続きが気になるっていうことだから」
「ごめんごめん。書いた僕の方が弱気になったら駄目だよね。文章量に制限はなかったけど、あんまり長くしたらいけないと思ったから続きは読んでくれた人に想像して貰おうかなと」
「何となくそういうことだと思ってたわ。わたしも頭の中で創ったお話は最初で終わることがよくあるから……も、もちろん書き起こすのは大変だからわたしの頭の中と比べるものじゃないと思うけれど!」
その後も岸本さんはちょっと気を遣いながら感想を述べてくれた。他の人からも感想を貰ったけど、その多くは面白かったと簡潔なものが多かったから岸本さんの詳しめの感想は正直嬉しいものだった。一方で、岸本さんが物足りなさそうに言うところもあったから……そこは今後の改善点になる。
「……はっ!? ご、ごめんなさい。簡潔に言うつもりだったのだけれど……」
「ううん。貴重な感想ありがとう。でも、これだけしっかり感想を書いてくれたなら僕も岸本さんの作品をもう少し読み込まないとな。それこそ用紙にまとめて……」
「そ、それは本当にわたしが勝手にだけだから……!」
岸本さんは焦って恥ずかしそうにするけど、それだけできたのはやっぱり岸本さんが本や創作が好きだからこそだと思うし、それを素直にぶつけてくれるのは嬉しいことだ。
僕もそれに追い付くつもりで、先輩方の作品も含めてもう一度よく読んでみようと思った。
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