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1年生2学期
9月29日(水)晴れのち曇り 桜庭小織の野望
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火曜始まりでも折り返しに感じる水曜日。この日の午前から昼にかけての休み時間、松永は非常に忙しそうだった。
先週の水曜日から時期生徒会の立候補者の募集が始まっており、実は選挙管理委員会になっていた(僕はすっかり忘れたいたが日記には書いていた)松永はこの日が当番になっていたのだ。
そんな松永が昼休みの当番を終えて授業が始まる前に帰って来ると、何故か自分の席ではなく僕の席へやって来た。
「大変だ! りょーちゃん!」
「どうしたんだ? 宿題忘れたなら……」
「違うよ! さっき会場に清水さんが来たんだよ!」
「へー……ええっ!?」
「まぁ、立候補者ってわけじゃないんだけど」
松永はそう返すけど、それでも十分驚くことだ。なぜなら清水先輩が付き添いで来るということは立候補者になる方も思い当たる。
すると、近くの席の野島さんが清水先輩の名前に反応したのか、僕らに話しかけてくる。
「あっ、桜庭先輩、今日立候補したんだ」
「野島ちゃん知ってたの? 言っといてよー」
「いや、松永くんは関わりないと思ってたから……それより産賀くんは知らなかったんだ? 清水先輩からも教えられてない?」
「うん。でも、それっぽいことは言われてたような気がする」
「ほー……最近もどっちかとは会ってたんだ?」
しまった。今の野島さんの誘導尋問だった。ちょっと知らないと思われてるのが嫌だからって見栄を張るんじゃなかった。
「じゅ、授業始まるから!」
その場は何とか誤魔化した僕はスマホを取り出して清水先輩へメッセージを……どう送ろうか? むしろ送るべきは桜庭先輩なのか? 立候補しただけならおめでとうございますは何か違うし、どうして言ってくれなかったんですか?だと、そもそも僕に言う必要はない。
そんなことを考えていると、清水先輩とのトーク画面にメッセージが入る。
――良助、放課後ちょっと時間あるか?
◇
放課後。「中庭で待つ」という果し合いのようなメッセージを貰ったのでそこへ向かうと、清水先輩と桜庭先輩が待っていた。
「すまないな、良助。急に呼び出して」
「お疲れ様、産賀くん。たぶん何で呼ばれたかわかってるとは思うけど……」
「はい。桜庭先輩、生徒会選挙に出るんですね」
「ええ。副会長の座を奪って学園を支配するつもり」
「なんですかその野心は。というかそれなら会長の方がいいのでは……?」
「冗談よ。本当は選挙の時に出馬してるのを見て驚かせるつもりだったけど、まさか産賀くんのご友人が受付の日だったとはね」
「ということは、松永が色々喋ったんですね……」
「夢愛。松永くんだって」
「そうだそうだ。松までは出かかってたんだが……」
その言いようからして清水先輩は松永の名前を忘れていたようだ。そんなに難しい名前でもないような気もするけど、清水先輩なら忘れても仕方ない気がする。松永には悪いけど。
「でも、何で僕だけ驚かせようと……」
「他の知り合いだと選挙に出るのが隠しづらかったからかな。唐突な思い付きだと思う」
「な、なるほど……」
「ちなみに発案者は夢愛の方よ」
「えっ!?」
「何となく面白いかと思ってな」
清水先輩は僕と一対一の時はそんなにだけど、桜庭先輩がいると悪戯心が働くようだ。
「ちょっとは驚いてくれた?」
「はい。松永がそれっぽく煽ってたから余計に」
「ふふっ。いい友達ね。それじゃあ私と夢愛はこれから部活へ行くから。これで金曜の本番で大すべりしたら笑ってちょうだい」
「わ、笑いませんよ。応援してます」
「あらそう? じゃあ、期待しといてと言っておくわ」
「またな、良助」
メッセージで済むところをわざわざ会って伝えてくれるのは僕の反応が見たかったからなのだろう。すっかり二人からいじられるようになってしまったけど、悪い気はしない。
桜庭先輩の夢は思ったよりも直近の話で、結構大きな野望だった。いや、本当に学園を支配しようとは思ってないだろうけど……実際のところはどういう目的があるんだろう。選挙のスピーチがちょっとだけ楽しみになった。
先週の水曜日から時期生徒会の立候補者の募集が始まっており、実は選挙管理委員会になっていた(僕はすっかり忘れたいたが日記には書いていた)松永はこの日が当番になっていたのだ。
そんな松永が昼休みの当番を終えて授業が始まる前に帰って来ると、何故か自分の席ではなく僕の席へやって来た。
「大変だ! りょーちゃん!」
「どうしたんだ? 宿題忘れたなら……」
「違うよ! さっき会場に清水さんが来たんだよ!」
「へー……ええっ!?」
「まぁ、立候補者ってわけじゃないんだけど」
松永はそう返すけど、それでも十分驚くことだ。なぜなら清水先輩が付き添いで来るということは立候補者になる方も思い当たる。
すると、近くの席の野島さんが清水先輩の名前に反応したのか、僕らに話しかけてくる。
「あっ、桜庭先輩、今日立候補したんだ」
「野島ちゃん知ってたの? 言っといてよー」
「いや、松永くんは関わりないと思ってたから……それより産賀くんは知らなかったんだ? 清水先輩からも教えられてない?」
「うん。でも、それっぽいことは言われてたような気がする」
「ほー……最近もどっちかとは会ってたんだ?」
しまった。今の野島さんの誘導尋問だった。ちょっと知らないと思われてるのが嫌だからって見栄を張るんじゃなかった。
「じゅ、授業始まるから!」
その場は何とか誤魔化した僕はスマホを取り出して清水先輩へメッセージを……どう送ろうか? むしろ送るべきは桜庭先輩なのか? 立候補しただけならおめでとうございますは何か違うし、どうして言ってくれなかったんですか?だと、そもそも僕に言う必要はない。
そんなことを考えていると、清水先輩とのトーク画面にメッセージが入る。
――良助、放課後ちょっと時間あるか?
◇
放課後。「中庭で待つ」という果し合いのようなメッセージを貰ったのでそこへ向かうと、清水先輩と桜庭先輩が待っていた。
「すまないな、良助。急に呼び出して」
「お疲れ様、産賀くん。たぶん何で呼ばれたかわかってるとは思うけど……」
「はい。桜庭先輩、生徒会選挙に出るんですね」
「ええ。副会長の座を奪って学園を支配するつもり」
「なんですかその野心は。というかそれなら会長の方がいいのでは……?」
「冗談よ。本当は選挙の時に出馬してるのを見て驚かせるつもりだったけど、まさか産賀くんのご友人が受付の日だったとはね」
「ということは、松永が色々喋ったんですね……」
「夢愛。松永くんだって」
「そうだそうだ。松までは出かかってたんだが……」
その言いようからして清水先輩は松永の名前を忘れていたようだ。そんなに難しい名前でもないような気もするけど、清水先輩なら忘れても仕方ない気がする。松永には悪いけど。
「でも、何で僕だけ驚かせようと……」
「他の知り合いだと選挙に出るのが隠しづらかったからかな。唐突な思い付きだと思う」
「な、なるほど……」
「ちなみに発案者は夢愛の方よ」
「えっ!?」
「何となく面白いかと思ってな」
清水先輩は僕と一対一の時はそんなにだけど、桜庭先輩がいると悪戯心が働くようだ。
「ちょっとは驚いてくれた?」
「はい。松永がそれっぽく煽ってたから余計に」
「ふふっ。いい友達ね。それじゃあ私と夢愛はこれから部活へ行くから。これで金曜の本番で大すべりしたら笑ってちょうだい」
「わ、笑いませんよ。応援してます」
「あらそう? じゃあ、期待しといてと言っておくわ」
「またな、良助」
メッセージで済むところをわざわざ会って伝えてくれるのは僕の反応が見たかったからなのだろう。すっかり二人からいじられるようになってしまったけど、悪い気はしない。
桜庭先輩の夢は思ったよりも直近の話で、結構大きな野望だった。いや、本当に学園を支配しようとは思ってないだろうけど……実際のところはどういう目的があるんだろう。選挙のスピーチがちょっとだけ楽しみになった。
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