上 下
178 / 942
1年生2学期

9月28日(火)曇り アイデア不足と暗黙のお決まり

しおりを挟む
 今週の学校始まり。今日の7時間目のHRは文化祭でやるクラス単位の出し物について話し合うことになった。うちの高校では部活動の方が優先されるようで、基本的には文化祭実行委員がこの企画を進めて行くらしい。つまり、僕はあまり関わらないことになる。
 それでも一応はクラスのことだからミーティングに耳を傾ける。食品系の屋台は部活の方が取り仕切るようになっているから、クラス単位でやれるのはちょっとしたアミューズメントや面白ネタ系の出し物に限られてしまう。これを3年生以外の12クラスがそれぞれやると考えると、定番の出し物は被ってしまいそうだ。

 そんな7時間目を終えた後、今度は文芸部のミーティングでも文化祭についての話が始まる。今週は部室の内装や設置するコーナーをどうしていくか決めて、それに合わせた装飾を作る流れになっていた。

「何かやりたい企画ある人ー……って、そんな簡単には出てこないかー とりあえず今日はこれで解散しますが、アイデアは募集してまーす」

 森本先輩はそう言うけど、その点ではあまり役立てそうにない。中学の頃は文化祭ではなく文化部の成果発表の日という形で展示されるだけだった(こういうのも文化祭と呼ぶのだろうか)ので、何気に文化祭らしい文化祭を体験するのは初めてだった。だから、文芸部としての企画が何をやるかは創作上の知識しかない。

 とりあえずいつも通り部室に残った僕と岸本さんは、どういうことを考えればいいか聞くために話し合いをしている森本先輩と水原先輩のところへ向かう。

「おー ウーブ君に岸本ちゃん。何かアイデアある感じー?」

「すみません、全然思いついてないです……」

「わたしも……」

「あー、気にしないで。募集はしたけど、毎年やることは固定化されてるようなものだしー」

「そうなんですか?」

「今回の冊子と短歌、過去作の閲覧スペースの設置でしょー それに短歌の展示とお客さんも短歌を作ってみようってコーナー。これは豊田ちゃんが毎年推してるから絶対やるんだよねー あとはおすすめの本の紹介とかかなー」

 最後の項目に岸本さんは少し反応する。確かに本の紹介なら岸本さんは大活躍することだろう。

「文芸部は飲食店的なことはしないんですよね?」

「まー、あっても無料でお茶出すくらいかなー 飲食は運動部がやる方が多いしー」

「産賀と岸本はうちの文化祭に来たことないのか?」

 水原先輩の問いかけに僕と岸本さんは頷く。通うことになるかもしれない高校の文化祭なら顔を出しても良かったのかもしれないけど、中学の頃は何となく高校へ行くハードルが高かった。

「そうか。飲食系は部活ごとに何を出すのかもだいたい固定化されてて、そこに新しく何か追加しようとすると結構難しいんだ。去年は……どこか二つで新しくやったタピオカが被ったんだったか?」

「バドミントン部とハンドボール部だっけー? あの時は流行ってたからそんなに困ったことにはならなかったみたいだけどー」

「へー そういう事故も起こっちゃうんですね」

 そう考えると、文化部としてできることはほとんど被らないだろうから大人しく本来の出し物をしておいた方が良いのかもしれない。飲食系の費用がどう捻出されるのかは知らないけど、変に被せて売れ残ったりしたら大変に違いない。

「そういえば1年生は何の出し物するのー? 今日決めてたんでしょー?」

「僕のクラスはヨーヨー釣りみたいな軽いアミューズメントかコスプレ店が有力候補になってました」

「そうなの? わたしのクラスも屋台の遊び的なものを優先したい意見に出てたわ」

「そうなんだ……こういう場合ってどうなるんですかね?」

「実行委員になったことないからわかんないなー 汐留は知ってる?」

「聞いた話だから定かじゃないが、去年被った時はじゃんけんで決めたらしい。それでも学年内の取り決めだと1年2年で被ったりする」

「あー 去年も1年と2年のお化け屋敷がそれぞれあったもんねー」

 それを聞いてしまうと文化祭実行委員はクラス内だけじゃなく、他のクラスや学年と意見をすり合わせた上で準備を進めなければならないからかなり大変そうだ。文化祭にやる気がある人達が集まっているはずだけど、これで希望と違うものをやらされることになると、僕ならモチベーションが少し下がってしまう。

「色々準備が整ったら当日のシフトも決めるから、二人も色々見学するといいよー」

 森本先輩の言葉に僕と岸本さんはお礼を返す。文化祭の準備ともなると忙しくなるのかと思ったけど、文芸部は変わらない空気で進めて行くからある意味安心だ。

 その後も文化祭について適度に雑談しながら文芸部としてのアイデア出しで今日は終わっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

フルコンタクト!!

みそしょうゆ
青春
極真空手。それは、素早い一撃で攻撃する寸止めとは違い、決められた時間内に直接打撃によって相手にダメージを与え、基本的に頭部による蹴り技が当たって「技あり」。それが2個で「一本勝ち」となる競技である。 そんな極真空手の『型』競技でかつて天才小学生と呼ばれた佐々木心真(ささきしんま)はこの春高校生となる。好きなことは勿論空手………ではなく!空手からはちょっと距離をおいて、小説アプリの投稿者になっていた。心真と幼い頃から空手を一緒にしている親友は中学後半で空手の才能が花開き、全国大会2連覇中。週一回来るか来ないかのペースで道場に通うenjoy勢の心真と言わばガチ勢の親友。2人の物語は、1人の空手ファンの女の子が現れる時、大きく揺れ動く…!

劇中劇とエンドロール

nishina
青春
尾根暁は高校の演劇部に所属しながら、将来は女優を目指している。しかしオーディションは落選ばかり、家族には無駄な夢は諦めろと言われて燻る毎日を送っていた。 そんなある日、小説を書くのが趣味のクラスメイトの少年、加百葵と親しくなり演劇部のシナリオを依頼することとなる。 しかし、ひょんなことから練習中に演劇部員達は葵の書いたシナリオそっくりの世界に迷い込んでしまう。この世界が本当に葵のシナリオ通りなら、悪女のお姫様役の花色光と、彼女に処刑される魔女役である黒神梓はこの世界で死んでしまうことになる。暁と部員達は彼女らを助け、元の世界に戻る為に奮闘する。 小説家になろうでも連載中です。進みはあちらの方が早いですが、近い内に同じ進行になる予定です。

期末テストで一番になれなかったら死ぬ

村井なお
青春
努力の意味を見失った少女。ひたむきに生きる病弱な少年。 二人はその言葉に一生懸命だった。 鶴崎舞夕は高校二年生である。 昔の彼女は成績優秀だった。 鹿島怜央は高校二年生である。 彼は成績優秀である。 夏も近いある日、舞夕は鹿島と出会う。 そして彼女は彼に惹かれていく。 彼の口にした一言が、どうしても忘れられなくて。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

僕が僕を許せる日まで

星夜るな
青春
当たり前の日々が突然崩れたあの日…。 何度もあの日、自分がいたら、早く帰れていたら…なんていうことを考える毎日。 僕は、あの日々を壊した犯人を許さない。 自分を許せない僕が新しい日々の中で変わっていく日常を描いた作品です。

意味がわかると怖い話

井見虎和
ホラー
意味がわかると怖い話 答えは下の方にあります。 あくまで私が考えた答えで、別の考え方があれば感想でどうぞ。

水風船

雪原歌乃
青春
高校最後の夏休み、親友に誘われて夏祭りへ繰り出した私。 けれど、向かった先で待っていたのは、親友だけではなく、親友の彼氏とクラスメイトの男子だった。

処理中です...