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1年生2学期

9月28日(火)曇り アイデア不足と暗黙のお決まり

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 今週の学校始まり。今日の7時間目のHRは文化祭でやるクラス単位の出し物について話し合うことになった。うちの高校では部活動の方が優先されるようで、基本的には文化祭実行委員がこの企画を進めて行くらしい。つまり、僕はあまり関わらないことになる。
 それでも一応はクラスのことだからミーティングに耳を傾ける。食品系の屋台は部活の方が取り仕切るようになっているから、クラス単位でやれるのはちょっとしたアミューズメントや面白ネタ系の出し物に限られてしまう。これを3年生以外の12クラスがそれぞれやると考えると、定番の出し物は被ってしまいそうだ。

 そんな7時間目を終えた後、今度は文芸部のミーティングでも文化祭についての話が始まる。今週は部室の内装や設置するコーナーをどうしていくか決めて、それに合わせた装飾を作る流れになっていた。

「何かやりたい企画ある人ー……って、そんな簡単には出てこないかー とりあえず今日はこれで解散しますが、アイデアは募集してまーす」

 森本先輩はそう言うけど、その点ではあまり役立てそうにない。中学の頃は文化祭ではなく文化部の成果発表の日という形で展示されるだけだった(こういうのも文化祭と呼ぶのだろうか)ので、何気に文化祭らしい文化祭を体験するのは初めてだった。だから、文芸部としての企画が何をやるかは創作上の知識しかない。

 とりあえずいつも通り部室に残った僕と岸本さんは、どういうことを考えればいいか聞くために話し合いをしている森本先輩と水原先輩のところへ向かう。

「おー ウーブ君に岸本ちゃん。何かアイデアある感じー?」

「すみません、全然思いついてないです……」

「わたしも……」

「あー、気にしないで。募集はしたけど、毎年やることは固定化されてるようなものだしー」

「そうなんですか?」

「今回の冊子と短歌、過去作の閲覧スペースの設置でしょー それに短歌の展示とお客さんも短歌を作ってみようってコーナー。これは豊田ちゃんが毎年推してるから絶対やるんだよねー あとはおすすめの本の紹介とかかなー」

 最後の項目に岸本さんは少し反応する。確かに本の紹介なら岸本さんは大活躍することだろう。

「文芸部は飲食店的なことはしないんですよね?」

「まー、あっても無料でお茶出すくらいかなー 飲食は運動部がやる方が多いしー」

「産賀と岸本はうちの文化祭に来たことないのか?」

 水原先輩の問いかけに僕と岸本さんは頷く。通うことになるかもしれない高校の文化祭なら顔を出しても良かったのかもしれないけど、中学の頃は何となく高校へ行くハードルが高かった。

「そうか。飲食系は部活ごとに何を出すのかもだいたい固定化されてて、そこに新しく何か追加しようとすると結構難しいんだ。去年は……どこか二つで新しくやったタピオカが被ったんだったか?」

「バドミントン部とハンドボール部だっけー? あの時は流行ってたからそんなに困ったことにはならなかったみたいだけどー」

「へー そういう事故も起こっちゃうんですね」

 そう考えると、文化部としてできることはほとんど被らないだろうから大人しく本来の出し物をしておいた方が良いのかもしれない。飲食系の費用がどう捻出されるのかは知らないけど、変に被せて売れ残ったりしたら大変に違いない。

「そういえば1年生は何の出し物するのー? 今日決めてたんでしょー?」

「僕のクラスはヨーヨー釣りみたいな軽いアミューズメントかコスプレ店が有力候補になってました」

「そうなの? わたしのクラスも屋台の遊び的なものを優先したい意見に出てたわ」

「そうなんだ……こういう場合ってどうなるんですかね?」

「実行委員になったことないからわかんないなー 汐留は知ってる?」

「聞いた話だから定かじゃないが、去年被った時はじゃんけんで決めたらしい。それでも学年内の取り決めだと1年2年で被ったりする」

「あー 去年も1年と2年のお化け屋敷がそれぞれあったもんねー」

 それを聞いてしまうと文化祭実行委員はクラス内だけじゃなく、他のクラスや学年と意見をすり合わせた上で準備を進めなければならないからかなり大変そうだ。文化祭にやる気がある人達が集まっているはずだけど、これで希望と違うものをやらされることになると、僕ならモチベーションが少し下がってしまう。

「色々準備が整ったら当日のシフトも決めるから、二人も色々見学するといいよー」

 森本先輩の言葉に僕と岸本さんはお礼を返す。文化祭の準備ともなると忙しくなるのかと思ったけど、文芸部は変わらない空気で進めて行くからある意味安心だ。

 その後も文化祭について適度に雑談しながら文芸部としてのアイデア出しで今日は終わっていった。
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