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1年生2学期
9月21日(火)晴れのち曇り 清水夢愛の夢探し
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体育祭が終わったのも束の間、約2週間後には文化祭がやって来る。文芸部のミーティングでは創作物の提出は金曜日の放課後ギリギリまで待つことや来週からは文化祭の展示の準備を始めることが伝えられた。僕の創作物についてはペンネームも何とか決まったのでもう1日ある祝日を使えば金曜日には間に合う予定だ。
それから部活を終えた僕が自転車に跨って校門をくぐろうとした時だった。
「良助、今から帰りか?」
ちょうど校門の出口付近に立っていた清水先輩と出会う。部活の後に遭遇するのは珍しい。夏休み中は連絡を入れて会っていたものの学校で遭遇する時は未だに唐突だ。
「はい、文芸部の帰りです。清水先輩も部活ですか?」
「私は……ちょっと別の用事だ」
そう言った清水先輩はいつもより少し元気がない感じがした。てっきり茶道部での活動があったのかと思ったけど、それ以外の用事とはなんなのだろうか。
「良かったら途中まで一緒に帰りませんか? そんなに距離はありませんけど」
「ああ……ちょうどいい。散歩がてら少し良助の方まで歩くよ」
「それなら行きましょう」
自転車から降りた僕と清水先輩は歩き始める。用事の内容はともかく元気がないのは気になるので何か話してくれるといい。そう思って今日は自然に誘えた。
「…………」
「…………」
でも、その後の会話は思ったように弾まない。どんどんと清水先輩の家から遠ざかって行くけど、清水先輩はそれを気にすることないというか、ぼんやりしながら歩き続ける。
「……何かありました?」
暫く経って我慢できなくなった僕はそう聞いてしまった。清水先輩が話したくないのに聞いてしまうのは良くないことだけど、このままだと無限に歩いて行ってしまいそうだからそう言わざるを得なかった。
すると、清水先輩はようやくこの場に意識を戻したように話し出す。
「あったにはあったんだが……いや、むしろなかったことがわかったというか……」
「複雑な話ですね……」
「ああ、すまん。難しく言うつもりはなかったんだ。ところで良助は夢ってあるか?」
「夢……将来のってことですか?」
「うーん……別に将来じゃなくてもいい。何となく漠然とした夢でも」
そう言われた僕は考え始めるけど……考え始める時点でこの質問の回答者に向いていない。たとえ将来の夢と言われたとしても明確にこうなりたいというものは今の僕にはなかった。ただ、漠然とした夢で言うなら学生のテンプレートを返すことができる。
「いい大学に入る……ですかね」
「そうか。進学を目指してるんだな」
「うちは一応進学校で……って考え方で大学を目指すのはあまり良くないとは思ってますけど」
「いいじゃないか。何となくでもそれが決まっているなら」
「もしかして、清水先輩が考えてるのって……」
「ははっ、気付いたか。そう、私の夢って何だろうなって考えてたんだ」
清水先輩は軽く笑うけど、その悩みはかなり大変な悩みだ。高校2年生は学生生活の中で一番盛り上がる時期であるとどこかで聞いたことがあるけど、その先に見え始める将来を考え始めなければならない時期でもある。
「まぁ、私の名前には夢と愛が詰まっているが……これは別に鉄板ネタじゃないぞ?」
「何も言ってません」
「むぅ。ちょっと笑ってもいいんだぞ?」
「どっちなんですか……それより、夢ってことは今日の用事は先生との進路相談だったんですか?」
「いや、用事はそれじゃない。ただ、小織を見てそう思ったんだ」
「桜庭先輩を?」
「ああ。小織については……詳しく話すのはまた今度にするが、ともかく最近の小織の行動や話を見聞いていると、私は将来や夢について何も考えていないと思った。この高校に入学したのも大学に行きたいとかではなく、単に学力的にここに行くべきだと言われたからだしな」
それについては僕も同じようなことを中学の担任から言われた。工業高校や専門学校に行かないのであればとりあえずは自分の実力に合った高校に行くべきだと。僕もそれが当たり前のことだと思っていたから言われた通りに進学しただけだ。
「別に焦っているわけじゃないが、何がしたいんだろうと考えているうちにこんな時間になったわけだ」
「なるほど……でも、それで言ったら僕も清水先輩と変わりないです。正直、さっきのは答えに困ったからそれらしいことを言っただけなので」
「そうなのか? ……それならちょうどいいな」
「えっ? 何がですか?」
「良助には夢のことを同じ立場で話せるってことだろう?」
「そう……なりますかね?」
「ああ。小織は違う立場になるからな」
つまり桜庭先輩は将来ないし直近に何かしら目指す夢があるのだろう。話が終始清水先輩のペースだから少し付いて行けていない気もするけど、役に立てるようなら良いことなはずだ。
「よし。なんかすっきりしたからそろそろ帰るよ」
「は、はい。すみません、結構こっち側へ進むまで声かけなくて」
「良助が謝ることはないだろう。むしろ付き合わせて悪かったな」
「いえいえ、それじゃあ……」
「ああ。また、今度」
根本的には解決していないけど、清水先輩は満足そうにして帰って行った。
将来の夢について清水先輩が考え始めたタイミングは決して遅くはないと思う。ただ、今までの清水先輩からすると、この将来の夢というテーマも一筋縄ではいかないのかもしれない。
それから部活を終えた僕が自転車に跨って校門をくぐろうとした時だった。
「良助、今から帰りか?」
ちょうど校門の出口付近に立っていた清水先輩と出会う。部活の後に遭遇するのは珍しい。夏休み中は連絡を入れて会っていたものの学校で遭遇する時は未だに唐突だ。
「はい、文芸部の帰りです。清水先輩も部活ですか?」
「私は……ちょっと別の用事だ」
そう言った清水先輩はいつもより少し元気がない感じがした。てっきり茶道部での活動があったのかと思ったけど、それ以外の用事とはなんなのだろうか。
「良かったら途中まで一緒に帰りませんか? そんなに距離はありませんけど」
「ああ……ちょうどいい。散歩がてら少し良助の方まで歩くよ」
「それなら行きましょう」
自転車から降りた僕と清水先輩は歩き始める。用事の内容はともかく元気がないのは気になるので何か話してくれるといい。そう思って今日は自然に誘えた。
「…………」
「…………」
でも、その後の会話は思ったように弾まない。どんどんと清水先輩の家から遠ざかって行くけど、清水先輩はそれを気にすることないというか、ぼんやりしながら歩き続ける。
「……何かありました?」
暫く経って我慢できなくなった僕はそう聞いてしまった。清水先輩が話したくないのに聞いてしまうのは良くないことだけど、このままだと無限に歩いて行ってしまいそうだからそう言わざるを得なかった。
すると、清水先輩はようやくこの場に意識を戻したように話し出す。
「あったにはあったんだが……いや、むしろなかったことがわかったというか……」
「複雑な話ですね……」
「ああ、すまん。難しく言うつもりはなかったんだ。ところで良助は夢ってあるか?」
「夢……将来のってことですか?」
「うーん……別に将来じゃなくてもいい。何となく漠然とした夢でも」
そう言われた僕は考え始めるけど……考え始める時点でこの質問の回答者に向いていない。たとえ将来の夢と言われたとしても明確にこうなりたいというものは今の僕にはなかった。ただ、漠然とした夢で言うなら学生のテンプレートを返すことができる。
「いい大学に入る……ですかね」
「そうか。進学を目指してるんだな」
「うちは一応進学校で……って考え方で大学を目指すのはあまり良くないとは思ってますけど」
「いいじゃないか。何となくでもそれが決まっているなら」
「もしかして、清水先輩が考えてるのって……」
「ははっ、気付いたか。そう、私の夢って何だろうなって考えてたんだ」
清水先輩は軽く笑うけど、その悩みはかなり大変な悩みだ。高校2年生は学生生活の中で一番盛り上がる時期であるとどこかで聞いたことがあるけど、その先に見え始める将来を考え始めなければならない時期でもある。
「まぁ、私の名前には夢と愛が詰まっているが……これは別に鉄板ネタじゃないぞ?」
「何も言ってません」
「むぅ。ちょっと笑ってもいいんだぞ?」
「どっちなんですか……それより、夢ってことは今日の用事は先生との進路相談だったんですか?」
「いや、用事はそれじゃない。ただ、小織を見てそう思ったんだ」
「桜庭先輩を?」
「ああ。小織については……詳しく話すのはまた今度にするが、ともかく最近の小織の行動や話を見聞いていると、私は将来や夢について何も考えていないと思った。この高校に入学したのも大学に行きたいとかではなく、単に学力的にここに行くべきだと言われたからだしな」
それについては僕も同じようなことを中学の担任から言われた。工業高校や専門学校に行かないのであればとりあえずは自分の実力に合った高校に行くべきだと。僕もそれが当たり前のことだと思っていたから言われた通りに進学しただけだ。
「別に焦っているわけじゃないが、何がしたいんだろうと考えているうちにこんな時間になったわけだ」
「なるほど……でも、それで言ったら僕も清水先輩と変わりないです。正直、さっきのは答えに困ったからそれらしいことを言っただけなので」
「そうなのか? ……それならちょうどいいな」
「えっ? 何がですか?」
「良助には夢のことを同じ立場で話せるってことだろう?」
「そう……なりますかね?」
「ああ。小織は違う立場になるからな」
つまり桜庭先輩は将来ないし直近に何かしら目指す夢があるのだろう。話が終始清水先輩のペースだから少し付いて行けていない気もするけど、役に立てるようなら良いことなはずだ。
「よし。なんかすっきりしたからそろそろ帰るよ」
「は、はい。すみません、結構こっち側へ進むまで声かけなくて」
「良助が謝ることはないだろう。むしろ付き合わせて悪かったな」
「いえいえ、それじゃあ……」
「ああ。また、今度」
根本的には解決していないけど、清水先輩は満足そうにして帰って行った。
将来の夢について清水先輩が考え始めたタイミングは決して遅くはないと思う。ただ、今までの清水先輩からすると、この将来の夢というテーマも一筋縄ではいかないのかもしれない。
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