165 / 942
1年生2学期
9月15日(水)曇り 誰がための踊りか
しおりを挟む
体育祭3日前。しかし、台風の影響から天気によっては予定通りにできるかわからないと先生からアナウンスされる。雨でも降ったらなんて話はしたけど、やっぱり延期になる方が面倒だ。
それでも練習はやっておかなければならないもので、今日から明後日までは午前中を使って総仕上げをしていく。とはいっても今日の3時間目はダンスを履修している人や応援団に立候補した人が練習する時間になっていて、僕や大倉くんを始めとするそれに当てはまらない生徒は校内の清掃作業という名の暇を持て余していた。
それから迎えた4時間目。とうとうフォークダンス練習をする時がやってきた。体育委員が説明してくれた概要を聞くと、5つの円を作りながらその中で男女が組んで、一定のリズムで男女それぞれが交代いくらしい。つまりは常に同じ組み合わせて踊るわけでないということだ。
そして、実際の踊り方を見ていくと、昨日藤原先輩が言った通り、それほど心配するような難しさではなさそうだった。手を繋ぎながら少しステップを踏んだり、位置を入れ替えたりしながら踊って、次の人に移る。基本はこれを繰り返していく。
「て、手を繋ぐのか……」
「どうしたの?」
「き、緊張しない……?」
「そんなことは……」
大倉くん、それは言わないで欲しかった。僕は自分のダンスのことばかり頭が行っていたけど、そういえば女子と手を繋いでダンスするなんて相当ハードルが高いことを要求されている。そして、一度意識すると、僕は緊張し始めてしまった。
いや、それよりも考えるべきことは……
「なに? うぶクン」
体育祭の並びは出席番号に戻っているから僕の隣は大山さんになる。それは……本田くんに対して非常に申し訳ない。ダンス中に組み合わせが変わるにしても後ろの方にいる本田くんが大山さんにたどり着けるかわからないから余計に。
「その……フォークダンスあるって知ってた?」
「うん。先輩から聞いてた。高校だとこういうのもやるんだねー」
「そ、そうだね……」
しかし、なってしまったものは仕方ない。これで露骨に本田くんと位置を替わるのも良くないだろう。そもそも僕は気にし過ぎなんだ。
説明が終わると、実際にフォークダンスの陣形が組まれていく。全校生徒は約600人がグラウンドに広がると迫力があるようにも感じるけど、実際に来賓の人が見る時はどう見えるのだろうか。人が多過ぎてよくわからないような気もする。
(あれ……?)
僕がそんなくだらないことを考えながら進行していると、全然見覚えがない女子と向かい合っていた。一瞬だけ焦ったけど、周りを見てすぐに気付いた。このフォークダンスは別にクラスの男女で組むわけじゃなかったのだ。先に女子が円を作った後、僕ら男子が内側に置かれたけど、適当に配置しているから全く別のクラスのところへ来ていた。
(まぁ……余計なこと考えずに済むからいいか)
そう思って僕は目の前の女子に手を差し出す。すると、その女子はこちらを見ることなく、少し離れた位置にいる隣の女子方へ寄って話し始めた。
(もしかしなくても……みんなまともに踊るわけじゃないのか)
もう一度周りを見渡すと、練習が始まろうとしているのに全体的にやる気がある感じではない。そう、僕は勘違いしていた。体育祭のフォークダンスだからといって、よく知らない男子と組まされるのを良しとするわけではないのだ。もちろん、男子側からしてもそれはあるのだろうけど、僕はそんなことをまるで考えてなかった。
音楽が流れ始めてもその状況は変わらず、喋る人もいれば列が乱れて適当に踊っている人もいて、僕は一人で棒立ちになってしまう。隣の大倉くんと目を合わせてもどうしたらいいやらといった感じで何となくタイミングを合わせながら位置を移動していく。
それを4回ほど繰り返した時だ。
「産賀くん……?」
僕の目の前に驚いた様子の岸本さんが突然現れた。いや、順番が回って来ただけなんだけど、僕はそれ以前の女子が岸本さんのクラスだと知らなかった。
「この列って1組の女子だったんだ」
「うん。何だかごちゃごちゃになっているけれど……」
「しょうがないよ。まだ練習だし……って僕は練習すら全然できてないから駄目か」
「わたしも……できてない」
「えっ? そうなの?」
「いきなり手を繋いで踊るのは……勇気がいるから」
ごもっともな意見である。ここに参加している男女全員が選り好みしているわけじゃなく、単に恥ずかしさもあって踊れないことも十分考えられる。そう考えると、フォークダンスをやる意味っていったい……
「でも……産賀くんなら」
「岸本さん?」
「練習……付き合って貰える?」
そう言った岸本さんに手を差し出されてしまったので、僕も手を伸ばす。
「産賀くん……ここからどうやるか覚えてる……?」
「え、えっと……まずは右へ3回ステップを踏んで……」
お互いにぎこちない動きながらも先ほど体育委員から教わった順番通りに踊っていく。その時間は1分程度だけど、今までにないくらい近くに岸本さんがいた。
それから踊りが1巡すると、僕と岸本さんは手を離す。
「ありがとう、産賀くん」
「いやいや、こちらこそ。おかげでちょっと練習できたよ」
「…………」
「…………」
「……つ、次に移動するわ」
「う、うん……」
結局、その日まともに踊れたのは岸本さんとの一回だけだった。藤原先輩が適当に踊ると言ったのは今日みたいなことになるからだとわかったけど……それはそれとして妙な気持ちが残った日だ。
それでも練習はやっておかなければならないもので、今日から明後日までは午前中を使って総仕上げをしていく。とはいっても今日の3時間目はダンスを履修している人や応援団に立候補した人が練習する時間になっていて、僕や大倉くんを始めとするそれに当てはまらない生徒は校内の清掃作業という名の暇を持て余していた。
それから迎えた4時間目。とうとうフォークダンス練習をする時がやってきた。体育委員が説明してくれた概要を聞くと、5つの円を作りながらその中で男女が組んで、一定のリズムで男女それぞれが交代いくらしい。つまりは常に同じ組み合わせて踊るわけでないということだ。
そして、実際の踊り方を見ていくと、昨日藤原先輩が言った通り、それほど心配するような難しさではなさそうだった。手を繋ぎながら少しステップを踏んだり、位置を入れ替えたりしながら踊って、次の人に移る。基本はこれを繰り返していく。
「て、手を繋ぐのか……」
「どうしたの?」
「き、緊張しない……?」
「そんなことは……」
大倉くん、それは言わないで欲しかった。僕は自分のダンスのことばかり頭が行っていたけど、そういえば女子と手を繋いでダンスするなんて相当ハードルが高いことを要求されている。そして、一度意識すると、僕は緊張し始めてしまった。
いや、それよりも考えるべきことは……
「なに? うぶクン」
体育祭の並びは出席番号に戻っているから僕の隣は大山さんになる。それは……本田くんに対して非常に申し訳ない。ダンス中に組み合わせが変わるにしても後ろの方にいる本田くんが大山さんにたどり着けるかわからないから余計に。
「その……フォークダンスあるって知ってた?」
「うん。先輩から聞いてた。高校だとこういうのもやるんだねー」
「そ、そうだね……」
しかし、なってしまったものは仕方ない。これで露骨に本田くんと位置を替わるのも良くないだろう。そもそも僕は気にし過ぎなんだ。
説明が終わると、実際にフォークダンスの陣形が組まれていく。全校生徒は約600人がグラウンドに広がると迫力があるようにも感じるけど、実際に来賓の人が見る時はどう見えるのだろうか。人が多過ぎてよくわからないような気もする。
(あれ……?)
僕がそんなくだらないことを考えながら進行していると、全然見覚えがない女子と向かい合っていた。一瞬だけ焦ったけど、周りを見てすぐに気付いた。このフォークダンスは別にクラスの男女で組むわけじゃなかったのだ。先に女子が円を作った後、僕ら男子が内側に置かれたけど、適当に配置しているから全く別のクラスのところへ来ていた。
(まぁ……余計なこと考えずに済むからいいか)
そう思って僕は目の前の女子に手を差し出す。すると、その女子はこちらを見ることなく、少し離れた位置にいる隣の女子方へ寄って話し始めた。
(もしかしなくても……みんなまともに踊るわけじゃないのか)
もう一度周りを見渡すと、練習が始まろうとしているのに全体的にやる気がある感じではない。そう、僕は勘違いしていた。体育祭のフォークダンスだからといって、よく知らない男子と組まされるのを良しとするわけではないのだ。もちろん、男子側からしてもそれはあるのだろうけど、僕はそんなことをまるで考えてなかった。
音楽が流れ始めてもその状況は変わらず、喋る人もいれば列が乱れて適当に踊っている人もいて、僕は一人で棒立ちになってしまう。隣の大倉くんと目を合わせてもどうしたらいいやらといった感じで何となくタイミングを合わせながら位置を移動していく。
それを4回ほど繰り返した時だ。
「産賀くん……?」
僕の目の前に驚いた様子の岸本さんが突然現れた。いや、順番が回って来ただけなんだけど、僕はそれ以前の女子が岸本さんのクラスだと知らなかった。
「この列って1組の女子だったんだ」
「うん。何だかごちゃごちゃになっているけれど……」
「しょうがないよ。まだ練習だし……って僕は練習すら全然できてないから駄目か」
「わたしも……できてない」
「えっ? そうなの?」
「いきなり手を繋いで踊るのは……勇気がいるから」
ごもっともな意見である。ここに参加している男女全員が選り好みしているわけじゃなく、単に恥ずかしさもあって踊れないことも十分考えられる。そう考えると、フォークダンスをやる意味っていったい……
「でも……産賀くんなら」
「岸本さん?」
「練習……付き合って貰える?」
そう言った岸本さんに手を差し出されてしまったので、僕も手を伸ばす。
「産賀くん……ここからどうやるか覚えてる……?」
「え、えっと……まずは右へ3回ステップを踏んで……」
お互いにぎこちない動きながらも先ほど体育委員から教わった順番通りに踊っていく。その時間は1分程度だけど、今までにないくらい近くに岸本さんがいた。
それから踊りが1巡すると、僕と岸本さんは手を離す。
「ありがとう、産賀くん」
「いやいや、こちらこそ。おかげでちょっと練習できたよ」
「…………」
「…………」
「……つ、次に移動するわ」
「う、うん……」
結局、その日まともに踊れたのは岸本さんとの一回だけだった。藤原先輩が適当に踊ると言ったのは今日みたいなことになるからだとわかったけど……それはそれとして妙な気持ちが残った日だ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
へたくそ
MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。
チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。
後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。
3人の視点から物語は進行していきます。
チームメイトたちとの友情と衝突。
それぞれの想い。
主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。
この作品は
https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています)
小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS
にも掲載しています。
CROWNの絆
須藤慎弥
青春
【注意】
※ 当作はBLジャンルの既存作『必然ラヴァーズ』、『狂愛サイリューム』のスピンオフ作となります
※ 今作に限ってはBL要素ではなく、過去の回想や仲間の絆をメインに描いているためジャンルタグを「青春」にしております
※ 狂愛サイリュームのはじまりにあります、聖南の副総長時代のエピソードを読了してからの閲覧を強くオススメいたします
※ 女性が出てきますのでアレルギーをお持ちの方はご注意を
※ 別サイトにて会員限定で連載していたものを少しだけ加筆修正し、2年温めたのでついに公開です
以上、ご理解くださいませ。
〜あらすじとは言えないもの〜
今作は、唐突に思い立って「書きたい!!」となったCROWNの過去編(アキラバージョン)となります。
全編アキラの一人称でお届けします。
必然ラヴァーズ、狂愛サイリュームを読んでくださった読者さまはお分かりかと思いますが、激レアです。
三人はCROWN結成前からの顔見知りではありましたが、特別仲が良かったわけではありません。
会えば話す程度でした。
そこから様々な事があって三人は少しずつ絆を深めていき、現在に至ります。
今回はそのうちの一つ、三人の絆がより強くなったエピソードをアキラ視点で書いてみました。
以前読んでくださった方も、初見の方も、楽しんでいただけますように*(๑¯人¯)✧*
麗しのマリリン
松浦どれみ
青春
〜ニックネームしか知らない私たちの、青春のすべて〜
少女漫画を覗き見るような世界観。
2023.08
他作品やコンテストの兼ね合いでお休み中です。
連載再開まで今しばらくお待ちくださいませ。
【あらすじ】
私立清流館学園は学校生活をニックネームで過ごす少し変わったルールがある。
清流館高校1年2組では入学後の自己紹介が始まったところだった。
主人公のマリ、新堂を中心にクラスメイトたちの人間関係が動き出す1年間のお話。
片恋も、友情も、部活も、トラウマも、コンプレックスも、ぜんぶぜんぶ青春だ。
主要メンバー全員恋愛中!
甘くて酸っぱくてじれったい、そんな学園青春ストーリーです。
感想やお気に入り登録してくれると感激です!
よろしくお願いします!
私立桃華学園! ~性春謳歌の公式認可《フリーパス》~
cure456
青春
『私立桃華学園』
初中高等部からなる全寮制の元女子校に、期待で色々と膨らませた主人公が入学した。しかし、待っていたのは桃色の学園生活などではなく……?
R15の学園青春バトル! 戦いの先に待つ未来とは――。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる