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1年生2学期
9月15日(水)曇り 誰がための踊りか
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体育祭3日前。しかし、台風の影響から天気によっては予定通りにできるかわからないと先生からアナウンスされる。雨でも降ったらなんて話はしたけど、やっぱり延期になる方が面倒だ。
それでも練習はやっておかなければならないもので、今日から明後日までは午前中を使って総仕上げをしていく。とはいっても今日の3時間目はダンスを履修している人や応援団に立候補した人が練習する時間になっていて、僕や大倉くんを始めとするそれに当てはまらない生徒は校内の清掃作業という名の暇を持て余していた。
それから迎えた4時間目。とうとうフォークダンス練習をする時がやってきた。体育委員が説明してくれた概要を聞くと、5つの円を作りながらその中で男女が組んで、一定のリズムで男女それぞれが交代いくらしい。つまりは常に同じ組み合わせて踊るわけでないということだ。
そして、実際の踊り方を見ていくと、昨日藤原先輩が言った通り、それほど心配するような難しさではなさそうだった。手を繋ぎながら少しステップを踏んだり、位置を入れ替えたりしながら踊って、次の人に移る。基本はこれを繰り返していく。
「て、手を繋ぐのか……」
「どうしたの?」
「き、緊張しない……?」
「そんなことは……」
大倉くん、それは言わないで欲しかった。僕は自分のダンスのことばかり頭が行っていたけど、そういえば女子と手を繋いでダンスするなんて相当ハードルが高いことを要求されている。そして、一度意識すると、僕は緊張し始めてしまった。
いや、それよりも考えるべきことは……
「なに? うぶクン」
体育祭の並びは出席番号に戻っているから僕の隣は大山さんになる。それは……本田くんに対して非常に申し訳ない。ダンス中に組み合わせが変わるにしても後ろの方にいる本田くんが大山さんにたどり着けるかわからないから余計に。
「その……フォークダンスあるって知ってた?」
「うん。先輩から聞いてた。高校だとこういうのもやるんだねー」
「そ、そうだね……」
しかし、なってしまったものは仕方ない。これで露骨に本田くんと位置を替わるのも良くないだろう。そもそも僕は気にし過ぎなんだ。
説明が終わると、実際にフォークダンスの陣形が組まれていく。全校生徒は約600人がグラウンドに広がると迫力があるようにも感じるけど、実際に来賓の人が見る時はどう見えるのだろうか。人が多過ぎてよくわからないような気もする。
(あれ……?)
僕がそんなくだらないことを考えながら進行していると、全然見覚えがない女子と向かい合っていた。一瞬だけ焦ったけど、周りを見てすぐに気付いた。このフォークダンスは別にクラスの男女で組むわけじゃなかったのだ。先に女子が円を作った後、僕ら男子が内側に置かれたけど、適当に配置しているから全く別のクラスのところへ来ていた。
(まぁ……余計なこと考えずに済むからいいか)
そう思って僕は目の前の女子に手を差し出す。すると、その女子はこちらを見ることなく、少し離れた位置にいる隣の女子方へ寄って話し始めた。
(もしかしなくても……みんなまともに踊るわけじゃないのか)
もう一度周りを見渡すと、練習が始まろうとしているのに全体的にやる気がある感じではない。そう、僕は勘違いしていた。体育祭のフォークダンスだからといって、よく知らない男子と組まされるのを良しとするわけではないのだ。もちろん、男子側からしてもそれはあるのだろうけど、僕はそんなことをまるで考えてなかった。
音楽が流れ始めてもその状況は変わらず、喋る人もいれば列が乱れて適当に踊っている人もいて、僕は一人で棒立ちになってしまう。隣の大倉くんと目を合わせてもどうしたらいいやらといった感じで何となくタイミングを合わせながら位置を移動していく。
それを4回ほど繰り返した時だ。
「産賀くん……?」
僕の目の前に驚いた様子の岸本さんが突然現れた。いや、順番が回って来ただけなんだけど、僕はそれ以前の女子が岸本さんのクラスだと知らなかった。
「この列って1組の女子だったんだ」
「うん。何だかごちゃごちゃになっているけれど……」
「しょうがないよ。まだ練習だし……って僕は練習すら全然できてないから駄目か」
「わたしも……できてない」
「えっ? そうなの?」
「いきなり手を繋いで踊るのは……勇気がいるから」
ごもっともな意見である。ここに参加している男女全員が選り好みしているわけじゃなく、単に恥ずかしさもあって踊れないことも十分考えられる。そう考えると、フォークダンスをやる意味っていったい……
「でも……産賀くんなら」
「岸本さん?」
「練習……付き合って貰える?」
そう言った岸本さんに手を差し出されてしまったので、僕も手を伸ばす。
「産賀くん……ここからどうやるか覚えてる……?」
「え、えっと……まずは右へ3回ステップを踏んで……」
お互いにぎこちない動きながらも先ほど体育委員から教わった順番通りに踊っていく。その時間は1分程度だけど、今までにないくらい近くに岸本さんがいた。
それから踊りが1巡すると、僕と岸本さんは手を離す。
「ありがとう、産賀くん」
「いやいや、こちらこそ。おかげでちょっと練習できたよ」
「…………」
「…………」
「……つ、次に移動するわ」
「う、うん……」
結局、その日まともに踊れたのは岸本さんとの一回だけだった。藤原先輩が適当に踊ると言ったのは今日みたいなことになるからだとわかったけど……それはそれとして妙な気持ちが残った日だ。
それでも練習はやっておかなければならないもので、今日から明後日までは午前中を使って総仕上げをしていく。とはいっても今日の3時間目はダンスを履修している人や応援団に立候補した人が練習する時間になっていて、僕や大倉くんを始めとするそれに当てはまらない生徒は校内の清掃作業という名の暇を持て余していた。
それから迎えた4時間目。とうとうフォークダンス練習をする時がやってきた。体育委員が説明してくれた概要を聞くと、5つの円を作りながらその中で男女が組んで、一定のリズムで男女それぞれが交代いくらしい。つまりは常に同じ組み合わせて踊るわけでないということだ。
そして、実際の踊り方を見ていくと、昨日藤原先輩が言った通り、それほど心配するような難しさではなさそうだった。手を繋ぎながら少しステップを踏んだり、位置を入れ替えたりしながら踊って、次の人に移る。基本はこれを繰り返していく。
「て、手を繋ぐのか……」
「どうしたの?」
「き、緊張しない……?」
「そんなことは……」
大倉くん、それは言わないで欲しかった。僕は自分のダンスのことばかり頭が行っていたけど、そういえば女子と手を繋いでダンスするなんて相当ハードルが高いことを要求されている。そして、一度意識すると、僕は緊張し始めてしまった。
いや、それよりも考えるべきことは……
「なに? うぶクン」
体育祭の並びは出席番号に戻っているから僕の隣は大山さんになる。それは……本田くんに対して非常に申し訳ない。ダンス中に組み合わせが変わるにしても後ろの方にいる本田くんが大山さんにたどり着けるかわからないから余計に。
「その……フォークダンスあるって知ってた?」
「うん。先輩から聞いてた。高校だとこういうのもやるんだねー」
「そ、そうだね……」
しかし、なってしまったものは仕方ない。これで露骨に本田くんと位置を替わるのも良くないだろう。そもそも僕は気にし過ぎなんだ。
説明が終わると、実際にフォークダンスの陣形が組まれていく。全校生徒は約600人がグラウンドに広がると迫力があるようにも感じるけど、実際に来賓の人が見る時はどう見えるのだろうか。人が多過ぎてよくわからないような気もする。
(あれ……?)
僕がそんなくだらないことを考えながら進行していると、全然見覚えがない女子と向かい合っていた。一瞬だけ焦ったけど、周りを見てすぐに気付いた。このフォークダンスは別にクラスの男女で組むわけじゃなかったのだ。先に女子が円を作った後、僕ら男子が内側に置かれたけど、適当に配置しているから全く別のクラスのところへ来ていた。
(まぁ……余計なこと考えずに済むからいいか)
そう思って僕は目の前の女子に手を差し出す。すると、その女子はこちらを見ることなく、少し離れた位置にいる隣の女子方へ寄って話し始めた。
(もしかしなくても……みんなまともに踊るわけじゃないのか)
もう一度周りを見渡すと、練習が始まろうとしているのに全体的にやる気がある感じではない。そう、僕は勘違いしていた。体育祭のフォークダンスだからといって、よく知らない男子と組まされるのを良しとするわけではないのだ。もちろん、男子側からしてもそれはあるのだろうけど、僕はそんなことをまるで考えてなかった。
音楽が流れ始めてもその状況は変わらず、喋る人もいれば列が乱れて適当に踊っている人もいて、僕は一人で棒立ちになってしまう。隣の大倉くんと目を合わせてもどうしたらいいやらといった感じで何となくタイミングを合わせながら位置を移動していく。
それを4回ほど繰り返した時だ。
「産賀くん……?」
僕の目の前に驚いた様子の岸本さんが突然現れた。いや、順番が回って来ただけなんだけど、僕はそれ以前の女子が岸本さんのクラスだと知らなかった。
「この列って1組の女子だったんだ」
「うん。何だかごちゃごちゃになっているけれど……」
「しょうがないよ。まだ練習だし……って僕は練習すら全然できてないから駄目か」
「わたしも……できてない」
「えっ? そうなの?」
「いきなり手を繋いで踊るのは……勇気がいるから」
ごもっともな意見である。ここに参加している男女全員が選り好みしているわけじゃなく、単に恥ずかしさもあって踊れないことも十分考えられる。そう考えると、フォークダンスをやる意味っていったい……
「でも……産賀くんなら」
「岸本さん?」
「練習……付き合って貰える?」
そう言った岸本さんに手を差し出されてしまったので、僕も手を伸ばす。
「産賀くん……ここからどうやるか覚えてる……?」
「え、えっと……まずは右へ3回ステップを踏んで……」
お互いにぎこちない動きながらも先ほど体育委員から教わった順番通りに踊っていく。その時間は1分程度だけど、今までにないくらい近くに岸本さんがいた。
それから踊りが1巡すると、僕と岸本さんは手を離す。
「ありがとう、産賀くん」
「いやいや、こちらこそ。おかげでちょっと練習できたよ」
「…………」
「…………」
「……つ、次に移動するわ」
「う、うん……」
結局、その日まともに踊れたのは岸本さんとの一回だけだった。藤原先輩が適当に踊ると言ったのは今日みたいなことになるからだとわかったけど……それはそれとして妙な気持ちが残った日だ。
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