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1年生夏休み
8月13日(金)雨 祖父母宅での夏休み
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夏休み24日目。今日から1泊2日で京都にある母方の祖父母のところへ行く。ただ、京都だからといって神社仏閣や昔の街並みがあるわけじゃなく、そういった所からは遠い田舎に家はあるから周りはその他の住宅や田んぼばかりになる。僕はその景色も好きだけど、知らない人からすると京都らしい話を期待されるから少々困ってしまう。
そんな田舎を目指すためには車での移動が必須になるので、この日はいつも以上に早起きして出発した。僕と明莉は車内で寝られるからいいけど、ほとんどの時間の運転を担当する父さんは渋滞もあってなかなか大変だ。
「明莉と良助は寝てていいからな」
「……ZZZ」
「って、明莉もう寝てるー!?」
それでも父さんは寝ていいと言ってくれる。正直、小さい頃の方が普段見慣れない高速道路の風景や車内の会話でそれなりに起きれた覚えがあるけど、今は少し会話が途切れたうちにスマホを見て、気付いたら寝てしまっていることが多い。だから、申し訳ないけどありがたく寝させてもらうことにしている。
二回パーキングエリアでの休憩を挟んだ後、普通の道に戻って20分ほど移動すると、あっという間に景色は自然の方が多くなり始めた。ここまで来ると祖父母の家にやって来た感じがしてくる。
それから程なくして到着すると、既にばあちゃんが玄関で待っていた。
「おばあちゃん、こんにちはー!」
一番乗りに挨拶した明莉に続いて、僕も挨拶する。
「よう来たね。明莉、またべっぴんさんになって」
「そうかな? じゃあ、またおばあちゃんのお墨付きって友達に言っとくね!」
「良助もまた大きゅうなって」
「うん。ちょっとだけ身長伸びた」
僕はそう言うけど、実際は去年の春休み中に来た時からあまり身長は変わってない。ただ、ばあちゃんが僕と明莉を見てこう言うところまでが挨拶のワンセットだから同意しておいた方がいいのだ。
すると、母さんがきょろきょろとあたりを見まわす。
「お母さん、お父さんはどこ?」
「上の墓掃除に行っとるよ」
「もう、雨なのにまた一人で先にやって……」
「母さん、僕が呼びに行ってくるよ」
「そう? じゃあ、良助お願い」
傘をさした僕は頷くと祖父母宅の横道から上へと続く坂を上り始めた。これも祖父と会う一連の流れ……かわからないけど、ここ最近は僕が行くことが多い。父さんは運転で疲れてるし、母さんと明莉は久しぶりのばあちゃんとの会話をする役目があるから、僕が行った方がいいと勝手に思っている。
坂を上って5分ほどすると、道の途中に共同墓地が見える。ここに僕から見て曾祖父母やそれよりもっと前のご先祖様が眠っているらしい。目的の一つには墓参りもあるから、夏休みは必ずここに来る。
そこで合羽姿で汗をぬぐいながら雑草を抜いていたのが……僕のじいちゃんだ。
「じいちゃん、来たよ」
「おおっ、良助! また、大きゅうなったな!」
「ちょっとだけね」
半年会わないとそういう印象になるのだろうか。じいちゃんにもだいたい同じことを言われる。
「母さんが一人で先に始めたの気にしてたから一旦戻ろう」
「はいはい。もうこの辺が抜け終わったらね」
そう言いながら雨の中でまだ作業を続けそうだったので、僕もじいちゃんの傍に屈んで手伝い始めた。ある程度納得するまでは戻らないだろうからこの方が早い。
「良助、もう少し焼けた方がええぞ。白過ぎると不健康に見える」
「僕は焼けても赤くなっちゃうだけだから、焼けるのは無理かなぁ」
「そうなんか? 赤こうなったら痛いからそれはいかんな」
このやり取りも定番……というよりじいちゃんの方が忘れているだけだ。僕が子どもの頃からじいちゃんやばあちゃんはお年寄りだったけど、高校生になった今、更にお年寄りになったと感じる。
「こうやって綺麗にしとかんとな、ご先祖様に失礼やから。それに正敏さんのお父さんのためにも綺麗にしとかんと……」
それを実感するもう一つの理由は父方の祖父……僕のもう一人のじいちゃんが一昨年に亡くなったからだ。年齢は74歳だったからお年寄りだったことには間違いないけど、それでも今で言えば早い方だから誰も亡くなるなんて思っていなかったはずだ。僕だって、僕が大人になるまでもう一人のじいちゃんは見届けてくれると勝手に思っていた。
だけど、僕が年を取るということは周りも年を取るということで、じいちゃんやばあちゃんも今まで通りにいかなくなることが増える。考えれば当たり前だけど、もう一人のじいちゃんが亡くなったことで僕はそれに初めて気づいた。今もこちらのじいちゃんの傍にいると、忘れっぽくなってることや腰の曲がり方からそれを感じてしまう。
「じいちゃん、そろそろ本当に戻ろう」
「そうか? もうちょっと……」
「後で僕や父さんたちも手伝うから。それに明莉も早く会いたがってるよ」
「おー、そうかそうか! それなら早う戻らんとな」
だからこそ、僕は京都のじいちゃんやばあちゃん、そしてもう一人のばあちゃんにはなるべく長生きして貰いたいし、無理はして欲しくない。僕が率先してじいちゃんを呼びに行くようになったのはそういう理由もある。
「やっぱり、並んで歩くと大きゅうなっとるわ」
「じいちゃんが言うなら、そうなんだろうね」
「そりゃあ、もう小さい頃は良助も明莉もこんな小さくて……」
戻るまでの間、また何回か聞いた覚えのある話を聞かされる。でも、僕に向かって嬉しそうに話すじいちゃんを見ると、それも小さなことだ。
それから祖父母宅に戻ると、これでもかというほどたっぷり用意された昼ご飯(ついでに言うと晩ご飯もそうだった)を取って、のんびりした時間を過ごした。
そんな田舎を目指すためには車での移動が必須になるので、この日はいつも以上に早起きして出発した。僕と明莉は車内で寝られるからいいけど、ほとんどの時間の運転を担当する父さんは渋滞もあってなかなか大変だ。
「明莉と良助は寝てていいからな」
「……ZZZ」
「って、明莉もう寝てるー!?」
それでも父さんは寝ていいと言ってくれる。正直、小さい頃の方が普段見慣れない高速道路の風景や車内の会話でそれなりに起きれた覚えがあるけど、今は少し会話が途切れたうちにスマホを見て、気付いたら寝てしまっていることが多い。だから、申し訳ないけどありがたく寝させてもらうことにしている。
二回パーキングエリアでの休憩を挟んだ後、普通の道に戻って20分ほど移動すると、あっという間に景色は自然の方が多くなり始めた。ここまで来ると祖父母の家にやって来た感じがしてくる。
それから程なくして到着すると、既にばあちゃんが玄関で待っていた。
「おばあちゃん、こんにちはー!」
一番乗りに挨拶した明莉に続いて、僕も挨拶する。
「よう来たね。明莉、またべっぴんさんになって」
「そうかな? じゃあ、またおばあちゃんのお墨付きって友達に言っとくね!」
「良助もまた大きゅうなって」
「うん。ちょっとだけ身長伸びた」
僕はそう言うけど、実際は去年の春休み中に来た時からあまり身長は変わってない。ただ、ばあちゃんが僕と明莉を見てこう言うところまでが挨拶のワンセットだから同意しておいた方がいいのだ。
すると、母さんがきょろきょろとあたりを見まわす。
「お母さん、お父さんはどこ?」
「上の墓掃除に行っとるよ」
「もう、雨なのにまた一人で先にやって……」
「母さん、僕が呼びに行ってくるよ」
「そう? じゃあ、良助お願い」
傘をさした僕は頷くと祖父母宅の横道から上へと続く坂を上り始めた。これも祖父と会う一連の流れ……かわからないけど、ここ最近は僕が行くことが多い。父さんは運転で疲れてるし、母さんと明莉は久しぶりのばあちゃんとの会話をする役目があるから、僕が行った方がいいと勝手に思っている。
坂を上って5分ほどすると、道の途中に共同墓地が見える。ここに僕から見て曾祖父母やそれよりもっと前のご先祖様が眠っているらしい。目的の一つには墓参りもあるから、夏休みは必ずここに来る。
そこで合羽姿で汗をぬぐいながら雑草を抜いていたのが……僕のじいちゃんだ。
「じいちゃん、来たよ」
「おおっ、良助! また、大きゅうなったな!」
「ちょっとだけね」
半年会わないとそういう印象になるのだろうか。じいちゃんにもだいたい同じことを言われる。
「母さんが一人で先に始めたの気にしてたから一旦戻ろう」
「はいはい。もうこの辺が抜け終わったらね」
そう言いながら雨の中でまだ作業を続けそうだったので、僕もじいちゃんの傍に屈んで手伝い始めた。ある程度納得するまでは戻らないだろうからこの方が早い。
「良助、もう少し焼けた方がええぞ。白過ぎると不健康に見える」
「僕は焼けても赤くなっちゃうだけだから、焼けるのは無理かなぁ」
「そうなんか? 赤こうなったら痛いからそれはいかんな」
このやり取りも定番……というよりじいちゃんの方が忘れているだけだ。僕が子どもの頃からじいちゃんやばあちゃんはお年寄りだったけど、高校生になった今、更にお年寄りになったと感じる。
「こうやって綺麗にしとかんとな、ご先祖様に失礼やから。それに正敏さんのお父さんのためにも綺麗にしとかんと……」
それを実感するもう一つの理由は父方の祖父……僕のもう一人のじいちゃんが一昨年に亡くなったからだ。年齢は74歳だったからお年寄りだったことには間違いないけど、それでも今で言えば早い方だから誰も亡くなるなんて思っていなかったはずだ。僕だって、僕が大人になるまでもう一人のじいちゃんは見届けてくれると勝手に思っていた。
だけど、僕が年を取るということは周りも年を取るということで、じいちゃんやばあちゃんも今まで通りにいかなくなることが増える。考えれば当たり前だけど、もう一人のじいちゃんが亡くなったことで僕はそれに初めて気づいた。今もこちらのじいちゃんの傍にいると、忘れっぽくなってることや腰の曲がり方からそれを感じてしまう。
「じいちゃん、そろそろ本当に戻ろう」
「そうか? もうちょっと……」
「後で僕や父さんたちも手伝うから。それに明莉も早く会いたがってるよ」
「おー、そうかそうか! それなら早う戻らんとな」
だからこそ、僕は京都のじいちゃんやばあちゃん、そしてもう一人のばあちゃんにはなるべく長生きして貰いたいし、無理はして欲しくない。僕が率先してじいちゃんを呼びに行くようになったのはそういう理由もある。
「やっぱり、並んで歩くと大きゅうなっとるわ」
「じいちゃんが言うなら、そうなんだろうね」
「そりゃあ、もう小さい頃は良助も明莉もこんな小さくて……」
戻るまでの間、また何回か聞いた覚えのある話を聞かされる。でも、僕に向かって嬉しそうに話すじいちゃんを見ると、それも小さなことだ。
それから祖父母宅に戻ると、これでもかというほどたっぷり用意された昼ご飯(ついでに言うと晩ご飯もそうだった)を取って、のんびりした時間を過ごした。
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