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1年生夏休み
10:27 今起きた
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その日、松永浩太は待ち合わせ時間の約30分前に目覚めた。本来なら部活が入っていた日にいつも通り行っても行かなくてもいい理論を適用して今日の予定を優先した松永だったが、それはそれとして睡眠の誘惑には勝てなかった。
松永は一応、今起床したことを報告すると、着替えを始めて家を後にした。今日は普段の足である自転車は使えないので少々時間はかかるが、それでも待ち合わせには十分間に合う。
「お待たせ~ 待った?」
「ううん。5分前くらいに着いたから全然」
待ち合わせ場所へ到着すると、そこには既に松永の彼女――伊月茉奈がいた。二人は松永が卒業式を終えた後の春休みから付き合い始めていて、今日で約4ヶ月目となる。
「俺、朝食べてないからお昼から食べに行っていい?」
「そう言うと思ってた。どこがいい?」
「マナちゃんが食べたいものでいいよ。特になかったらそこそこがっつり系がいいかな」
そんな話をしながら松永と茉奈は歩き始める。暫く飲食店を物色すると、洋食系の店が見つかった。店内に入って二人が席に着くと、松永はメニューを手に取って選び始めるが、一方の茉奈は松永の方を見つめて、妙にソワソワしていた。
「どうしたの、マナちゃん?」
「浩太くん……少し早いけど、お誕生日おめでとう」
茉奈がその言葉と共に松永へ包みを渡す。松永はそれを満面の笑みで受け取った。
「わー、ありがとう! 今開けていい?」
「うん。あまり高くはないけど実用性はあると思うから」
「お~ リストバンドだ。自分では買ってなかったからありがたいよ」
「今日もテニス部があったのに……今日しか予定が取れなくてごめんなさい。本当はプレゼントも当日に渡したかった」
「いやいや、部活は趣味でやってるから全然気にしないで。マナちゃんも受験と中学生活の総決算で色々忙しいだろうし」
茉奈は絶賛受験中を控える中学3年生であり、この夏休みも受験に向けた補講が一定の頻度で入っている。その中で都合がついた今日に松永が予定を合わせることになったのだ。
「食べ終わったケーキ屋さんへ行ってケーキもご馳走するから。最近、新しいところができたの」
「いやぁ、なんかいろいろして貰って悪いけど、誕生日の主役だからお言葉に甘えさせて貰おうかな~」
そして、注文した二人は料理が運ばれるまで最近のことを話した。LINEでは度々連絡を取っているものの、直接話をすればまた違った印象になって楽しめる。そんな風にして、二人の時間は和やかに過ぎて行く……はずだった。松永の話がとある人物のことに移るまでは。
「それでさー その後からりょーちゃんとやけに昔話をすることになって」
「…………」
「りょーちゃん、そういうところはちょっと鈍いからなー」
「………………」
「あっ、これもLINEで話したけど、この前りょーちゃんの家に」
「浩太くん」
話を止められた松永が茉奈を見ると、明らかに不機嫌な顔をしていた。その原因を松永はすぐに察したので、次に聞かれる言葉も何となく予想できた。
「なに、マナちゃん?」
「そのりょーちゃんさんって人……本当に女の子じゃないんだよね?」
至って真剣な表情で聞く茉奈に、松永は内心「またか~」と思いながらも笑顔を返す。
「りょーちゃんは産賀良介って男子だって。マナちゃんも同じ中学だし、俺と一緒にいることもあったから絶対見かけてるはずだよ」
「でも、浩太くんの周りには男女限らず色んな人がいたから」
「まー、それは否定しないけど、その中にいたんだって。何なら一番よくいたよ」
「そう言われても……」
「男の子だって、ちゃん付けで呼ぶことあるじゃん。それに俺が別の女の子にちょっかいかけそうに見える?」
「……ごめんなさい」
「わーお」
変な部分で信頼されてしまう松永だが、実際のところりょーちゃんという人物は産賀良介という男の子であることは間違いないし、松永は別の女の子と話したり、遊んだりしてもそういう部分でだらしないことはない。どちらかといえば茉奈の方が少々気持ちが大きな子なのだ。
「逆に何でいつも女の子と思っちゃうの?」
「だって……りょーちゃんさんの話の割合多いし、楽しそうに話すし……」
「それは女の子と関係な……まぁ、いいか。よし。だったら、マナちゃんにも少し昔話に付き合って貰おうかな」
「昔話?」
「マナちゃんの今の中学に行くまでの俺とりょーちゃんの話」
◇
俺とりょーちゃん……いや、良助は最初から仲良しだったわけじゃない。初めての出会いは幼稚園で、年少のばら組と年長の星組の両方一緒だった。でも、その頃の良助は時々みんなに混ざって遊ぶかなーくらいの関わりだったし、性格的にはマイペースで……ちょっと変な子だと思ってた。
一方、俺はその頃から今とあんまり変わってなくて、自分で言うのもなんだけど、お調子者キャラでそれなりにみんなの中心で動くタイプだった。だから、今思えばその時点だと全然一緒にいる二人じゃなかったと思う。
それから無事に小学校に入学。その後も二人は順調に小学生の生活を送れる……と思ったらそうはいかなかった。なんと俺の方が。マナちゃんも覚えがあるかもだけど、幼稚園から小学校に上がると、たった1年の違いでも子どもながら色んな意識が芽生えるみたいで、グループやら上下関係やらが出来上がったんだ。
その中で俺はお調子者だったせいか、違う幼稚園だった奴らに……ちょっとした嫌がらせをされた。あー、マナちゃん落ち着いて。別に学校へ行きたくなくなるとか、そんな大げさなもんじゃないから。後になってそいつらとも楽しく話せるようになったし。まー、そいつらにとって、小学生特有の一時のイキった態度だったってこと。
だけど、その頃の俺はその嫌がらせ的なものを上手く捌いて笑いに変えることもできなければ、文句を言うこともできなかった。それに小学生の時って、そういうの親にも先生にも言いづらいでしょ? そうなると、俺もお調子者じゃいけないのかなーって思い始めて、少しだけ大人しくなる時期があったんだ。まー、結果的にその時期は一週間ぐらいで終わるんだけど。
その短い時間で大人しくなっても嫌がらせ的なものは止まらなくて、ある日も俺の席に何人かがやって来て、あることないこと言い出した。その時、どうしていいかわからない俺の前に、良助が割り込んできた。
『まつながくんはそんな子じゃないよ。なにもしらないのに、なんでそんなこといえるの?』
最初に言ったように、幼稚園の頃の俺と良助の接点はそんなにあるわけじゃなかった。だから、良助がそんなことを言うなんて、俺が一番びっくりした。今の良助ならもうちょっと慎重に考えて行動しそうだからこれも小学生特有の行動力だったんだと思う。それに良助は別に恩着せがましく助けたんじゃなくて、たぶん俺を取り巻く状況が良助的に許せなかっただけだ。
その証拠に次の日の良助は特に俺へ話しかけることはなかった。そして、嫌がらせ的なものをしていた奴らは文句を付ける良助の態度に気圧されたのか、それとも変な奴だと思って引かれたのか、それ以降は俺に何も言わなくなったし、ターゲットが良助に移ることもなかった。あー、一応言っとくと、良助もその後の学年になったらそいつらと普通に話してたよ。
それで、助けて貰った俺はお礼として……ではなく、純粋に良助と友達になりたいと思った。幼稚園から一緒で遊んだことはあったけど、恐らくそれは数いる同級生の一人で、友達とまでは言えなかった。
『りょーちゃん、ちょっといい?』
『……りょーちゃん?』
『りょうすけだからりょーちゃんでいいでしょ? それよりこんどいえにあそびにいっていい?』
『えっ? なんで?』
『あそびたいから!』
『べつにいいけど……』
それからは俺の性格的にそれほど苦労せずに良助と仲良くなっていった。もちろん、良助も話せば全然話せるタイプだったし、別に他の友達がいないとかでもなかったからいつかは何かのタイミングで友達になれていたかもしれない。
ただ、きっかけとしてあんまり良くなかったけど、そのおかげで俺から友達になりたいって思えたのは今思えば良かったって思う。そうじゃなかったら、良助の一番いいところを見ずに、表面上の友達の一人になっていただろうから。
『……っていうことがあったよな~』
『マジか。全然記憶ないな』
『嘘!? りょーちゃん、さすがにそれはひどいよ』
『すまん。松永ほど記憶力良くないから』
りょーちゃんの方は覚えていても口に出さない話だろうけど、俺にとっては忘れらない話だ。
◇
「これが俺がりょーちゃんと仲良くなって、呼び方がそうなったきっかけ」
並び終わった料理を食べ進めながら少しの間続いた話を終えて、松永はひと息つく。
「どう? 納得してくれた?」
「……うん。浩太くんにとって、りょーちゃんさん……産賀さんが大切な友人ってことがよくわかった」
「あはは。直接的に言われると照れるな。りょーちゃん以外に話すのはマナちゃんが初めてだよ」
先ほどと比べて穏やかな表情になった茉奈を見て、松永は話したかいがあったと思った。実際、良助以外に言うようなことでもないし、松永としても前半は気持ちのいい記憶ではない。だけど、それが良助と出会うきっかけであるなら松永はあの出来事も思い出話にできるのだ。
「それはそれとして……わたし、改めて産賀さんに会ってみたい」
「えっ」
「別に疑ってるわけじゃなくて、純粋に浩太くんがお世話になってる人に挨拶をしておきたいから」
「お世話って……なってるか」
「ダメ?」
「あー……いや、全然。夏休み中に予定合わせられそうか聞いとくよ」
「ありがとう。それと……浩太くんに変なこと言ってごめんなさい。浩太くん、絶対モテると思うからいつも余計なことを……」
「別に謝らなくてもいいよ。でも、俺はマナちゃんが思ってるよりモテる感じじゃないから。こうやって好きとか嫉妬とかしてくれるの、マナちゃんだけだよ?」
「も、もう! 浩太くんったら……」
ようやくいつも通りの調子に戻って来た松永と茉奈だったが、松永の方には一つ宿題ができてしまった。それは茉奈と良助を会わせる……より先に言い出すタイミングを逃してしまったせいで、そもそも彼女ができたことを良助に報告することだ。恐らく、それを聞く良助に言われる言葉は……
(なんで言わなかったんだ!?だろうなぁ)
松永は一応、今起床したことを報告すると、着替えを始めて家を後にした。今日は普段の足である自転車は使えないので少々時間はかかるが、それでも待ち合わせには十分間に合う。
「お待たせ~ 待った?」
「ううん。5分前くらいに着いたから全然」
待ち合わせ場所へ到着すると、そこには既に松永の彼女――伊月茉奈がいた。二人は松永が卒業式を終えた後の春休みから付き合い始めていて、今日で約4ヶ月目となる。
「俺、朝食べてないからお昼から食べに行っていい?」
「そう言うと思ってた。どこがいい?」
「マナちゃんが食べたいものでいいよ。特になかったらそこそこがっつり系がいいかな」
そんな話をしながら松永と茉奈は歩き始める。暫く飲食店を物色すると、洋食系の店が見つかった。店内に入って二人が席に着くと、松永はメニューを手に取って選び始めるが、一方の茉奈は松永の方を見つめて、妙にソワソワしていた。
「どうしたの、マナちゃん?」
「浩太くん……少し早いけど、お誕生日おめでとう」
茉奈がその言葉と共に松永へ包みを渡す。松永はそれを満面の笑みで受け取った。
「わー、ありがとう! 今開けていい?」
「うん。あまり高くはないけど実用性はあると思うから」
「お~ リストバンドだ。自分では買ってなかったからありがたいよ」
「今日もテニス部があったのに……今日しか予定が取れなくてごめんなさい。本当はプレゼントも当日に渡したかった」
「いやいや、部活は趣味でやってるから全然気にしないで。マナちゃんも受験と中学生活の総決算で色々忙しいだろうし」
茉奈は絶賛受験中を控える中学3年生であり、この夏休みも受験に向けた補講が一定の頻度で入っている。その中で都合がついた今日に松永が予定を合わせることになったのだ。
「食べ終わったケーキ屋さんへ行ってケーキもご馳走するから。最近、新しいところができたの」
「いやぁ、なんかいろいろして貰って悪いけど、誕生日の主役だからお言葉に甘えさせて貰おうかな~」
そして、注文した二人は料理が運ばれるまで最近のことを話した。LINEでは度々連絡を取っているものの、直接話をすればまた違った印象になって楽しめる。そんな風にして、二人の時間は和やかに過ぎて行く……はずだった。松永の話がとある人物のことに移るまでは。
「それでさー その後からりょーちゃんとやけに昔話をすることになって」
「…………」
「りょーちゃん、そういうところはちょっと鈍いからなー」
「………………」
「あっ、これもLINEで話したけど、この前りょーちゃんの家に」
「浩太くん」
話を止められた松永が茉奈を見ると、明らかに不機嫌な顔をしていた。その原因を松永はすぐに察したので、次に聞かれる言葉も何となく予想できた。
「なに、マナちゃん?」
「そのりょーちゃんさんって人……本当に女の子じゃないんだよね?」
至って真剣な表情で聞く茉奈に、松永は内心「またか~」と思いながらも笑顔を返す。
「りょーちゃんは産賀良介って男子だって。マナちゃんも同じ中学だし、俺と一緒にいることもあったから絶対見かけてるはずだよ」
「でも、浩太くんの周りには男女限らず色んな人がいたから」
「まー、それは否定しないけど、その中にいたんだって。何なら一番よくいたよ」
「そう言われても……」
「男の子だって、ちゃん付けで呼ぶことあるじゃん。それに俺が別の女の子にちょっかいかけそうに見える?」
「……ごめんなさい」
「わーお」
変な部分で信頼されてしまう松永だが、実際のところりょーちゃんという人物は産賀良介という男の子であることは間違いないし、松永は別の女の子と話したり、遊んだりしてもそういう部分でだらしないことはない。どちらかといえば茉奈の方が少々気持ちが大きな子なのだ。
「逆に何でいつも女の子と思っちゃうの?」
「だって……りょーちゃんさんの話の割合多いし、楽しそうに話すし……」
「それは女の子と関係な……まぁ、いいか。よし。だったら、マナちゃんにも少し昔話に付き合って貰おうかな」
「昔話?」
「マナちゃんの今の中学に行くまでの俺とりょーちゃんの話」
◇
俺とりょーちゃん……いや、良助は最初から仲良しだったわけじゃない。初めての出会いは幼稚園で、年少のばら組と年長の星組の両方一緒だった。でも、その頃の良助は時々みんなに混ざって遊ぶかなーくらいの関わりだったし、性格的にはマイペースで……ちょっと変な子だと思ってた。
一方、俺はその頃から今とあんまり変わってなくて、自分で言うのもなんだけど、お調子者キャラでそれなりにみんなの中心で動くタイプだった。だから、今思えばその時点だと全然一緒にいる二人じゃなかったと思う。
それから無事に小学校に入学。その後も二人は順調に小学生の生活を送れる……と思ったらそうはいかなかった。なんと俺の方が。マナちゃんも覚えがあるかもだけど、幼稚園から小学校に上がると、たった1年の違いでも子どもながら色んな意識が芽生えるみたいで、グループやら上下関係やらが出来上がったんだ。
その中で俺はお調子者だったせいか、違う幼稚園だった奴らに……ちょっとした嫌がらせをされた。あー、マナちゃん落ち着いて。別に学校へ行きたくなくなるとか、そんな大げさなもんじゃないから。後になってそいつらとも楽しく話せるようになったし。まー、そいつらにとって、小学生特有の一時のイキった態度だったってこと。
だけど、その頃の俺はその嫌がらせ的なものを上手く捌いて笑いに変えることもできなければ、文句を言うこともできなかった。それに小学生の時って、そういうの親にも先生にも言いづらいでしょ? そうなると、俺もお調子者じゃいけないのかなーって思い始めて、少しだけ大人しくなる時期があったんだ。まー、結果的にその時期は一週間ぐらいで終わるんだけど。
その短い時間で大人しくなっても嫌がらせ的なものは止まらなくて、ある日も俺の席に何人かがやって来て、あることないこと言い出した。その時、どうしていいかわからない俺の前に、良助が割り込んできた。
『まつながくんはそんな子じゃないよ。なにもしらないのに、なんでそんなこといえるの?』
最初に言ったように、幼稚園の頃の俺と良助の接点はそんなにあるわけじゃなかった。だから、良助がそんなことを言うなんて、俺が一番びっくりした。今の良助ならもうちょっと慎重に考えて行動しそうだからこれも小学生特有の行動力だったんだと思う。それに良助は別に恩着せがましく助けたんじゃなくて、たぶん俺を取り巻く状況が良助的に許せなかっただけだ。
その証拠に次の日の良助は特に俺へ話しかけることはなかった。そして、嫌がらせ的なものをしていた奴らは文句を付ける良助の態度に気圧されたのか、それとも変な奴だと思って引かれたのか、それ以降は俺に何も言わなくなったし、ターゲットが良助に移ることもなかった。あー、一応言っとくと、良助もその後の学年になったらそいつらと普通に話してたよ。
それで、助けて貰った俺はお礼として……ではなく、純粋に良助と友達になりたいと思った。幼稚園から一緒で遊んだことはあったけど、恐らくそれは数いる同級生の一人で、友達とまでは言えなかった。
『りょーちゃん、ちょっといい?』
『……りょーちゃん?』
『りょうすけだからりょーちゃんでいいでしょ? それよりこんどいえにあそびにいっていい?』
『えっ? なんで?』
『あそびたいから!』
『べつにいいけど……』
それからは俺の性格的にそれほど苦労せずに良助と仲良くなっていった。もちろん、良助も話せば全然話せるタイプだったし、別に他の友達がいないとかでもなかったからいつかは何かのタイミングで友達になれていたかもしれない。
ただ、きっかけとしてあんまり良くなかったけど、そのおかげで俺から友達になりたいって思えたのは今思えば良かったって思う。そうじゃなかったら、良助の一番いいところを見ずに、表面上の友達の一人になっていただろうから。
『……っていうことがあったよな~』
『マジか。全然記憶ないな』
『嘘!? りょーちゃん、さすがにそれはひどいよ』
『すまん。松永ほど記憶力良くないから』
りょーちゃんの方は覚えていても口に出さない話だろうけど、俺にとっては忘れらない話だ。
◇
「これが俺がりょーちゃんと仲良くなって、呼び方がそうなったきっかけ」
並び終わった料理を食べ進めながら少しの間続いた話を終えて、松永はひと息つく。
「どう? 納得してくれた?」
「……うん。浩太くんにとって、りょーちゃんさん……産賀さんが大切な友人ってことがよくわかった」
「あはは。直接的に言われると照れるな。りょーちゃん以外に話すのはマナちゃんが初めてだよ」
先ほどと比べて穏やかな表情になった茉奈を見て、松永は話したかいがあったと思った。実際、良助以外に言うようなことでもないし、松永としても前半は気持ちのいい記憶ではない。だけど、それが良助と出会うきっかけであるなら松永はあの出来事も思い出話にできるのだ。
「それはそれとして……わたし、改めて産賀さんに会ってみたい」
「えっ」
「別に疑ってるわけじゃなくて、純粋に浩太くんがお世話になってる人に挨拶をしておきたいから」
「お世話って……なってるか」
「ダメ?」
「あー……いや、全然。夏休み中に予定合わせられそうか聞いとくよ」
「ありがとう。それと……浩太くんに変なこと言ってごめんなさい。浩太くん、絶対モテると思うからいつも余計なことを……」
「別に謝らなくてもいいよ。でも、俺はマナちゃんが思ってるよりモテる感じじゃないから。こうやって好きとか嫉妬とかしてくれるの、マナちゃんだけだよ?」
「も、もう! 浩太くんったら……」
ようやくいつも通りの調子に戻って来た松永と茉奈だったが、松永の方には一つ宿題ができてしまった。それは茉奈と良助を会わせる……より先に言い出すタイミングを逃してしまったせいで、そもそも彼女ができたことを良助に報告することだ。恐らく、それを聞く良助に言われる言葉は……
(なんで言わなかったんだ!?だろうなぁ)
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