97 / 942
1年生1学期
7月9日(金)雨のち曇り 岸本路子との交流その13
しおりを挟む
期末テスト3日目。今日で前半戦が終わりになって、残り4教科が来週の月火に持ち越される。一旦休みが挟まると気が緩んでしまいそうだけど、明莉が言ったように夏休みが目の前だから踏ん張りどころだ。
「りょーちゃん、帰るかー」
そして、テストが終わって、松永に呼ばれた僕は帰る準備を終えて教室を出た。
「あれ? 岸本さん?」
すると、廊下を出てすぐに岸本さんがいた。1組のはずの岸本さんが4組の前にいるのは珍しいことだけど、僕はその理由がすぐにピンと来なかった。
「産賀くんと……えっと、松永さん、こんにちは」
「あー、文芸部の岸本さん。もしかして、りょーちゃんに用事?」
「えっ? 僕に?」
「4組に他の知り合いいるかわかんないけど、そうじゃなかったらりょーちゃんでしょ」
松永に言われて、僕はようやくそこに気が付いた。そして、岸本さんのことをちょっとだけ知っている僕からすると、待ち人は確実に僕ということがわかる。
松永の言葉が終わった後に、岸本さんは恐る恐る口を開く。
「そ、そうなのだけど……松永さんと用事があるなら」
「いやいや、俺はもう帰るだけだから。じゃあ、りょーちゃん、また明日……じゃなくて、月曜日!」
ウインクしながらそう言い残して松永は去って行った。松永がどういう意図でウインクしたのかはわからないけど、相変わらず空気を読んでもらって申し訳ない。
「それで、岸本さん。僕に用事って?」
「それは……数Ⅰのテストは来週の月曜日にあるから……もしよかったら一緒に勉強をしたいと思って」
「なるほどね。岸本さん、お昼は?」
「持って来てる……って、ああ!? そうだった……産賀くんのお昼のこと考えてなかった……」
「今日はコンビニで買って帰る予定だったから全然大丈夫。じゃあ、自習室で待ってて。一旦、お昼確保してくるから」
予想外のお誘いだったけど、岸本さんから来てくれたなら断る理由はない。急いで一番近いコンビニまで行って往復10分ほどで学校に戻り、自習室まで行くと、扉の前で岸本さんが待っていた。
「産賀くん、お昼は自習室で食べられないみたいだから……」
「そういえばそうか。えっと……中庭で食べる?」
「産賀くんがいいなら、それで」
そのままの流れで中庭の座れそうな場所に二人並んでお昼を食べ始めた……あれ? なんだこの状況。一緒に勉強する話だったのに、何で岸本さんと並んでご飯を食べてるんだ?
「外まで買いに行かせて、本当にごめんなさい。わたし、いつも自分のことばかり考えて……」
「ぜ、全然そんなことないよ!」
「産賀くん?」
何を動揺しているのか、声がちょっと上ずってしまった。いかんいかん。岸本さんとはいつも話しているじゃないか。雰囲気で緊張してはいけない。
「で、でも、一緒に勉強したかったならLINEで連絡してくれれば良かったのに」
「あっ……そ、そうよね。LINEすればよかったのよね」
「遠慮しなくても何かあったら連絡してくれればいいから」
「……産賀くん、それについてなのだけれど」
「うん? それって、LINEのこと?」
「ええ。その……産賀くんからも最初の挨拶以降は連絡が来なかったから、あまり連絡するのはどうかと思っていて……」
「そ、そうだっけ?」
自分で言っておきながら僕から岸本さんへの連絡も口頭ばかりだったことを思い出す。元々、僕がLINEを送りまくるタイプじゃないし、岸本さんはLINEに関してはあまり詳しくないみたいだからそれで今日も連絡する発想にならなかったんだ。
「それにLINEを送るタイミングってどうにもわからなくて……今週はテストだったから特に連絡が邪魔になったらと考えてたと思うからどちらにせよ送れなかったと思うわ」
「別に絶対見なきゃいけないものでもないから送るだけなら……って言いたいところだけど、僕もその気持ちはわかるよ。相手の方で既読付かないと気になっちゃうし」
「産賀くんも? 確かに既読は便利なシステムだと思うのだけれど、それがあるせいで余計なことを考えてしまって……」
「うんうん。自分が既読付けた後も返しの文章を考えるのに時間かかったら悪いなぁと思うし……」
「……ふふっ」
「岸本さん?」
「産賀くん、意外に慎重派なのね」
「あっ!? いや、その……」
しまった。岸本さんの中だと僕は積極的なやつだったんだ。如何にもLINE下手なやつの話を聞かせてどうする。しかし、こればっかりは僕も正解がわからないから……
「だったら……これからは産賀くんに用事がなくても、何となくLINEしてもいい……かしら?」
「えっ? う、うん、それはもちろん。僕も……遠慮せず連絡する。本の感想とか」
何だろう。今日の岸本さんも教室で会った時みたいに部室じゃない場所にいるせいか、ちょっと違う感じがしてしまう。会話の内容的には特に変わっていないのに。
「と、ところで、岸本さんは今日までのテストはどんな感じ?」
「わたしは……」
それから暫くランチタイムを楽しんだ後、自習室で岸本さんの質問を聞きつつ、テスト勉強を進めた。頼られるから見栄を張りそうになってしまうけど、岸本さんの前でも僕は友達として僕らしくいるべきだとちょっとだけ思った日だった。
「りょーちゃん、帰るかー」
そして、テストが終わって、松永に呼ばれた僕は帰る準備を終えて教室を出た。
「あれ? 岸本さん?」
すると、廊下を出てすぐに岸本さんがいた。1組のはずの岸本さんが4組の前にいるのは珍しいことだけど、僕はその理由がすぐにピンと来なかった。
「産賀くんと……えっと、松永さん、こんにちは」
「あー、文芸部の岸本さん。もしかして、りょーちゃんに用事?」
「えっ? 僕に?」
「4組に他の知り合いいるかわかんないけど、そうじゃなかったらりょーちゃんでしょ」
松永に言われて、僕はようやくそこに気が付いた。そして、岸本さんのことをちょっとだけ知っている僕からすると、待ち人は確実に僕ということがわかる。
松永の言葉が終わった後に、岸本さんは恐る恐る口を開く。
「そ、そうなのだけど……松永さんと用事があるなら」
「いやいや、俺はもう帰るだけだから。じゃあ、りょーちゃん、また明日……じゃなくて、月曜日!」
ウインクしながらそう言い残して松永は去って行った。松永がどういう意図でウインクしたのかはわからないけど、相変わらず空気を読んでもらって申し訳ない。
「それで、岸本さん。僕に用事って?」
「それは……数Ⅰのテストは来週の月曜日にあるから……もしよかったら一緒に勉強をしたいと思って」
「なるほどね。岸本さん、お昼は?」
「持って来てる……って、ああ!? そうだった……産賀くんのお昼のこと考えてなかった……」
「今日はコンビニで買って帰る予定だったから全然大丈夫。じゃあ、自習室で待ってて。一旦、お昼確保してくるから」
予想外のお誘いだったけど、岸本さんから来てくれたなら断る理由はない。急いで一番近いコンビニまで行って往復10分ほどで学校に戻り、自習室まで行くと、扉の前で岸本さんが待っていた。
「産賀くん、お昼は自習室で食べられないみたいだから……」
「そういえばそうか。えっと……中庭で食べる?」
「産賀くんがいいなら、それで」
そのままの流れで中庭の座れそうな場所に二人並んでお昼を食べ始めた……あれ? なんだこの状況。一緒に勉強する話だったのに、何で岸本さんと並んでご飯を食べてるんだ?
「外まで買いに行かせて、本当にごめんなさい。わたし、いつも自分のことばかり考えて……」
「ぜ、全然そんなことないよ!」
「産賀くん?」
何を動揺しているのか、声がちょっと上ずってしまった。いかんいかん。岸本さんとはいつも話しているじゃないか。雰囲気で緊張してはいけない。
「で、でも、一緒に勉強したかったならLINEで連絡してくれれば良かったのに」
「あっ……そ、そうよね。LINEすればよかったのよね」
「遠慮しなくても何かあったら連絡してくれればいいから」
「……産賀くん、それについてなのだけれど」
「うん? それって、LINEのこと?」
「ええ。その……産賀くんからも最初の挨拶以降は連絡が来なかったから、あまり連絡するのはどうかと思っていて……」
「そ、そうだっけ?」
自分で言っておきながら僕から岸本さんへの連絡も口頭ばかりだったことを思い出す。元々、僕がLINEを送りまくるタイプじゃないし、岸本さんはLINEに関してはあまり詳しくないみたいだからそれで今日も連絡する発想にならなかったんだ。
「それにLINEを送るタイミングってどうにもわからなくて……今週はテストだったから特に連絡が邪魔になったらと考えてたと思うからどちらにせよ送れなかったと思うわ」
「別に絶対見なきゃいけないものでもないから送るだけなら……って言いたいところだけど、僕もその気持ちはわかるよ。相手の方で既読付かないと気になっちゃうし」
「産賀くんも? 確かに既読は便利なシステムだと思うのだけれど、それがあるせいで余計なことを考えてしまって……」
「うんうん。自分が既読付けた後も返しの文章を考えるのに時間かかったら悪いなぁと思うし……」
「……ふふっ」
「岸本さん?」
「産賀くん、意外に慎重派なのね」
「あっ!? いや、その……」
しまった。岸本さんの中だと僕は積極的なやつだったんだ。如何にもLINE下手なやつの話を聞かせてどうする。しかし、こればっかりは僕も正解がわからないから……
「だったら……これからは産賀くんに用事がなくても、何となくLINEしてもいい……かしら?」
「えっ? う、うん、それはもちろん。僕も……遠慮せず連絡する。本の感想とか」
何だろう。今日の岸本さんも教室で会った時みたいに部室じゃない場所にいるせいか、ちょっと違う感じがしてしまう。会話の内容的には特に変わっていないのに。
「と、ところで、岸本さんは今日までのテストはどんな感じ?」
「わたしは……」
それから暫くランチタイムを楽しんだ後、自習室で岸本さんの質問を聞きつつ、テスト勉強を進めた。頼られるから見栄を張りそうになってしまうけど、岸本さんの前でも僕は友達として僕らしくいるべきだとちょっとだけ思った日だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
色づく世界の端っこで
星夜るな
青春
両親に捨てられた過去を持つ少年が、高校生になったときある部活に引き込まれる。そこから少年の世界は色づく。ことを描いた作品です。(制作の過程で内容が変わる場合があります。)
また、話のタイトルの番号がありますが、書いた順番です。
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
岩にくだけて散らないで
葉方萌生
青春
風間凛は父親の転勤に伴い、高知県竜太刀高校にやってきた。直前に幼なじみの峻から告白されたことをずっと心に抱え、ぽっかりと穴が開いた状態。クラスにもなじめるか不安な中、話しかけてきたのは吉原蓮だった。
蓮は凛の容姿に惹かれ、映像研究会に誘い、モデルとして活動してほしいと頼み込む。やりたいことがなく、新しい環境になじめるか不安だった凛は吉原の求めに応じ、映像研究会に入るが——。
武田慎吾の災難
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【純情一途男子、武田慎吾のある日のお話】
『花霞に降る、キミの唇。』のスピンオフです。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる