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1年生1学期
6月18日(金)雨 清水夢愛との時間その7/ソフィアと藤原その3
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気が付くと金曜日。今日も部室へ向かうため、2階の廊下を歩いている時だった。
(あれは……)
珍しく部室へ着く前に藤原先輩を見つけた。普段は失礼ながらいつの間にか部室にいる印象だけに廊下で会うとちょっと驚く。でも、もっと驚くべきは、その隣にいる人物だ。それは文芸部の先輩の誰でもなく……清水先輩だった。
話しかけるべきか悩んでいると、急に清水先輩が僕のいる方を向く。
「おお、良助! やっぱり正解だった」
どうやら目的は僕であるらしい。よく見ると怯えているっぽい藤原先輩を助けるためにも僕は二人のところまで行く。
「清水先輩、どうしたんですか?」
「いや、昨日、小織がパン代を返したと言っていたから私もお礼をしないと思ってな」
「いえいえ。お代はきっちり貰ったのでもう大丈夫です。それより、清水先輩と藤原先輩はなぜ――」
「それがな。私はどうせ良助にはいつか会えるだろうからパン代はその時でいいと言ったのだが、小織は早めにしないと駄目だと言って、とりあえずお金を徴収されたんだ」
「は、はぁ。それが?」
「そしたら小織が思ったよりも早く良助のクラスを突き止めてしまって、なんか悔しいから私も良助を探そうと思った」
「その動機で探すんですか……」
「それで、そういえば同じクラスに文芸部がいたことを今日思い付いたから、この古川くんに付いて行けば会えると踏んで、見事正解したわけだ」
「清水先輩、古川じゃなくて藤原です。藤原先輩、なんか巻き込んですみません……」
結果、珍しい組み合わせは僕のせいだった。まさかパン1個あげただけで、昨日の桜庭先輩も含めてこんな事態になるとは思わない。
すると、藤原先輩は僕の方へ近づく。
「……いや……一緒に待つのは……引き受けたことだから……別に迷惑はしてない」
「だそうだ。良かったな、良助」
「清水先輩が言う台詞じゃないです。それにしても藤原先輩と清水先輩が同じクラスだったなんて……」
「そんなに意外か?」
「いえ、自分の世間は狭いなぁと思っただけです」
「確かに小織の方が先に見つけたからな」
繰り返し言うのは本当に悔しかったからだろうか。そもそも桜庭先輩が見つけたのなら教えて貰えばいいのに……と思ったけど、桜庭先輩が教えてくれなかった可能性が高そうだ。昨日の桜庭先輩の言い様からして、僕は桜庭先輩から……
「あっ、シュウ! 遅いと思ったらこんなとことで……って、その子は!?」
そんなことを考えていると、いつの間にかソフィア先輩が来ていた。そして、清水先輩を見るや否や微妙な表情をする。
「んん? 私はキミを知らないんだが、どこかで会ったかな?」
「そういうわけじゃないけど……とにかく、シュウとウーブ君、早く部活行くよ」
ソフィア先輩が僕と藤原先輩を引っ張るので、ポカンとする清水先輩を置いて僕らはその場を去って行く。
それから部室の前に到着すると、ソフィア先輩は僕らを解放して……詰め寄る。
「はぁ……全く二人とも何してたの!?」
「何と言われると……僕を探していた清水先輩に藤原先輩が巻き込まれた感じです」
「まず、ウーブ君とあの子が知り合いなのがびっくりだけど……それはいい」
「ソフィア先輩、怒っているみたいですけど、何かあったんで――」
「あったもなにもないよ! 二人とも鼻の下伸ばしちゃって!」
全然予想してなかった怒りに僕と藤原先輩は顔を見合わせる。
「いやいや、僕らは別にそんなことは……」
「ソフィア、知ってるよ! あの子は男子の間でウワサされてるナントカ美人さんだって!」
「それは僕も聞いたことはあるんですけど……実際どうなんですか、藤原先輩」
「…………」
「シュウ、黙ってないで、ちゃんと言って」
今のは黙ってたんだ、と思いながら僕は二人のにらめっこを少し距離を置いて見る。そんな余裕があるのは今回の怒りの矛先は僕に向けられたものじゃなく、藤原先輩の方がターゲットに向いている気がしたからだ。
「……その話は……今の2年の間で……主に運動部とかが言い出してるやつだから……」
「それでシュウは話しかけられて嬉しかったんだ?」
「……いや……そういうわけではなく……」
「そういうわけじゃないって、じゃあ、どういうわけ!?」
「……別に」
「なによ!?」
「……ソフィアは……ソフィアで魅力的な部分があると思う……から」
その言葉に勢いのあったソフィア先輩は急に止まる。えっ? 藤原先輩、今とんでもない台詞を言ってないか? これ、僕がこの場にいちゃいけない感じのやつでは?
「それって……」
「……たぶん……他の男子も……そう思ってる人は……いるよ」
「……あ~、そういうことね! ……世間一般の意見みたいな?」
「……うん」
「そっかそっか~ ……ごめんね、急に変なこと言って怒って。シュウは巻き込まれだけだったのに」
「……大丈夫……気にしてない」
「じゃ、じゃあ、部室入ろっか」
「……うん」
何とも言えない空気で部室へ入って行く二人の後を僕は追っていく。何を見せられたのかわからないけど……もしかして、そういうことなのか!? マジで!?
「産賀くん? ソワソワしている気がするのだけれど、どうしたの?」
「ううん! 何でもない!」
岸本さんに察さられるほど浮ついていたようだけど、確実じゃないことは口外しないようにしよう。
(あれは……)
珍しく部室へ着く前に藤原先輩を見つけた。普段は失礼ながらいつの間にか部室にいる印象だけに廊下で会うとちょっと驚く。でも、もっと驚くべきは、その隣にいる人物だ。それは文芸部の先輩の誰でもなく……清水先輩だった。
話しかけるべきか悩んでいると、急に清水先輩が僕のいる方を向く。
「おお、良助! やっぱり正解だった」
どうやら目的は僕であるらしい。よく見ると怯えているっぽい藤原先輩を助けるためにも僕は二人のところまで行く。
「清水先輩、どうしたんですか?」
「いや、昨日、小織がパン代を返したと言っていたから私もお礼をしないと思ってな」
「いえいえ。お代はきっちり貰ったのでもう大丈夫です。それより、清水先輩と藤原先輩はなぜ――」
「それがな。私はどうせ良助にはいつか会えるだろうからパン代はその時でいいと言ったのだが、小織は早めにしないと駄目だと言って、とりあえずお金を徴収されたんだ」
「は、はぁ。それが?」
「そしたら小織が思ったよりも早く良助のクラスを突き止めてしまって、なんか悔しいから私も良助を探そうと思った」
「その動機で探すんですか……」
「それで、そういえば同じクラスに文芸部がいたことを今日思い付いたから、この古川くんに付いて行けば会えると踏んで、見事正解したわけだ」
「清水先輩、古川じゃなくて藤原です。藤原先輩、なんか巻き込んですみません……」
結果、珍しい組み合わせは僕のせいだった。まさかパン1個あげただけで、昨日の桜庭先輩も含めてこんな事態になるとは思わない。
すると、藤原先輩は僕の方へ近づく。
「……いや……一緒に待つのは……引き受けたことだから……別に迷惑はしてない」
「だそうだ。良かったな、良助」
「清水先輩が言う台詞じゃないです。それにしても藤原先輩と清水先輩が同じクラスだったなんて……」
「そんなに意外か?」
「いえ、自分の世間は狭いなぁと思っただけです」
「確かに小織の方が先に見つけたからな」
繰り返し言うのは本当に悔しかったからだろうか。そもそも桜庭先輩が見つけたのなら教えて貰えばいいのに……と思ったけど、桜庭先輩が教えてくれなかった可能性が高そうだ。昨日の桜庭先輩の言い様からして、僕は桜庭先輩から……
「あっ、シュウ! 遅いと思ったらこんなとことで……って、その子は!?」
そんなことを考えていると、いつの間にかソフィア先輩が来ていた。そして、清水先輩を見るや否や微妙な表情をする。
「んん? 私はキミを知らないんだが、どこかで会ったかな?」
「そういうわけじゃないけど……とにかく、シュウとウーブ君、早く部活行くよ」
ソフィア先輩が僕と藤原先輩を引っ張るので、ポカンとする清水先輩を置いて僕らはその場を去って行く。
それから部室の前に到着すると、ソフィア先輩は僕らを解放して……詰め寄る。
「はぁ……全く二人とも何してたの!?」
「何と言われると……僕を探していた清水先輩に藤原先輩が巻き込まれた感じです」
「まず、ウーブ君とあの子が知り合いなのがびっくりだけど……それはいい」
「ソフィア先輩、怒っているみたいですけど、何かあったんで――」
「あったもなにもないよ! 二人とも鼻の下伸ばしちゃって!」
全然予想してなかった怒りに僕と藤原先輩は顔を見合わせる。
「いやいや、僕らは別にそんなことは……」
「ソフィア、知ってるよ! あの子は男子の間でウワサされてるナントカ美人さんだって!」
「それは僕も聞いたことはあるんですけど……実際どうなんですか、藤原先輩」
「…………」
「シュウ、黙ってないで、ちゃんと言って」
今のは黙ってたんだ、と思いながら僕は二人のにらめっこを少し距離を置いて見る。そんな余裕があるのは今回の怒りの矛先は僕に向けられたものじゃなく、藤原先輩の方がターゲットに向いている気がしたからだ。
「……その話は……今の2年の間で……主に運動部とかが言い出してるやつだから……」
「それでシュウは話しかけられて嬉しかったんだ?」
「……いや……そういうわけではなく……」
「そういうわけじゃないって、じゃあ、どういうわけ!?」
「……別に」
「なによ!?」
「……ソフィアは……ソフィアで魅力的な部分があると思う……から」
その言葉に勢いのあったソフィア先輩は急に止まる。えっ? 藤原先輩、今とんでもない台詞を言ってないか? これ、僕がこの場にいちゃいけない感じのやつでは?
「それって……」
「……たぶん……他の男子も……そう思ってる人は……いるよ」
「……あ~、そういうことね! ……世間一般の意見みたいな?」
「……うん」
「そっかそっか~ ……ごめんね、急に変なこと言って怒って。シュウは巻き込まれだけだったのに」
「……大丈夫……気にしてない」
「じゃ、じゃあ、部室入ろっか」
「……うん」
何とも言えない空気で部室へ入って行く二人の後を僕は追っていく。何を見せられたのかわからないけど……もしかして、そういうことなのか!? マジで!?
「産賀くん? ソワソワしている気がするのだけれど、どうしたの?」
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