71 / 942
1年生1学期
6月13日(日)雨のち曇り 明莉との日常その10
しおりを挟む
「お兄ちゃん、ちょっと」
それは午後1時を過ぎた頃。居間でくつろいでいた僕に明莉が呼びかけてきた。
「どうしたの?」
「今日、ちゆりんが遊びに来るから」
ちゆりん……というのは明莉の同級生かつ同じバドミントン部の部員である原田千由美さんのことだ。中学からの友達のようで時々我が家へ遊びに来ている。
そして、遊ぶ時は明莉の部屋か居間が活動場所になるので、僕は遠回しにここからの退去を求められているのだ。これがもっと大人数だった場合は何となく居心地が悪いので外に出かけることもあるけど、一人くらいなら自分の部屋で待機することになる。
「わかった。何時くらいに来るの?」
「……もう来てる」
「こんちわーっす! あか兄さん!」
元気よく飛び出てきた原田さんに僕は思わず「わっ!?」と驚いてしまう。
「やったぁー! ドッキリ成功だぜ、あかち~」
「もー、お兄ちゃん脅かしても何もなんないのにー」
「いやいや、あか兄さんのナイスなリアクションが見れたじゃん!」
自分の家ながら死角から驚かされるとは一生の不覚だ。明莉に負けず劣らずテンションが高い原田さんは肌の焼けていることから元々スポーツ少女なのだろうけど、僕が原田さんと会うのはここだけだからそのポテンシャルはこういうよくわからない動きでしか見たことがない。
「まぁ、ゆっくりしていってよ。それじゃ……」
「あー!? 待ってください、あか兄さん! あたし、今日はあか兄さんにちょっと聞きたい話しがあるんですよ」
「聞きたい話? 僕に?」
「はい! 実はあたし、高校は東にしようと思ってるんです! だから、今現在通ってるあか兄さんにいろいろ聞きたいと思って」
「なるほどね。もう進路考えてるなんて偉いなぁ」
「えへへー♪ あかち、褒められちゃった」
「もう、お兄ちゃん何甘やかしるの」
別に甘やかしたのではなく、本気で感心したのに、明莉は微妙な表情で見てくる。まぁ、自分の兄が友達と絡むのを良しとしない気持ちはわからなくはない。でも、わりと大事な話だし、原田さんのためにも答えなければ。
ひとまずテーブルを囲んで座ると、原田さんの質問が始まる。
「えっとですね、まずは……学校の雰囲気ってどうですか?」
「雰囲気は……結構平和だよ。男女比も僕らの代は半々くらいで、やんちゃな人もそんなにはいないから」
「ほへー やっぱり進学校だしなー 勉強のレベルはだいたい知ってるんですけど、あか兄さんは中学の時はいつから勉強してました?」
「僕は3年始まってからだよ。2年の終わりごろに何となく決めてて……とはいってもそれなりにやっただけかな。推薦枠もあったけど、そこで受かってたのはずっと学年で優秀な人だった」
「ふむふむ。でも、あか兄さんも勉強できるんでしょ? あかちも一緒に勉強してるって……」
「もう、それはいいでしょ、ちゆりん」
そんな話をしているとは初耳だ。原田さんとはちょっと話したことはあったけど、明莉とどういう話をしているかは原田さんからも明莉からも教えられたことがなかった。
「いいなー わたしもテスト期間中、あかち家に勉強しに来ようかなー?」
「別にちゆりんも成績悪くないでしょ」
「でも、あかちの方が頭いいし……あっ、あか兄さん、あかちも今のところ同じ高校行くつもりらしいですよ」
「ちょっ!? ちゆりん!?」
「ははーん、妙に関係なさそうな態度してると思ったらやっぱり言ってなかったんだ?」
「それは……まだ考え中だったし」
またも初耳だった。そうか、明莉もそういうことを考え始める時期になっていたのか。
「お兄ちゃん、何しみじみした顔してるの」
「いや、なんかその……明莉も聞きたいことあったら聞いてもいいぞ?」
「別にないもん。いつもりょうちゃんが話してる限りじゃ普通の――はっ!?」
自分の言い間違い……と言うよりいつも通りの呼び方が出てしまったことに明莉は気付く。もちろん、それを原田さんが聞き逃すはずもなく……
「あかち!? 今なんて!? りょうちゃん? 確か、良助さんだから……えっ!? そんな呼び方!?」
「ち、違うの! これは小さい頃の癖が……」
「そんなこと言って~ そもそも”お兄ちゃん”って呼んでるのが既にかわいいし~」
「うぅ……かわいいって……こら、りょうちゃんはなんでニヤニヤしてるの!」
それはいつもと違う明莉の表情が見えて何だか楽しいからだ。僕だと妹をタジタジにすることは絶対にできない。
「あかりのことはいいから高校の話するんでしょ! こうなったらあかりも入試で出そうなとことか、いろいろ聞いてやる!」
「あたしも! りょうちゃん兄さん、面接とかどうでした?」
「何でちゆりんが、りょうちゃん呼びしてるの!?」
「まぁまぁ、細かいことは気にしないで!」
それからは高校の話や僕ら兄妹の話で盛り上がった。僕は途中で抜けたけど、その日の居間はずっと騒がしい感じだったから、その後もガールズトークが繰り広げられたのだろう。明莉の志望と原田さんの対明莉スキルを見聞きできる日だった。
それは午後1時を過ぎた頃。居間でくつろいでいた僕に明莉が呼びかけてきた。
「どうしたの?」
「今日、ちゆりんが遊びに来るから」
ちゆりん……というのは明莉の同級生かつ同じバドミントン部の部員である原田千由美さんのことだ。中学からの友達のようで時々我が家へ遊びに来ている。
そして、遊ぶ時は明莉の部屋か居間が活動場所になるので、僕は遠回しにここからの退去を求められているのだ。これがもっと大人数だった場合は何となく居心地が悪いので外に出かけることもあるけど、一人くらいなら自分の部屋で待機することになる。
「わかった。何時くらいに来るの?」
「……もう来てる」
「こんちわーっす! あか兄さん!」
元気よく飛び出てきた原田さんに僕は思わず「わっ!?」と驚いてしまう。
「やったぁー! ドッキリ成功だぜ、あかち~」
「もー、お兄ちゃん脅かしても何もなんないのにー」
「いやいや、あか兄さんのナイスなリアクションが見れたじゃん!」
自分の家ながら死角から驚かされるとは一生の不覚だ。明莉に負けず劣らずテンションが高い原田さんは肌の焼けていることから元々スポーツ少女なのだろうけど、僕が原田さんと会うのはここだけだからそのポテンシャルはこういうよくわからない動きでしか見たことがない。
「まぁ、ゆっくりしていってよ。それじゃ……」
「あー!? 待ってください、あか兄さん! あたし、今日はあか兄さんにちょっと聞きたい話しがあるんですよ」
「聞きたい話? 僕に?」
「はい! 実はあたし、高校は東にしようと思ってるんです! だから、今現在通ってるあか兄さんにいろいろ聞きたいと思って」
「なるほどね。もう進路考えてるなんて偉いなぁ」
「えへへー♪ あかち、褒められちゃった」
「もう、お兄ちゃん何甘やかしるの」
別に甘やかしたのではなく、本気で感心したのに、明莉は微妙な表情で見てくる。まぁ、自分の兄が友達と絡むのを良しとしない気持ちはわからなくはない。でも、わりと大事な話だし、原田さんのためにも答えなければ。
ひとまずテーブルを囲んで座ると、原田さんの質問が始まる。
「えっとですね、まずは……学校の雰囲気ってどうですか?」
「雰囲気は……結構平和だよ。男女比も僕らの代は半々くらいで、やんちゃな人もそんなにはいないから」
「ほへー やっぱり進学校だしなー 勉強のレベルはだいたい知ってるんですけど、あか兄さんは中学の時はいつから勉強してました?」
「僕は3年始まってからだよ。2年の終わりごろに何となく決めてて……とはいってもそれなりにやっただけかな。推薦枠もあったけど、そこで受かってたのはずっと学年で優秀な人だった」
「ふむふむ。でも、あか兄さんも勉強できるんでしょ? あかちも一緒に勉強してるって……」
「もう、それはいいでしょ、ちゆりん」
そんな話をしているとは初耳だ。原田さんとはちょっと話したことはあったけど、明莉とどういう話をしているかは原田さんからも明莉からも教えられたことがなかった。
「いいなー わたしもテスト期間中、あかち家に勉強しに来ようかなー?」
「別にちゆりんも成績悪くないでしょ」
「でも、あかちの方が頭いいし……あっ、あか兄さん、あかちも今のところ同じ高校行くつもりらしいですよ」
「ちょっ!? ちゆりん!?」
「ははーん、妙に関係なさそうな態度してると思ったらやっぱり言ってなかったんだ?」
「それは……まだ考え中だったし」
またも初耳だった。そうか、明莉もそういうことを考え始める時期になっていたのか。
「お兄ちゃん、何しみじみした顔してるの」
「いや、なんかその……明莉も聞きたいことあったら聞いてもいいぞ?」
「別にないもん。いつもりょうちゃんが話してる限りじゃ普通の――はっ!?」
自分の言い間違い……と言うよりいつも通りの呼び方が出てしまったことに明莉は気付く。もちろん、それを原田さんが聞き逃すはずもなく……
「あかち!? 今なんて!? りょうちゃん? 確か、良助さんだから……えっ!? そんな呼び方!?」
「ち、違うの! これは小さい頃の癖が……」
「そんなこと言って~ そもそも”お兄ちゃん”って呼んでるのが既にかわいいし~」
「うぅ……かわいいって……こら、りょうちゃんはなんでニヤニヤしてるの!」
それはいつもと違う明莉の表情が見えて何だか楽しいからだ。僕だと妹をタジタジにすることは絶対にできない。
「あかりのことはいいから高校の話するんでしょ! こうなったらあかりも入試で出そうなとことか、いろいろ聞いてやる!」
「あたしも! りょうちゃん兄さん、面接とかどうでした?」
「何でちゆりんが、りょうちゃん呼びしてるの!?」
「まぁまぁ、細かいことは気にしないで!」
それからは高校の話や僕ら兄妹の話で盛り上がった。僕は途中で抜けたけど、その日の居間はずっと騒がしい感じだったから、その後もガールズトークが繰り広げられたのだろう。明莉の志望と原田さんの対明莉スキルを見聞きできる日だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる