64 / 942
1年生1学期
6月6日(日)晴れ時々曇り 明莉との日常その9
しおりを挟む
日曜日。大山さんとのテスト勝負に敗北した僕は妹である明莉の写真を撮ってくることになっていた。特にお金もかからず、僕が恥ずかしい思いをする必要がないお願いだったので、サクッと終わらせられるもので助かった……と思っていた。
「明莉、写真1枚撮っていいか?」
「チェキ1枚につき、1500円。サイン付きで2500円になります」
「えっ、チェキってそんな値段するのか」
「ううん。アイドルの詳しいことは知らないからテキトー言った」
軽い小ボケから始まった明莉との会話はいつも通りだけど、すんなり撮らせてくれる流れじゃなかった。流石に目的を言わずに撮るのは良くない。
「実は友達が明莉のこと見たいって言うんだけど、僕のスマホには明莉の写真がなくて……」
「そうなんだ? あかりのスマホにはりょうちゃんの写真あるよ」
「ん? 写真なんか撮られたかな?」
「ほら、これとか」
明莉が見せてきたのは車内でだらしない顔のまま寝ている僕の写真だった。
「なんだそれ!?」
「これは確か去年の年末に京都のおじいちゃんおばあちゃん家へ行った時の……」
「いや、そうじゃなくて。どうして勝手に撮ってるんだ」
「ほら、寝顔ってなんか撮りたくならない?」
まぁ、わからんでも……いやいや、わかっちゃ駄目だ。誰でもすぐ写真が撮れるからこそ、そういう勝手に撮っていいかなという感情は自制しないと。
「兄妹だからいいけど、せめて撮った報告をしてくれ……」
「撮ってました!」
「了解した。それで明莉の写真は……」
「えー いくらあかりが可愛いからって見ず知らずのりょうちゃんの友達に顔を見せるのはなぁ」
僕のことを勝手に撮っておきながらよく言える台詞ではあるけど、昨今はそういうリスクに敏感なくらいがちょうどいいのかもしれない。でも、今回の場合はそれだと僕が困る。
「そこを何とか。写真あげるとかじゃなくて見せるだけだから」
「うーん……そもそもどんな男子が見たいの、あかりの顔」
「いや、男子じゃなくて女子」
「……ええええええっ!? りょうちゃん、女子の友達なんていたの!?」
今年最大級の驚きで返されてしまった。
「別にいるよ、女子の友達の一人や二人くらい」
「二人もいるの!?」
「先輩を含めると、もうちょっといる」
「先輩はノーカンでしょ。でも、それならしょうがないな~ 明莉が一皮脱いであげますかぁ」
ニヤニヤする明莉は恐らく多大な勘違いをしている。あと、皮は脱がないでくれ。
「ちょっと準備するから待ってて!」
「準備って何?」
「写真撮るんだったらいい恰好しなきゃいけないの! 女の子にはいろいろあるんだから!」
それはおっしゃる通りと思って暫く待った……30分くらい。お願いする立場だから何も言えないけど、そんなに気合いが必要なのか。たぶん、大山さんが見たいのはナチュラルな妹像だと思うんだけど。
そして、着替えやら何やらを終えた明莉は完全によそ行きの状態になっていた。
「それでどういう感じで撮る? 全体像? 自撮り風?」
「あー……どういうのがいいんだろう。明莉的にはどう?」
「まぁ、人に見せるってなるとやっぱ自撮りかな~」
「へー じゃあ、任せていいか?」
「おっけー」
明莉にスマホを手渡すと、慣れた手つきで操作して、僕の傍に寄って写真を……
「ちょっと待った! 僕まで写ってないか!?」
「えっ? りょうちゃんも写っておかなきゃダメでしょ」
「ど、どうして?」
「だって、りょうちゃんいないと見ず知らずの女の子の写真持ってきたと思われない?」
言われてみれば確かに……そうか? そこまでして虚構の妹を見せたがるだろうか? でも、こういう写真に関しては明莉の方が詳しいから素直に従っておこう。
「それじゃ、撮るよ~ はい、撮れた!」
「えっ!? はい、チーズとか合図は!?」
「チーズなんて恥ずかしいから言わないでしょ。それより一旦写真こっちに送ってね。いろいろいい感じに加工しとくから」
「へ? ああ、うん。ありがとう」
流されるがまま明莉の言う通りしていくと、数分のうちにいい感じに加工された(僕にはどの辺がいいかわからない)写真がスマホに送られてきた。
「りょうちゃん、今回は無料キャンペーンにしとくから、何か面白い感想貰えたら教えてね!」
そう言い残して自分の部屋へ明莉は着替えに戻っていた。
なぜだろう。頼んで撮らせて貰った側なのに、僕の方がどっと疲れた。意外に知らない妹の写真事情を知った日だった。
「明莉、写真1枚撮っていいか?」
「チェキ1枚につき、1500円。サイン付きで2500円になります」
「えっ、チェキってそんな値段するのか」
「ううん。アイドルの詳しいことは知らないからテキトー言った」
軽い小ボケから始まった明莉との会話はいつも通りだけど、すんなり撮らせてくれる流れじゃなかった。流石に目的を言わずに撮るのは良くない。
「実は友達が明莉のこと見たいって言うんだけど、僕のスマホには明莉の写真がなくて……」
「そうなんだ? あかりのスマホにはりょうちゃんの写真あるよ」
「ん? 写真なんか撮られたかな?」
「ほら、これとか」
明莉が見せてきたのは車内でだらしない顔のまま寝ている僕の写真だった。
「なんだそれ!?」
「これは確か去年の年末に京都のおじいちゃんおばあちゃん家へ行った時の……」
「いや、そうじゃなくて。どうして勝手に撮ってるんだ」
「ほら、寝顔ってなんか撮りたくならない?」
まぁ、わからんでも……いやいや、わかっちゃ駄目だ。誰でもすぐ写真が撮れるからこそ、そういう勝手に撮っていいかなという感情は自制しないと。
「兄妹だからいいけど、せめて撮った報告をしてくれ……」
「撮ってました!」
「了解した。それで明莉の写真は……」
「えー いくらあかりが可愛いからって見ず知らずのりょうちゃんの友達に顔を見せるのはなぁ」
僕のことを勝手に撮っておきながらよく言える台詞ではあるけど、昨今はそういうリスクに敏感なくらいがちょうどいいのかもしれない。でも、今回の場合はそれだと僕が困る。
「そこを何とか。写真あげるとかじゃなくて見せるだけだから」
「うーん……そもそもどんな男子が見たいの、あかりの顔」
「いや、男子じゃなくて女子」
「……ええええええっ!? りょうちゃん、女子の友達なんていたの!?」
今年最大級の驚きで返されてしまった。
「別にいるよ、女子の友達の一人や二人くらい」
「二人もいるの!?」
「先輩を含めると、もうちょっといる」
「先輩はノーカンでしょ。でも、それならしょうがないな~ 明莉が一皮脱いであげますかぁ」
ニヤニヤする明莉は恐らく多大な勘違いをしている。あと、皮は脱がないでくれ。
「ちょっと準備するから待ってて!」
「準備って何?」
「写真撮るんだったらいい恰好しなきゃいけないの! 女の子にはいろいろあるんだから!」
それはおっしゃる通りと思って暫く待った……30分くらい。お願いする立場だから何も言えないけど、そんなに気合いが必要なのか。たぶん、大山さんが見たいのはナチュラルな妹像だと思うんだけど。
そして、着替えやら何やらを終えた明莉は完全によそ行きの状態になっていた。
「それでどういう感じで撮る? 全体像? 自撮り風?」
「あー……どういうのがいいんだろう。明莉的にはどう?」
「まぁ、人に見せるってなるとやっぱ自撮りかな~」
「へー じゃあ、任せていいか?」
「おっけー」
明莉にスマホを手渡すと、慣れた手つきで操作して、僕の傍に寄って写真を……
「ちょっと待った! 僕まで写ってないか!?」
「えっ? りょうちゃんも写っておかなきゃダメでしょ」
「ど、どうして?」
「だって、りょうちゃんいないと見ず知らずの女の子の写真持ってきたと思われない?」
言われてみれば確かに……そうか? そこまでして虚構の妹を見せたがるだろうか? でも、こういう写真に関しては明莉の方が詳しいから素直に従っておこう。
「それじゃ、撮るよ~ はい、撮れた!」
「えっ!? はい、チーズとか合図は!?」
「チーズなんて恥ずかしいから言わないでしょ。それより一旦写真こっちに送ってね。いろいろいい感じに加工しとくから」
「へ? ああ、うん。ありがとう」
流されるがまま明莉の言う通りしていくと、数分のうちにいい感じに加工された(僕にはどの辺がいいかわからない)写真がスマホに送られてきた。
「りょうちゃん、今回は無料キャンペーンにしとくから、何か面白い感想貰えたら教えてね!」
そう言い残して自分の部屋へ明莉は着替えに戻っていた。
なぜだろう。頼んで撮らせて貰った側なのに、僕の方がどっと疲れた。意外に知らない妹の写真事情を知った日だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる