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1年生1学期

5月31日(月)晴れ 抜き打ちはテストだけじゃない

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 5月最終日。今日からどんどんとテストが返却され始めるので、それが終われば中間テストから完全に解放される。特に僕は大山さんとのテスト勝負があるので、いつも以上に(高校のテストは初めてだけど)点数が気になるところだ。

「あっ、全部返却されてからお互いに発表ね! それまでうぶクンの点数は見ないから!」

 1時間目の現代文のテストが返却された時に大山さんはそう言う。それなら木曜か金曜辺りが決着になりそうだ。ちなみに今日返却された中ではコミュ英語以外は良い点数だし、コミュ英語も及第点だったから僕の方は順調と言える。

 しかし、そんなテスト返却よりも重大なイベントが7時間目のホームルームで起こった。

「テストひと区切りついたし、席替えやるぞー」

 担任の杉岡先生が何の前触れもなく言い始めた席替えにクラスがざわつく。
 
 席替え。それは学校生活の居心地の良さを左右するイベント。入学式の時点で前の席だった人には大きなチャンスだし、いろんな面で今よりも良い席を目指す人には運命の日となる。

「い、いきなりだね……なるべく後ろがいいなぁ……」

 現状で後ろの席である大倉くんにとっては少し都合が悪いようだ。かく言う僕もこの席は窓際で程よく後ろの方なので、言われた瞬間はあまり変わって欲しくないと思ってしまった。

「瑞姫……忘れないでね……」

「あはは! 何で今生の別れ風なの?」

「えー そこはもうちょっと惜しんでくれてもいいじゃーん」

 一方、僕と大倉くんの隣の席である大山さんと栗原さんはそんなに悲観的では無さそうだった。結局のところ、休み時間は仲良くなった人の席に集まるものだから空気を変える意味で席替えそのものを楽しむ人もいるのかもしれない。

「それじゃあ、前のボックスから1列ずつ引いていって貰うぞー 今日は31日だから……この列から」

 教卓の上に手作りした感のあるボックスが置かれ、黒板には用紙が貼られる。引いた数字と席の数字と一致したところが次の席になるようだ。僕と大倉くんの列はクラスの半分が引き終わったところで回ってきた。

(17だから……4列目の真ん中か……)

 僕が引いた席は可もなく不可もなくといった位置だ。

「大倉くんはどこだった?」

「ぼ、ボクは入り口側の一番後ろだった」

「おお。めちゃくちゃ当たり席だ」

 それから全員が引き終わると席の移動が始まる。どうやらこの高校(もしくは杉岡先生)は机の中身を出して本人だけが移動する形式らしい。小中では机ごとの移動でちょっと大変だと思っていたからこっちの方が楽ではあった。

 そして、新たな僕の席に移動すると、安心する背中が目の前に見えた。

「本田くん、今度は僕と近いね」

「ああ。よろしく、良ちゃん」

 ひとまず前の席が話せる人で良かった。一応、クラスの男子と一通り話す機会はあったけど、それでも日常的に話して安心できるのはいつもの3人だ。

「あー!? うぶクン、またじゃん!」

 そんなことを考えていると、いつもは右隣から聞こえた声が、今度は左隣から聞こえてきた。オーバーに驚く大山さんに、僕も内心驚きつつ言う。

「……なんかごめん、大山さん」

「いやいや、別にダメってわけじゃないから! 二連続隣ってすごいって意味!」

「確かに今度は位置が逆だけど、二連続はすごい偶然だ」

「ていうか、もはや運命なんじゃない?」

「う、運命……?」

「うぶクンがアタシにノート見せるための……なーんて♪」

 そっちの運命だった。いや、何もドキドキしていない。くじ引きなんだからやっぱり偶然なだけだ。

「おー 本田も近いじゃん。なんだかんだ同じクラス続くね~」

「……そうだな。よろしく」

 一瞬だけ固まっていた僕をよそに、僕からすれば接点がないと思っていた二人の会話が交わされていた。

「大山さんと本田くんは……」

「おな中だよ~ しかも2・3年からクラスまで同じ」

 そういえば大山さんの出身中学の話は聞いていなかった。入った時は知らない人が多いと思ったけど、いざ知り合っていくと、世間は結構狭いのかもしれない。

「あっ、サキちゃん後ろいたんだ! 前はめっちゃ遠かったからさー」

 移動してから全方位に話してかけていく大山さんはやっぱり間合いの埋め方が上手いのだと思う。ひとまず話せる人が傍にいる環境だったので、結果的には良い席替えだった。
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