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1年生1学期

5月30日(日)晴れ それはともすれば黒歴史と言われるもの

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 今日も引き続き明莉の見張るために居間で過ごす日となった。でも、さすがにテスト目前でふざけるのは難しい踏んだのか、今日の明莉は無駄口が少なめ(ゼロではない)に勉強を始めていた。

 一方の僕は、ある意味で大きな宿題となっている文化祭に向けた文芸部の作品について考えていた。正直なところ、最近は部室に行っても岸本さんや先輩方と喋っているだけで、創作については一ミリも進んでいない。

 だから、この時間を使ってテーマだけでも決めようと考えた。まず、文芸部の冊子に載せるものだからそれほど超大作である必要はない。それに敢えて続きがあるかのように締めるのもアリだからわりとジャンルは縛られない感じだ。

 そう、僕としてはやっぱり小説を書きたいと思っている。俳句や短歌は面白そうではあるけれど、冊子に載せるに値するものが創れるかと言われると正直難しいと思う。それは突き詰めれば小説も同じなんだろうけど、それでも小説ならオチが何となくつけば見られるものにはなるはずだ。

(学園モノは岸本さんと被るし……そもそも書いたことないしなぁ)

 僕が今までの人生で書いたことがある文章は小中学生時代に課題として出された数々の作文と数回やった読書感想文、そして……まぁ、その、設定資料集というか、ファンタジーやメルヘンな世界観というか、そういう感じの自作の文章だ。

 いや、嘘を付いた。設定資料集なんて言うと、僕が動画でよく見るTRPGみたいにきちんとロールして振り分けたものみたいに思われるかもしれないけど、僕が作ったのは「ぼくのかんがえたのぶきおよびもんすたーのせってい」である。

 それは既存のゲーム作品を使ったり、オリジナルで考えたりしたもので、僕の場合はゲームのシナリオとして、主人公やボスキャラクターの配置、道中で発生するイベントを決めて、それらを書き起こした。今の自分が見たらびっくりするくらい、小学校から中学の前半まで自由帳やスケッチブックへ夢中になって文章を書いていたらしい(絵は得意じゃないから脳内)。

 別に誰かに見せたわけではなく、インターネット上にアップしたわけでもないから自分の中で完結した物語。これこそが今のところ一番の創作と言える。

(まぁ、小学校の頃から文章書くのは嫌いじゃなかったし……)

 高校の部活の中で文芸部を見つけた時、ほんのちょっとの興味だったけど、本格的に文章を書いてみるのも悪くないと思った。そもそも書くのが嫌いなら僕は日記を始めようとは思っていない。

 でも、今回の文章は人に見せる文章だ。受験の論文の文章は習ったけど、そういう固いものじゃなく、エンタメとしての文章。そうなると、今まで書いてきたものとはまた違った文章になる。

「難しいなぁ……」

「えっ? りょうちゃん、テスト終わったのに勉強してるの?」

「うーん、確かに勉強しないと駄目かもしれない……」

「ど、どうしちゃったのりょうちゃん」

 まだ時間はあるけど、この堂々巡りから抜け出すにはもう少し時間が必要かもしれない。
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