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1年生1学期
5月28日(金)晴れ 岸本路子との交流その4
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今日から通常授業に戻ってテスト返却が始まる……と思ったけど、さすがにこの日はテスト直後だからどの教科も次の期末テストに向けた範囲に進むだけだった。手書きのテストだと採点は大変だろうし、何より普通の授業も進めなくてはいけないから教師はやっぱり忙しいものだ。
そして、部活動も昨日から解禁されたので、僕は引き続き岸本さんの約束を守って部室へやって来た。
「おー ウーブくんお疲れー……」
「お疲れ様です。森本先輩、さすがに五月病はもう治りましたよね……?」
「これはテスト疲れ病ー」
GW明けと同じく机に伏せていた森本先輩は聞いたことがない病名を言う。部活停止期間で小説を書いていたくらいだからテストも余裕なんだと思っていたけど、そんなことはなかったようだ。「お大事に」と言葉をかけて僕が適当な席に座ろうとすると、
「ウーブ君、ちょっとこっち来て~」
ソフィア先輩が呼んできた。その目の前には岸本さんもいる。
「どうしたんですか?」
「単にウーブ君ともお喋りしようと思って! ソフィアと岸本ちゃんもさっきまで色々話してたし」
その言葉に岸本さんが頷くと、ソフィア先輩は僕にだけ見えるようにウインクした。どうやら先週のお互いに話せなかった問題は円満に解決したらしい。僕が介入しなくてもそのうち解決できそうな問題ではあったけど、早めに距離が縮まって良かった。
「あっ、ウーブ君聞いたよ。岸本ちゃんの作品のために協力してるって。男子生徒のことだからソフィアは答えられないけど……岸本ちゃん、今日は質問はないの?」
「えっ!? えっと……その……」
急に振られた岸本さんはあたふたしていた。まぁ、話せたと言ってもすぐに緊張しなくなるわけじゃないから仕方ない。でも、作品のことを話題に出せたならいい話はできていそうだ。
「そ、それじゃあ、産賀くん。質問してもいいかしら?」
「ああ、今日はあるんだね。大丈夫だよ」
「男子学生の行動についてなのだけれど……男子が好きな女の子をからかうのってどうして?」
「なるほど、好きな……えっ!?」
「わー! ソフィアもそれ気になる!」
ソフィア先輩まで喰いついてきたその質問はよく聞く話ではあるけど、直接聞かれるなんて思ってなかった。
「どうしてと言われても……僕はそういう行動を取ったことがないからわからないかな……」
「そうなんだ……」
ほぼ同じようにがっかりする岸本さんとソフィア先輩。いや、僕がしてそうな風に見えたらそれはどうなんだと思うし、これで逆に経験があったらそれはそれで非難の目で見られる気がする。
しかし、岸本さんは引き下がらず質問を続ける。
「じゃあ、友達がやってるところを見たとかは?」
「それも……どうだろう。あんまり意識して見たことないし、仮にからかっていても好きかどうかまでは……」
「ソフィアはそれらしい人見たことあるよ? なんていうか……男の子の方がアピールしてる感じ?」
女子のソフィア先輩が言うならそれは間違ってないのだろう。僕がその手のセンサーが少し鈍いことを除いても女子の方がよく気付きそうなところだと思う。
「ねぇねぇ、ウーブ君は小学生の時、好きな子いた?」
「ええっ!? な、なんですか急に」
「そういうからかう男子って小中学生の時な気がするから、ウーブ君はその頃どうだったのかな~って」
「でも、それは質問の意図と……」
「わたしも……気になる」
ソフィア先輩の思わぬ舵切りに岸本さんも乗ってくる。この状況はなんだかまずい感じがする。大いに期待の眼差しを向けるソフィア先輩と何かしらの期待で少し前のめりになる岸本さんは、教室でも見るガールズトークの光景だ。その中心になってしまった僕はもう逃げられそうにない。
「そ、それはその……いました」
「きゃー! どんな子? 同級生?」
「同級生……です」
「おー! それでもからかったり、ちょっかい出したりはしてないんだ」
「ええ、まぁ……」
ぐいぐい迫るソフィア先輩に流されて僕は素直に答えてしまう。男子でふざけて言い合うのとは違う、この羞恥心はなんなんだろう。聞かれたところで何かあるわけでもないのに、どんどんと耳が熱くなっているのがわかる。
「じゃあ、その中で初恋は――」
ソフィア先輩が次の質問を言おうとしたその時、僕の体が後ろに引かれた。救世主として現れたのは、(部室内にいたのに気付かなかった)藤原先輩だった。
「……それ以上は……ストップ」
低音ながらも今日は聞こえるくらい大きさの声で藤原先輩はソフィア先輩へそう言う。
「えー!? なんで!? 今いいところなのにー」
「……後輩は……守らなきゃって……」
「それは偉いけど~」
藤原先輩……! なんていい人なんだ。今日挨拶忘れてたのが申し訳ないくらいだ。
「岸本ちゃんも続き気になるよね!? ……岸本ちゃん?」
「い、いえ、わたしは……もう質問したので。十分です」
急に顔を伏せてしまった岸本さんが離脱したことでソフィア先輩の勢いもそこで止まる……と思いきや今度はその矛先を藤原先輩へ向ける。
「じゃあ代わりに……シュウの初恋は?」
「……………………」
「も~! 都合よく黙っちゃって!」
お喋り好きなソフィア先輩に対する藤原先輩はもしかしたらこの文芸部における抑止力なのかもしれない。まぁ、僕の初恋の話はともかく、岸本さんとソフィア先輩がいい関係になったなら、こういう話に巻き込まれるのも悪くなかったと思っておこう。
そして、部活動も昨日から解禁されたので、僕は引き続き岸本さんの約束を守って部室へやって来た。
「おー ウーブくんお疲れー……」
「お疲れ様です。森本先輩、さすがに五月病はもう治りましたよね……?」
「これはテスト疲れ病ー」
GW明けと同じく机に伏せていた森本先輩は聞いたことがない病名を言う。部活停止期間で小説を書いていたくらいだからテストも余裕なんだと思っていたけど、そんなことはなかったようだ。「お大事に」と言葉をかけて僕が適当な席に座ろうとすると、
「ウーブ君、ちょっとこっち来て~」
ソフィア先輩が呼んできた。その目の前には岸本さんもいる。
「どうしたんですか?」
「単にウーブ君ともお喋りしようと思って! ソフィアと岸本ちゃんもさっきまで色々話してたし」
その言葉に岸本さんが頷くと、ソフィア先輩は僕にだけ見えるようにウインクした。どうやら先週のお互いに話せなかった問題は円満に解決したらしい。僕が介入しなくてもそのうち解決できそうな問題ではあったけど、早めに距離が縮まって良かった。
「あっ、ウーブ君聞いたよ。岸本ちゃんの作品のために協力してるって。男子生徒のことだからソフィアは答えられないけど……岸本ちゃん、今日は質問はないの?」
「えっ!? えっと……その……」
急に振られた岸本さんはあたふたしていた。まぁ、話せたと言ってもすぐに緊張しなくなるわけじゃないから仕方ない。でも、作品のことを話題に出せたならいい話はできていそうだ。
「そ、それじゃあ、産賀くん。質問してもいいかしら?」
「ああ、今日はあるんだね。大丈夫だよ」
「男子学生の行動についてなのだけれど……男子が好きな女の子をからかうのってどうして?」
「なるほど、好きな……えっ!?」
「わー! ソフィアもそれ気になる!」
ソフィア先輩まで喰いついてきたその質問はよく聞く話ではあるけど、直接聞かれるなんて思ってなかった。
「どうしてと言われても……僕はそういう行動を取ったことがないからわからないかな……」
「そうなんだ……」
ほぼ同じようにがっかりする岸本さんとソフィア先輩。いや、僕がしてそうな風に見えたらそれはどうなんだと思うし、これで逆に経験があったらそれはそれで非難の目で見られる気がする。
しかし、岸本さんは引き下がらず質問を続ける。
「じゃあ、友達がやってるところを見たとかは?」
「それも……どうだろう。あんまり意識して見たことないし、仮にからかっていても好きかどうかまでは……」
「ソフィアはそれらしい人見たことあるよ? なんていうか……男の子の方がアピールしてる感じ?」
女子のソフィア先輩が言うならそれは間違ってないのだろう。僕がその手のセンサーが少し鈍いことを除いても女子の方がよく気付きそうなところだと思う。
「ねぇねぇ、ウーブ君は小学生の時、好きな子いた?」
「ええっ!? な、なんですか急に」
「そういうからかう男子って小中学生の時な気がするから、ウーブ君はその頃どうだったのかな~って」
「でも、それは質問の意図と……」
「わたしも……気になる」
ソフィア先輩の思わぬ舵切りに岸本さんも乗ってくる。この状況はなんだかまずい感じがする。大いに期待の眼差しを向けるソフィア先輩と何かしらの期待で少し前のめりになる岸本さんは、教室でも見るガールズトークの光景だ。その中心になってしまった僕はもう逃げられそうにない。
「そ、それはその……いました」
「きゃー! どんな子? 同級生?」
「同級生……です」
「おー! それでもからかったり、ちょっかい出したりはしてないんだ」
「ええ、まぁ……」
ぐいぐい迫るソフィア先輩に流されて僕は素直に答えてしまう。男子でふざけて言い合うのとは違う、この羞恥心はなんなんだろう。聞かれたところで何かあるわけでもないのに、どんどんと耳が熱くなっているのがわかる。
「じゃあ、その中で初恋は――」
ソフィア先輩が次の質問を言おうとしたその時、僕の体が後ろに引かれた。救世主として現れたのは、(部室内にいたのに気付かなかった)藤原先輩だった。
「……それ以上は……ストップ」
低音ながらも今日は聞こえるくらい大きさの声で藤原先輩はソフィア先輩へそう言う。
「えー!? なんで!? 今いいところなのにー」
「……後輩は……守らなきゃって……」
「それは偉いけど~」
藤原先輩……! なんていい人なんだ。今日挨拶忘れてたのが申し訳ないくらいだ。
「岸本ちゃんも続き気になるよね!? ……岸本ちゃん?」
「い、いえ、わたしは……もう質問したので。十分です」
急に顔を伏せてしまった岸本さんが離脱したことでソフィア先輩の勢いもそこで止まる……と思いきや今度はその矛先を藤原先輩へ向ける。
「じゃあ代わりに……シュウの初恋は?」
「……………………」
「も~! 都合よく黙っちゃって!」
お喋り好きなソフィア先輩に対する藤原先輩はもしかしたらこの文芸部における抑止力なのかもしれない。まぁ、僕の初恋の話はともかく、岸本さんとソフィア先輩がいい関係になったなら、こういう話に巻き込まれるのも悪くなかったと思っておこう。
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