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1年生1学期
5月18日(火)曇り 岸本路子との交流その3
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今日は普段なら部室へ行く日だけど、テスト前で部活全体が停止している。でも、先週のミーティングでテスト勉強するために部室を使っていいと森本先輩が言っていたから、僕は部室へ向かうことにした。どれくらい人がいるかわからないけど、自分の家よりは周りの雰囲気があって集中できそうだ。
「お疲れ様です」
「おー ウーブくん、お疲れー わざわざ来たってことはテスト勉強?」
そう言って出迎えたのはいつも通り黒板の前に座る森本先輩だ。今日は机にノートパソコンを開いている。
「はい。森本先輩もパソコンで勉強ですか?」
「いやー 小説書いてるー」
「いいんですかそれ……」
「勉強しろって言われる日ほど、別のことがしたくなるものだよー それにこういう日こそアイデア浮かぶこともあるしー」
一応、部活は停止しているのにと思いつつ、注意はできないから適当に相槌を打った。それから部室を見渡すと、岸本さんと先輩方が3人いた。今の会話以外は静寂に包まれながらノートや教科書に向かっているで、森本先輩以外は勉強するために部室を利用しているんだろう。
「ウーブ君~……ちょっとこっち~」
そんな中でソフィア先輩がやや声を抑えながら手招きをしていた。呼ばれるようなことをした覚えはないけど、僕はソフィア先輩の隣に座る。
すると、ソフィア先輩はひそひそと話し始めた。
「ちょっと聞きたいことがあって……」
「聞きたいって、僕は2年のテスト範囲はわかりませんよ?」
「違ーう~……岸本ちゃんのこと」
僕が前の方の席で黙々と勉強している岸本さんを見ると、ソフィア先輩は首を横に振った。どうやら本人に聞ける話題ではないらしい。
「ソフィアね。岸本ちゃんに結構絡んでるつもりなんだけど、なかなか仲良くなれたって感じがしないの。あっ、岸本ちゃんの態度がいけないわけじゃなくて、話しかけると聞いてくれるけど、あんまり自分のこと話してくれなくて……」
「それは……岸本さんが話すより聞く方ってことじゃないんですか?」
「でも、ウーブ君と岸本ちゃんはめちゃくちゃ話してる感じするから……」
「あれは……まぁ、話してはいますけど」
どちらかというと、僕が質問に答えているので、岸本さん自身の話を聞くことはほとんどない。それでも傍から見れば仲良く話してるように見えるのかもしれない。
「だから、ウーブ君にその秘訣を聞こうと思って」
「秘訣って言われても……ソフィア先輩が気にし過ぎてるだけだと思います」
「そうなのかなぁ。うー……ウザ絡みしても良くないしなぁ……」
僕が思っている以上にソフィア先輩にとっては深刻な問題らしい。歓迎会の時も先輩呼びに喜んでいたから特に女子の後輩の岸本さんとは、もっと話し合いたいのだろう。
「……わかりました。絶対とは言えませんが、それとなく岸本さんに聞いてみます」
「本当に……!?」
「僕も藤原先輩と話せたのは先輩方のおかげなので」
「ソフィアは何もしてないけど……でも、ウーブ君、ありがと。今度何かご馳走するね」
僕は「そこまでしなくても大丈夫です」と断りを入れる。しかし、安くはない使命を自分から言い出してしまった。
「そろそろ鍵閉めまーす」
それから2時間ほど経って部室が閉めなければいけない時間になった。部室から出ていく中で、僕は岸本さんに話しかける。
「岸本さん」
「はい……産賀くん? 何か用事?」
「いや、用事ってほどじゃないけど、今日は岸本さんに挨拶してなかったと思って」
「わざわざそれで……?」
そんなに不自然じゃない話しかけ方のつもりだけど、岸本さんは不思議そうな顔をする。あんなことを言っておきながら僕も普通に話しかけるのは部室の前で会った時以来だ。
「うん。今日はテスト勉強どうだった?」
「えっ? どうと言われても、それなりにやったつもりだけれど……」
「へー、僕はコミュ英語やってたけど、あんまり得意じゃないからちょっと不安があってさ」
「そうなんだ。わたしも不安な教科はいっぱいあるけど……とにかくやるしかないから」
「不安な教科かぁ。せっかく先輩方がいるからテストのことちょっと聞いても良かったのかな」
「あれ? 産賀くん……ソフィアさんの隣に座ってたのは別の用事だったの?」
しまった。あの状況なら普通は勉強やテストのことを聞いてる風に見えるやつだった。
「あれは……うん、別の用事。ちょっと頼まれ事をされて引き受けたんだ。ソフィア先輩はお世話になってるし」
「……そうよね。ソフィアさん、いつも場を盛り上げてくれてるから」
いや、これは逆にチャンスかもしれない。話題をソフィア先輩のことに移せそうな感じだ。
「岸本さんはいつもソフィア先輩とどういう話してるの?」
「……質問を質問で返して悪いのだけれど、産賀くんはどういう会話をしてるか教えてくれない?」
「えっ? 僕は……その日目に付いたこととか、学校の話題とか普通のことだよ」
「そうなんだ……」
「岸本さんもソフィア先輩と話してる……よね?」
「わたしは……話しかけて貰っているけれど、その……上手く答えられなくて。別に嫌なわけじゃないの。でも、未だに緊張するところもあって。産賀くん、また質問……というより相談なんだけれど」
「どうしたの?」
「わたしも……そういう、普通の話題を話していいと思う?」
岸本さんは自信なさげに聞いてきた。どうしてそこを遠慮するのだろうという疑問は置いといて、僕は答える。
「ソフィア先輩との話題ってことだよね。全然それでいいというか、普通の話こそして欲しいと思うよ」
「わたしの……クラスの話や授業の話でも?」
「もちろん。僕の話してることだってそういうことばっかりだよ」
「……わかった。わたし、今度ソフィア先輩と話す時はちゃんと話してみるわ」
図らずも岸本さんの相談に乗る形になったけど、ソフィア先輩の悩みも同時に解決へ向かいそうで良かった。
「ありがとう、産賀くん。でも、何でこの話になったのかしら……?」
「まぁまぁ、気にしないで。急に話題が変わるなんてよくあることだから」
「よくある……こと」
「岸本さん?」
「ううん。わたしはこれで」
そう言って岸本さんは足早に去っていった。二人の悩みは単に岸本さんの遠慮から生じたものなんだろうけど、そう思ったのは先輩というのが壁になっているのか、それとも別の理由があるのか。結局は僕も岸本さんをよくわかっていないから、気になってしまうのだった。
「お疲れ様です」
「おー ウーブくん、お疲れー わざわざ来たってことはテスト勉強?」
そう言って出迎えたのはいつも通り黒板の前に座る森本先輩だ。今日は机にノートパソコンを開いている。
「はい。森本先輩もパソコンで勉強ですか?」
「いやー 小説書いてるー」
「いいんですかそれ……」
「勉強しろって言われる日ほど、別のことがしたくなるものだよー それにこういう日こそアイデア浮かぶこともあるしー」
一応、部活は停止しているのにと思いつつ、注意はできないから適当に相槌を打った。それから部室を見渡すと、岸本さんと先輩方が3人いた。今の会話以外は静寂に包まれながらノートや教科書に向かっているで、森本先輩以外は勉強するために部室を利用しているんだろう。
「ウーブ君~……ちょっとこっち~」
そんな中でソフィア先輩がやや声を抑えながら手招きをしていた。呼ばれるようなことをした覚えはないけど、僕はソフィア先輩の隣に座る。
すると、ソフィア先輩はひそひそと話し始めた。
「ちょっと聞きたいことがあって……」
「聞きたいって、僕は2年のテスト範囲はわかりませんよ?」
「違ーう~……岸本ちゃんのこと」
僕が前の方の席で黙々と勉強している岸本さんを見ると、ソフィア先輩は首を横に振った。どうやら本人に聞ける話題ではないらしい。
「ソフィアね。岸本ちゃんに結構絡んでるつもりなんだけど、なかなか仲良くなれたって感じがしないの。あっ、岸本ちゃんの態度がいけないわけじゃなくて、話しかけると聞いてくれるけど、あんまり自分のこと話してくれなくて……」
「それは……岸本さんが話すより聞く方ってことじゃないんですか?」
「でも、ウーブ君と岸本ちゃんはめちゃくちゃ話してる感じするから……」
「あれは……まぁ、話してはいますけど」
どちらかというと、僕が質問に答えているので、岸本さん自身の話を聞くことはほとんどない。それでも傍から見れば仲良く話してるように見えるのかもしれない。
「だから、ウーブ君にその秘訣を聞こうと思って」
「秘訣って言われても……ソフィア先輩が気にし過ぎてるだけだと思います」
「そうなのかなぁ。うー……ウザ絡みしても良くないしなぁ……」
僕が思っている以上にソフィア先輩にとっては深刻な問題らしい。歓迎会の時も先輩呼びに喜んでいたから特に女子の後輩の岸本さんとは、もっと話し合いたいのだろう。
「……わかりました。絶対とは言えませんが、それとなく岸本さんに聞いてみます」
「本当に……!?」
「僕も藤原先輩と話せたのは先輩方のおかげなので」
「ソフィアは何もしてないけど……でも、ウーブ君、ありがと。今度何かご馳走するね」
僕は「そこまでしなくても大丈夫です」と断りを入れる。しかし、安くはない使命を自分から言い出してしまった。
「そろそろ鍵閉めまーす」
それから2時間ほど経って部室が閉めなければいけない時間になった。部室から出ていく中で、僕は岸本さんに話しかける。
「岸本さん」
「はい……産賀くん? 何か用事?」
「いや、用事ってほどじゃないけど、今日は岸本さんに挨拶してなかったと思って」
「わざわざそれで……?」
そんなに不自然じゃない話しかけ方のつもりだけど、岸本さんは不思議そうな顔をする。あんなことを言っておきながら僕も普通に話しかけるのは部室の前で会った時以来だ。
「うん。今日はテスト勉強どうだった?」
「えっ? どうと言われても、それなりにやったつもりだけれど……」
「へー、僕はコミュ英語やってたけど、あんまり得意じゃないからちょっと不安があってさ」
「そうなんだ。わたしも不安な教科はいっぱいあるけど……とにかくやるしかないから」
「不安な教科かぁ。せっかく先輩方がいるからテストのことちょっと聞いても良かったのかな」
「あれ? 産賀くん……ソフィアさんの隣に座ってたのは別の用事だったの?」
しまった。あの状況なら普通は勉強やテストのことを聞いてる風に見えるやつだった。
「あれは……うん、別の用事。ちょっと頼まれ事をされて引き受けたんだ。ソフィア先輩はお世話になってるし」
「……そうよね。ソフィアさん、いつも場を盛り上げてくれてるから」
いや、これは逆にチャンスかもしれない。話題をソフィア先輩のことに移せそうな感じだ。
「岸本さんはいつもソフィア先輩とどういう話してるの?」
「……質問を質問で返して悪いのだけれど、産賀くんはどういう会話をしてるか教えてくれない?」
「えっ? 僕は……その日目に付いたこととか、学校の話題とか普通のことだよ」
「そうなんだ……」
「岸本さんもソフィア先輩と話してる……よね?」
「わたしは……話しかけて貰っているけれど、その……上手く答えられなくて。別に嫌なわけじゃないの。でも、未だに緊張するところもあって。産賀くん、また質問……というより相談なんだけれど」
「どうしたの?」
「わたしも……そういう、普通の話題を話していいと思う?」
岸本さんは自信なさげに聞いてきた。どうしてそこを遠慮するのだろうという疑問は置いといて、僕は答える。
「ソフィア先輩との話題ってことだよね。全然それでいいというか、普通の話こそして欲しいと思うよ」
「わたしの……クラスの話や授業の話でも?」
「もちろん。僕の話してることだってそういうことばっかりだよ」
「……わかった。わたし、今度ソフィア先輩と話す時はちゃんと話してみるわ」
図らずも岸本さんの相談に乗る形になったけど、ソフィア先輩の悩みも同時に解決へ向かいそうで良かった。
「ありがとう、産賀くん。でも、何でこの話になったのかしら……?」
「まぁまぁ、気にしないで。急に話題が変わるなんてよくあることだから」
「よくある……こと」
「岸本さん?」
「ううん。わたしはこれで」
そう言って岸本さんは足早に去っていった。二人の悩みは単に岸本さんの遠慮から生じたものなんだろうけど、そう思ったのは先輩というのが壁になっているのか、それとも別の理由があるのか。結局は僕も岸本さんをよくわかっていないから、気になってしまうのだった。
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