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1年生1学期
4月19日(月)晴れ 学校三大美人(仮)
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高校生活3週目。先週の金曜に文芸部への入部を決めた僕は昼休みに入部届を提出しに行った。
「まぁ、あなたも入ってくれるのね~」
文芸部の顧問は僕ら1年の古典を担当している豊田先生だ。この先生も部の雰囲気と同様にゆったりした感じだったことは授業を受けてわかっていた。
「書類としてはこっちで手続きはあるけど、部活はいつでも行っていいからね~」
「わかりました。火曜はミーティングがあると思うので、明日顔見せしようと思います」
「だったら、あなたも明日来ることをみんなに連絡しておくわ~ 先生も手が空いたら時々は部室に顔を覗かせるから、その時はよろしくお願いね~」
でも、教員は授業とその準備だけでもめちゃくちゃ忙しいと聞くから、ここの文芸部みたいに緩く監督できる部活の方が正しい形なのかもしれない。
「りょーちゃん、提出できた?」
一緒に入部届を出しに来た松永が僕がいる方へやって来た。そのまま職員室を後にした僕と松永はお互いの部活見学について話し始める。松永は宣言通りテニス部に入部することにしたようだ。
「うちのテニス部、そんなに厳しいって感じじゃないけど、県大会行ってる先輩もいるっぽい」
「へー そういう人は部活以外でも練習してるのかな」
「どうなんだろ? まぁ、俺はとりあえず運動不足解消のためって感じだからそれなりやるよ~」
「そういう意識があるだけ偉いと思う」
実際、卓球部でさえ幽霊部員になってしまった僕が毎日テニスなんてしていたら、次の日の授業中はずっと寝ている自信がある。……帰ってから少しは筋トレするべきだろうか。
「あとはテニス楽しいし、先輩もいい人多そうだった」
「文芸部は……まだ部長以外の先輩と話してない」
「俺も全員話したわけじゃないけど……あっ、そうだ。先輩から一つ面白い話を聞いた」
「面白い話?」
「うん、先輩が言うには、この学校には三大美人がいるらしい」
急に胡散臭い単語が出てきたので、僕は顔をしかめてしまった。
「りょーちゃん、顔」
「ごめんごめん。詳しく聞こう」
「その三大美人は、要するに学校中で話題になるレベルの美人なんだって」
「それって、その先輩が思ってるだけじゃないのか?」
「他の先輩もその話にノッてたけど……テニス部内だけの可能性はあるかも」
松永もそこは疑っていたようだ。こういう学園一とか、全校生徒の中でとか言われるやつは漫画やドラマでは定番だけど、実際は短い3年間で学校全体に知れ渡る人なんてそうそういないものだ。せいぜい学年の範囲で特定のグループが噂している程度だろう。
「確か二つ名的なやつもあって、クールビューティーなしらかわさとみ、エキセントリックなしみずゆあ、それから……」
「ちょっと待って! 二人目なんて言った?」
「え? しみずゆあ?」
しかし、その三大美人とやらの一人の名前は、僕が直近で聞いたことがある名前だった。正確に言うと、一昨日の土曜日に図書館で会って聞いてもないのに丁寧に名乗ってくれた、まさしくエキセントリックな人。三大美人でエキセントリックってどういう組み合わせだ。
「その人、清らかな水に夢を愛すると書いて、清水夢愛じゃないよな?」
「あー……漢字までわかんない」
「……そりゃそうか」
「もしかして知り合いだったり?」
「いや……そういうキャラクターが出る小説を読んだだけ」
思わず追及してしまったけど、この世界には同姓同名や同音の名前だってたくさんあるはずだ。
「そんなに美人って言われるんだからいつか会いたいな~」
「うん、まぁ……そのうち会えるといいな」
「おっ、りょーちゃんも乗り気じゃん。今度探しに行く?」
「そこまではしないよ」
そして、僕の印象的にはもう一度会いたいわけじゃないので、とりあえず逆のことを言っておいた。
それから松永の理想の美人像を聞きながら、外見はともかく人の中身はわからないものだぞ、と心の中で思うのだった。
「まぁ、あなたも入ってくれるのね~」
文芸部の顧問は僕ら1年の古典を担当している豊田先生だ。この先生も部の雰囲気と同様にゆったりした感じだったことは授業を受けてわかっていた。
「書類としてはこっちで手続きはあるけど、部活はいつでも行っていいからね~」
「わかりました。火曜はミーティングがあると思うので、明日顔見せしようと思います」
「だったら、あなたも明日来ることをみんなに連絡しておくわ~ 先生も手が空いたら時々は部室に顔を覗かせるから、その時はよろしくお願いね~」
でも、教員は授業とその準備だけでもめちゃくちゃ忙しいと聞くから、ここの文芸部みたいに緩く監督できる部活の方が正しい形なのかもしれない。
「りょーちゃん、提出できた?」
一緒に入部届を出しに来た松永が僕がいる方へやって来た。そのまま職員室を後にした僕と松永はお互いの部活見学について話し始める。松永は宣言通りテニス部に入部することにしたようだ。
「うちのテニス部、そんなに厳しいって感じじゃないけど、県大会行ってる先輩もいるっぽい」
「へー そういう人は部活以外でも練習してるのかな」
「どうなんだろ? まぁ、俺はとりあえず運動不足解消のためって感じだからそれなりやるよ~」
「そういう意識があるだけ偉いと思う」
実際、卓球部でさえ幽霊部員になってしまった僕が毎日テニスなんてしていたら、次の日の授業中はずっと寝ている自信がある。……帰ってから少しは筋トレするべきだろうか。
「あとはテニス楽しいし、先輩もいい人多そうだった」
「文芸部は……まだ部長以外の先輩と話してない」
「俺も全員話したわけじゃないけど……あっ、そうだ。先輩から一つ面白い話を聞いた」
「面白い話?」
「うん、先輩が言うには、この学校には三大美人がいるらしい」
急に胡散臭い単語が出てきたので、僕は顔をしかめてしまった。
「りょーちゃん、顔」
「ごめんごめん。詳しく聞こう」
「その三大美人は、要するに学校中で話題になるレベルの美人なんだって」
「それって、その先輩が思ってるだけじゃないのか?」
「他の先輩もその話にノッてたけど……テニス部内だけの可能性はあるかも」
松永もそこは疑っていたようだ。こういう学園一とか、全校生徒の中でとか言われるやつは漫画やドラマでは定番だけど、実際は短い3年間で学校全体に知れ渡る人なんてそうそういないものだ。せいぜい学年の範囲で特定のグループが噂している程度だろう。
「確か二つ名的なやつもあって、クールビューティーなしらかわさとみ、エキセントリックなしみずゆあ、それから……」
「ちょっと待って! 二人目なんて言った?」
「え? しみずゆあ?」
しかし、その三大美人とやらの一人の名前は、僕が直近で聞いたことがある名前だった。正確に言うと、一昨日の土曜日に図書館で会って聞いてもないのに丁寧に名乗ってくれた、まさしくエキセントリックな人。三大美人でエキセントリックってどういう組み合わせだ。
「その人、清らかな水に夢を愛すると書いて、清水夢愛じゃないよな?」
「あー……漢字までわかんない」
「……そりゃそうか」
「もしかして知り合いだったり?」
「いや……そういうキャラクターが出る小説を読んだだけ」
思わず追及してしまったけど、この世界には同姓同名や同音の名前だってたくさんあるはずだ。
「そんなに美人って言われるんだからいつか会いたいな~」
「うん、まぁ……そのうち会えるといいな」
「おっ、りょーちゃんも乗り気じゃん。今度探しに行く?」
「そこまではしないよ」
そして、僕の印象的にはもう一度会いたいわけじゃないので、とりあえず逆のことを言っておいた。
それから松永の理想の美人像を聞きながら、外見はともかく人の中身はわからないものだぞ、と心の中で思うのだった。
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